卵巣がんの好発年齢は50~60代ですが、10代や20代に多く発症するタイプの卵巣がんもあります。治療はがんのタイプやステージによって異なります。久留米大学病院産婦人科主任教授の牛嶋公生先生に卵巣がんの治療についてお話をうかがいました。
卵巣がんの治療について①
卵巣がんは、発症する場所によって胚細胞性、上皮性、性索間質性などの種類に分類されます。胚細胞性は若い世代の女性に多く発症します。卵巣がんの多くは上皮性で、このタイプは40~60代の中高年に多く発症します。上皮性卵巣がんは、さらに漿液性腺がん、類内膜腺がん、明細胞腺がん、粘液性腺がんの四つの組織型に分類されます。
卵巣がんは40代から増加し好発年齢のピークは50~60代ですが、若い年代で罹患した場合には、妊孕性(にんようせい:妊娠する能力)についても十分に配慮しなければなりません。
治療はまず外科的治療を行いますが、選択に悩むことが多いのが若い年齢層での腺がんです。腺がんの場合には病期が1期までであれば、腫れていない片方の卵巣を温存することが可能ですが、同じ1期でも腫瘤が破れると1c期となり、予後も悪くなってしまいます。また、若い女性に多いのが境界悪性型といわれるタイプのがんです。卵巣腫瘍は全体の75%が良性で、20%が悪性です。また残りの10%は境界悪性型と呼ばれるタイプのもので、30代に多く発症します。ひとつのステップとして、境界悪性腫瘍を経て悪性になるのではないかと考えられています。
境界悪性型は、転移などを起こさないタイプのがんであるため片方の卵巣を残すことは可能ですが、その場合には卵巣外への病変がないか等についてしっかりと確認する必要があります。しかし、境界悪性型か否かを術中に鑑別するのは非常に難しいのです。
一方、20代以下のさらに若い女性に多いのが胚細胞腫瘍というタイプのがんです。胚細胞腫瘍は20歳以上でも発症することがあり、その場合はほとんどが良性なのですが、20代以下では悪性の可能性が高まります。しかし、胚細胞腫瘍は非常に化学療法の有効性が高いので、進行期であっても温存するのが標準治療となります。例えば、両側の卵巣が腫れている場合には片方は切除しても他方は残して抗がん剤による治療を行います。遠隔転移があっても、腹腔内播種を起こしていたとしても、抗がん剤が非常に良く効くので、化学療法による治療を行います。
卵巣がんの治療について②
卵巣がんは比較的抗がん剤がよく効くがんで、さまざまな薬剤を組み合わせた治療が行われます。最近では新たに承認された分子標的薬ベバシズマブへの期待も高まっています。
手術可能な卵巣がんでは、肉眼的に片方の卵巣にしか腫瘍がない状態でも、病気の拡がりを確認するため子宮と両側の附属器切除、後腹膜リンパ節郭清とおなかの中を浮遊した細胞が最初にひっかかる大網(だいもう)と呼ばれる部分の切除が標準治療となります。
卵巣がんでは卵巣に針を刺す生検を行うと、悪性だった場合にはがん細胞が散布される可能性があるため、術前に生検をすることができません。そのため、手術中に術中迅速病理検査を行い、切除した腫瘤の病理組織と肉眼的所見を照らし合わせて、がんであるか否かの確定を行います。がんであることが証明された場合には、前述した術式による外科的治療を行うわけですが、手術によって病理組織診断をしなければがんの確定ができません。つまりおなかを開けてみないと良性か悪性かの判別ができないため、術前には良性と悪性両方の場合について説明を行います。
卵巣がんの薬物治療は、がんの組織型によってレジメン(抗がん剤の組み合わせ)も異なります。卵巣がんに多い上皮性卵巣がんは、漿液性腺がん、類内膜腺がん、明細胞腺がん、粘液性腺がんの四つのタイプに分けられます。この中で抗がん剤がよく効くのが漿液性腺がんと類内膜腺がんで、特に漿液性腺がんは抗がん剤が最もよく効くタイプとして知られています。
漿液性腺がんや類内膜腺がんに対する薬物治療では、パクリタキセルとカルボプラチンによるTC療法が標準治療として行われます。タキサン製剤(パクリタキセルなど)とプラチナ製剤(カルボプラチンなど)による併用療法は、長年の積み重ねによって治療効果が向上してきました。1980年代には平均生存期間が16か月だったものが、現在では44か月と大幅に延長されました。ひとつひとつの臨床試験の成績は数ヶ月単位の延命効果でしたが、それが長年積み重なることで有効性の高い薬剤となり、現在ではスタンダード治療として使用されています。
卵巣がんに対する薬物治療では、その他にも以下のようなレジメンが使用されます。
・TP療法 パクリタキセル+シスプラチン
・DP療法 ドセタキセル+シスプラチン など。
有効性の高いゴールドスタンダード治療であるタキサン製剤+プラチナ製剤併用に加えて、2013年には分子標的薬ベバシズマブが卵巣がんの治療薬として新たに承認され使用が可能となりました。
一方、卵巣がんのなかでも若い年代の女性に多くみられる悪性の胚細胞腫瘍に対しては、プレオマイシン(B)、エトポシド(E)、シスプラチン(P)による併用療法(BEP療法)が行われます。若い女性に対する薬物治療では、卵巣への保護も必要となります。薬物治療の際にダメージを受けやすいのは成熟した卵細胞ですので、抗がん剤治療を行う場合には人工的に閉経状態にして卵胞の働きを止めてから行います。卵巣保護のためには、子宮内膜症などのときに使用するGnRHアゴニストを使うこともあります。
病期3~4期の卵巣がんの場合、6~7割が再発を起こすといわれています。再発時の治療では、病巣を取り切れるようであれば手術で切除したり、あるいは放射線治療をしたりすることもあります。ケースバイケースで治療方針を決めなければならないため、その辺は主治医の経験によって左右するといえるでしょう。また薬物治療においては、再発までの期間によっても薬剤の選択が変わってきます。再発までに12か月以上の期間があるようであれば、以前使用していたレジメンを使用することが可能となります。
卵巣がんの薬物治療は、日々進歩しています。PD-1(免疫チェックポイント阻害剤)やPARP阻害剤(polyポリメラーゼ阻害剤)などの臨床試験も現在進められています。新しい治療の選択肢は今後さらに増えることが予想されています。治療による延命が、さらなる新たな希望へつながると考えます。
久留米大学病院 産婦人科 主任教授
久留米大学病院 産婦人科 主任教授
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医日本婦人科腫瘍学会 理事・婦人科腫瘍専門医・婦人科腫瘍指導医日本癌治療学会 代議員日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本女性医学学会 暫定指導医NPO法人婦人科悪性腫瘍研究機構(JGOG) 理事日本癌学会 会員日本臨床細胞学会 会員国際婦人科腫瘍学会 会員アジア婦人科腫瘍学会 会員American Society of Clinical Oncology(ASCO) 会員
久留米大学病院産婦人科科長。専門は婦人科腫瘍で、日本産婦人科学会や日本癌治療学会などの委員や代議員などを務めている。婦人科腫瘍をはじめ婦人科疾患全般の診療にあたっている。また、院内のがん遺伝子パネル検査や乳がん・卵巣がん症候群に関連した遺伝カウンセリング部門を統括している。
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