いくら喫煙が害だとしても世の中からタバコを吸う人はなくなりません。なぜでしょうか?
それはタバコに入ってるニコチンの薬物依存性が高いからです。その依存性によって誰もがやめられないだけなのです。また、よくストレス解消の目的でたばこを吸っている人の話を聞きますが、実際はタバコはストレス解消効果がありません。
たばこを吸っている人の多くは、依存性と習慣性によって吸い続けるのであって、ストレス解消にはなっていないといわれています。
換気が不十分な状態で石油ストーブやガス湯沸かし器が不完全燃焼をおこすと、室内に一酸化炭素が充満して中毒死を招くことがあります。タバコを吸うと煙とともに一酸化炭素を吸い込んでいますので、全身に必要な分の酸素が届いていない状態となっているのです。
血液の成分のひとつである赤血球に含まれているヘモグロビンというタンパク質は、酸素よりも一酸化炭素と結合しやすい性質があります。通常であれば、酸素と結びついて必要な量の酸素を届けているヘモグロビンが一酸化炭素と結合してしまうことで、脳に必要な酸素が届かなくなってしまいます。すると脳が酸欠状態になって意識を失い、心臓にも酸素が届かなくなり、最終的には心臓が停止してしまうのです。
喫煙による一酸化炭素は脳や心臓意外にも、全身の筋肉に対しても影響を与えます。
一酸化炭素の方が酸素よりもヘモグロビンと結びつきやすいため、全身の筋肉は無酸素運動をすることになります。するとヘモグロビンを増やそうとして、血液内の血球成分が通常よりも多く作られるようになります。こうして血液内の血球成分が増加して「ドロドロ」とした血液になります。
血液がドロドロの状態になると、血栓という血の塊ができやすくなります。そのため血管に血栓が詰まる血栓・塞栓症や脳梗塞といった病気を招く原因となります。
このように、喫煙によって一酸化炭素を体内に取り込むことは、脳や心臓に対してダメージを与えるだけでなく、血管に対する病気を引き起こすことがお分かりいただけるのではないでしょうか。
タバコの煙に含まれている一酸化炭素を吸い続けると脳や心臓に対して大きなダメージを与えます。しかし、私たちの体にダメージを与えるのは一酸化炭素に限った話ではありません。
国際がん研究機関の調査によると、タバコの煙に含まれる発がん物質は調査開始当初は20~30種類といわれていました。しかし最新のレポートによると、タバコの煙に含まれている有害物質は70種類以上に上ることが分かったのです。
喫煙習慣がある方はそうでない方に比べて、肺がんや咽頭がんを患う割合が高くなります。喫煙によって体内に取り込まれた発がん物質は、肺で吸収されると血液によって全身に運ばれるので、全身でがんの発生率が上昇するのです。
☆タバコと害について詳しくはこちら☆
https://medicalnote.jp/contents/150531-000001-VJSVFE
体内に一酸化炭素を取り込むと、本来酸素と結びつくヘモグロビンと結合して脳が酸欠状態になること、そして同時に吸い込んだ有害物質によってがんの発生率が上昇することはこれまでにお伝えしてきました。実はこれら以外にも、喫煙には血管の収縮によって血流障害をおこすリスクがあります。特に血圧の高い方に喫煙習慣がある場合には、脳の血管が収縮することによって、脳出血やくも膜下出血のリスクが高まるとされています。アメリカの心臓学会・脳卒中学会による共同ガイドラインには、脳卒中のリスク要因として喫煙の危険性が明記されています。
血管が収縮した状態が続き、本来必要とされる血液が十分に行き渡らない状態が続くと、脳細胞が死滅するスピードは加速します。血流障害は認知症の進行スピードを速める要因でもあるのです。
喫煙が習慣となっている方のなかには、タバコの煙に含まれるニコチンと呼ばれる物質にも血管収縮作用があるため、皮膚の血流を悪くする要因となります。そしてこのニコチンには血管収縮以外にも、メラノサイトと呼ばれるメラニン色素を刺激するはたらきがあります。メラニン色素が蓄積するとシミやくすみなどの肌トラブルを招く原因になります。
ほかにも不完全燃焼が原因の活性酸素は、肌の酸化防止に役立つビタミンCを破壊したり、コラーゲンを断裂させてしまいます。一卵性の双子は同じ遺伝子のため容貌も全く同じですが、長年の喫煙経験の積み重ねが原因となって容姿に悪影響を与えることもあるのです。
喫煙していると、タバコの煙に含まれる発がん物質が全身へ流れ、癌になる可能性が増えるほか、心筋梗塞、脳梗塞、クモ膜下出血、肺炎という、日本人の4大死因のすべてを発症する確率が増えます。このような生活習慣はやはり、一人でも多くの人に考え直していただけないかと思っています。
「ランセット」という医学雑誌で、「この国では喫煙が最も人の命を奪っている」という解析が出たことがあります。実は、残念ながら日本人のタバコに対する危機感は、他のどの先進国よりも低いと言わざるを得ないのです。
その一因には、かつては専売公社として国が主導でタバコを売っていたという不幸な歴史も関係しているでしょう。その実態はあまり変わらず、タバコの専売公社はJTとして民営化されましたが、実は今もなお、その1/3以上(東日本大震災以前は50%)の株式を国が保有しています。国が1/3以上の株式を持つ筆頭株主となれば、事実上、国有会社と代わりはありません。「困った時のたばこ税」で国の財源となっている側面もありますが、産業としては非常に守られてしまっています。日本でタバコ規制が他の先進国よりもはるかに遅れているのには、こんな背景もあるのです。
日本では喫煙と高血圧が国民の命を奪っていると言われています。そもそも日本人の生活スタイルには、他の国と比べて塩分を多く摂取するという特徴もあり、そのため一定の年齢を超えると誰もが血圧が上がってしまう問題があります。そこに喫煙が加わるとどうなるでしょうか。メタボ体型など、はるかに凌ぐリスクです。最も危険な生活習慣は、肥満でも運動不足でもなく、喫煙なのです。
前回お伝えしたように、タバコは血圧そのものを跳ね上げます。血管の内部が狭まり、血流の持っている高い圧力が逃がせなくなり、さらに血圧が上昇します。ウサギにタバコを吹きかけたり、ニコチンを注射したりすると、血圧が跳ね上がることが動物実験でもわかっています。また、人間で禁煙する期間、喫煙する期間を同じに設定し、それぞれの血圧を調べると、かなりの人がタバコをやめていた期間の方が血圧が低くなるという結果も出ています。
さらに、タバコは糖尿病の発症を促す要因ともなります。細胞の表面には、インスリンという血糖値を下げるホルモンがくっつく「レセプター」という仕組みがあります。そこにインスリンがくっつくと、GLUT-4という入り口が開きます。これは糖分の入り口で、血液の中から細胞の中に糖分を取り込み、それを細胞が活動するためのエネルギーとして消費する仕組みになっています。様々な原因でインスリンが不足するとこのポートが開かず、糖は細胞の中に入れませんから、血糖値が高いままになってしまいます。これが糖尿病の仕組みです。
インスリンには、手助けをするホルモンが必要です。その代表格に、アディポネクチンと呼ばれる、脂肪細胞から出ている善玉ホルモンがあります。脂肪細胞が肥大化して肥満になってくると、アディポネクチンを出せなくなるため、メタボ体型が危険視されていますが、タバコを吸うことによっても、アディポネクチンは出なくなってしまいます。この効果は喫煙後6時間以上持続すると言われており、毎食後に1本しか吸わないと考えても、結果的に1日中アディポネクチンは低いままですから、糖尿病になるリスクは上がっているといえます。長期間の追跡調査でも、喫煙者は糖尿病を発症しやすいことがわかっています。
さて、ここまで喫煙の危険性をお伝えしても、それがご本人のことだけだと「俺の身体はどうでもいいんだよ」と言う人もいます。しかし必ず考えてほしいのが、受動喫煙の問題です。禁煙外来でもよくこのお話をしますが、まわりの方への影響の話も交えて説明すると、禁煙を考えていただけることがあります。
世の中には受動喫煙を強いられている方が大勢います。ご本人は吸わなくても、例えば居酒屋やパチンコ屋など喫煙が許されている施設の従業員さんなどはかなりのレベルの受動喫煙を強いられています。また、分煙をうたっている施設でも、それが十分であるとは限りません。子供が入れるレストランで、ついたてだけで喫煙席と禁煙席が仕切られているような「なんちゃって分煙」を見かけることも少なくありませんが、このようなことは他の先進国ではありえません。
受動喫煙も喫煙と同じように糖尿病の発症が増えることがわかりつつあります。職場がこのような環境では、非喫煙者で日常的に受動喫煙がある方と喫煙者の糖尿病発症率は、ほとんど変わらなくなってしまいます。
受動喫煙で健康への被害をこうむる方を減らしたい。それは私が禁煙外来を開設したきっかけでもありました。自分は吸わないのに、ときには喫煙者と同等の身体へのダメージを受ける、そんな受動喫煙の理不尽さについて少しでも知っていただき、禁煙への意欲をぜひ高めていただきたいと思います。受動喫煙の被害について詳しくお話していきます。
私のクリニックには、受動喫煙で悩んでいる方も禁煙外来を受診されることがあります。そのような方たちに対しては、例えば唾液の中や尿中のコチニン(ニコチンの代謝産物)をはかることで被害の程度を調べたりします。普通、非喫煙者からは検出されない成分ですが、調べると非喫煙者でも尿中にたくさんでてくる方がいらっしゃいます。これが受動喫煙を受けている証拠になります。また、毛髪検査で量ることもできますし、単にそこで一日何時間働いている人などとして定義している研究もあります。
かつて喫煙者と非喫煙者の病気のリスクには差がないとされていましたが、これは実は、非喫煙者の多くが受動喫煙を受けていたためでした。喫煙者に比べて受動喫煙の健康被害は、現在でもなお過小評価されています。
例えば「タバコ病」と言われるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)は、100人のうち95人は喫煙者です。喉頭がんも97%が喫煙者です。しかし、それは残りの患者さんは非喫煙者であるということを意味します。その発病には、もちろん受動喫煙がかなり大きいファクターとなっています。
煙を吐き出しても、空気中に拡散して消えるから大丈夫だと思うでしょうか。実は1つ1つの粒子が離れて見づらくなっているだけで、有毒な物質はその場にとどまり続けます。喫煙者の隣にいると臭いがしますが、臭うということは臭いのもととなる粒子を吸い込んだということです。その際には、臭いの粒子だけではなく、煙に含まれる全ての物質を吸い込んでいます。
このように、受動喫煙は目に見えない煙を吸い込むことによって起こります。「受動」とついてはいますが、同じ煙を吸い込みますから、事実上、喫煙以外の何ものでもありません。
特に、体の小さい子供には非常に危ないと言われています。例えば殺虫剤は人間には害が少なくても、小さなハエにかけたら死ぬのと同じで、同じ量の毒物でも、子供にはやはり害があるということは特に認識してもらいたいと思います。
一時期、PM2.5という目に見えない小さな粒子が話題になりましたね。人間の髪の毛が1本70μm、スギ花粉が30μmなので、2.5μmというのは非常に小さな粒子です。吸い込むと肺の奥まで入り、そこで肺がんの原因になる炎症を起こしたり、喘息を起こしたり、肺気腫を起こしたり、肺が壊されます。
さらに、小さすぎて血管内まで入り込むため、心筋梗塞、脳梗塞まで増やすことがわかってきました。PM2.5 が1㎥あたり10μg高い地域に住んでいる人は、そうでない地域の人に比べて肺がんの死亡率が14%高いそうです。PM2.5はものを燃やせば出るので、工場の煙突からだけではなく、タバコからも発生します。吸い方にもよりますが、北京で1日過ごすのと、タバコを1日6本~1箱吸うのは、PM2.5の吸引量がだいたい同じ量だと言われています。35μgを上回ってはいけないとされているPM2.5の吸引量が、日常的に350などという数値になってしまう北京と同じと考えてもらうと、どれだけ人体に負荷をかけることかお分かりいただけるのではないでしょうか。
つまり、日本でも喫煙可能なお店の中などでは、PM2.5が北京並の濃度になっているのです。一見煙が見えなくても、自由にタバコが吸える店内にはPM2.5が充満しています。
居酒屋などでタバコの煙がすごいと、先ほどの数値が700μg/㎥に達するところもあり、これは北京の最悪の日と同じくらいだといわれます。
そのような環境で、例えば居酒屋のアルバイトの大学生がどれほどPM2.5を吸引しているのか。考えてもぞっとしますし、容認できないということが言われ始めています。2015年6月から労働安全衛生法が一部改正され、職場での受動喫煙を予防する努力義務が謳われるようになりました。
WHOは「世界で年間60万人が受動喫煙が原因で、600万人が喫煙による健康被害で亡くなっている。タバコが原因で世界で6秒に1人が死んでいる」と発表しています。この訴えに耳を傾け、我々も考え直さなければいけません。
「そうは言ってもやめられない」というのがニコチンの依存です。しかし、喫煙者がやめられないのは仕方ないとしても、受動喫煙だけはなくさなければいけません。そのため各国で受動喫煙防止法が制定され、この法律がない国はほとんどなくなってきたほどです。
また、例えばオーストラリアでは「プレーンパッケージ」といってタバコのパッケージに綺麗な飾り文字や色を使うことも禁止されています。日本人はタバコにヒ素が入っていることをほとんど知りませんが、ブラジル人はよく知っています。「あなたはネズミの駆除剤に含まれているものと同じヒ素を吸い込んでいます」とパッケージに書いてあるのです。
WHOのこうした呼びかけや諸外国の取り組みに比べると、我が国のタバコ害への対策は大きく遅れをとっています。国や社会の対策を待っている間に、タバコで死んでしまうのは自分や家族かもしれません。そうならないためにも、一刻も早く、的確な対処を行って喫煙から抜け出しましょう。次回からはいよいよ、禁煙外来で実際に行っている取り組みの内容についてのお話をしていきたいと思います。
*参考文献
WHO REPORT on the global TOBACCO epidemic, 2008
http://www.who.int/tobacco/mpower/mpower_report_full_2008.pdf
タバコを吸っている方には禁煙はとてもつらいもの。体に悪いと分かっているつもりでも、なかなか禁煙できない方は多いのではないでしょうか。禁煙外来ではどのようなことを行うのか、どんな効果があるのか。禁煙外来についてお話いたします。
禁煙外来とは、タバコをやめたい人向けに作られた専門外来です。条件を満たす方には健康保険も適用になります。
まずはじめに、タバコをやめるためには、タバコを嫌いになっていただかないといけないというのが私の考えです。好きなものを一生我慢することなんて出来ませんよね。目指すところは禁煙でなく「卒煙」、つまり「こんなものいらない」と思えるかどうかにかかっています。
タバコを我慢したり、本数を減らすことは、ニコチンに対する依存度が低い方には効果的です。しかし、たいていは失敗します。
例えば、週末や家にいるときは1本も吸わず、平日の会社にいるときだけ吸うような人は依存度が低く、我慢の禁煙で目標が達成できることもあります。しかしニコチンへの依存度が高く、例えば1日も欠かせず喫煙していて、吸わない時間が3時間も続くとイライラしてニコチンを補充しなければいけない、そういう人は絶対に我慢の禁煙は成功しません。
タバコを我慢することは、一度でも再び吸ってしまえば、本数を減らすのと変わりません。例えば、食事を減らして十分お腹がすいた状態で食べたものは本当に美味しく感じますよね。ニコチンも同じです。そのような方法で禁煙を行っても、一本でも吸うと余計にニコチンに対する心理的依存が高まって、やめられなくなるのです。
タバコへの依存度の高い方は、やはり禁煙補助薬を使わないと禁煙の成功は難しいでしょう。禁煙補助薬とはニコチン自体、あるいはニコチンの類似作用をもつ物質を体に入れ、ニコチン切れを感じないようにするためのものです。
お腹いっぱいの状態でごはんを食べてもそこまで美味しく感じず、それほど食べ物が欲しくないのと同じように、禁煙補助薬を使うことで自然にタバコを求めない身体に変化することができ、未練を残さず「卒煙」に向かう近道になります。このような対処が必要なタイプの方の場合、我慢をする禁煙や本数を減らす節煙を自己流で行ったり、推奨してはダメだということです。
ですからニコチンへの依存が弱いのか強いのか、そこを見極めるところから禁煙外来の診察は始まります。
最初の診療ではまず、ニコチン依存症がどの程度であるのか、チェックを行います。後述しますが、保険診療が可能かどうかはこの点にかかってきます。
一酸化炭素濃度の測定を行い、自分の息にタバコに含まれる有害物質がどれくらい含まれているかを確認します(呼気検査)。この一酸化炭素の濃度は、禁煙した瞬間から下がりはじめ、20分で脈拍は正常になり、手の体温が正常にまで上昇し、8時間で一酸化炭素レベルが正常値になります。
ニコチン依存症のスクリーニングテスト(図表)
喫煙頻度と一酸化炭素濃度の目安
ノンスモーカー0 ~ 7 ppm
ライトスモーカー8 ~ 14 ppm
ミドルスモーカー15 ~ 24 ppm
ヘビースモーカー25 ~ 34 ppm
超ヘビースモーカー
35 ppm以上
呼気検査が終わると禁煙開始日を決め、禁煙誓約書に記入していただきます。その後禁煙治療薬の選択して処方する、というのが一般的な流れです。
私の禁煙外来では、通常のスクリーニングテストに加えて、問診表をとります。例えばどのくらいやめたいと思っているのか、どのくらい自信があるのか、どのくらい吸っているのか、何回くらいやめられたのか、何か月くらいやめられたのか、また、1本も吸わない日があるかどうかなども重要です。こうした質問に答えていただくことで、ニコチンへの依存がどの程度なのかを見極めていきます。
例えば、朝起きてすぐに1本目を吸いたくなる方は、非常にニコチンの依存が強いです。寝ているあいだに吸えませんから、血中濃度が下がっている。そうすると朝ニコチン切れでとにかくまず1本欲しいという状態になる。起きてからしばらく何時間も平気だという人は、比較的ニコチンの依存は少ないといえます。
そういった情報から、その患者さんの喫煙は心理的な依存がメインなのか、薬物的な依存がメインなのかということを確認し、総合的にみて次に打つべき手を考えていきます。
それでは、禁煙外来の費用、保険適用の条件などについて触れてきたいと思います。
禁煙外来で費用がどのくらいかかるのかということはみなさん気にされると思いますが、現在では健康保険等を使って禁煙治療が受けられるようになりました。
禁煙外来は、診察料と処方箋料薬代全部含めて3割負担の方だと1日220~230円、タバコ半箱分なのです。処方される薬にもよりますが、禁煙外来のプログラムが終了するまでの期間(8~12週間)全体では、13,000円~20,000円程度かかる計算です。1日1箱喫煙する方なら、8~12週間分のタバコ代より保険診療で禁煙治療を受けた場合の自己負担額のほうが安くなります。患者さんには「吸いながらでもOKなんですよ」「タバコ美味しくなくなりますよ、やめやすいですよ」「お金もタバコ半箱分で1箱買うより安いですよ」と言う医師が多いです。
禁煙外来の診察を経て禁煙補助薬を使うようになると、自力で禁煙する場合に比べて、禁煙成功率は約3〜4倍高まります。離脱症状を抑えながら比較的楽に禁煙できるため、実際には費用をあまりかけずに禁煙することが可能なのです。(他の疾患の治療と同時に行った場合など、費用負担が変わる場合があります。詳しくは医療機関にお問い合わせください。)
ご自分の健康問題だけが理由であれば一切禁煙をしようと思わない方も、受動喫煙の害が気になっている方は多いはずです。費用面のハードルが低いことを知って、やってみようかと決意されることも少なくないようです。
禁煙外来で保険適用となるかどうかは、ブリンクマン・インデックス(という指標を使って判定します。「1日に吸っている本数×年数≧200」であれば保険適用です。
これは1日1箱であれば10年吸っているという条件ですが、実際には、禁煙外来にいらっしゃるほとんどの人がクリアできます。ただし、これはあくまで健康保険を適用するための条件づけとして厚生労働省が決めただけの話で、例えばこの指標を満たすから身体的依存がある、などといった根拠がある訳ではありません。
ですので、ブリンクマン・インデックスによる判定は、たとえばせっかく20代前半でやめようと考えている人が保険適用にならない、などという問題があります。どんな方でもやめたい人にはやめさせられるよう、保険制度上も後押しができれば良いのですが、まだこの条件に限定されることになっています。
禁煙外来が保険適用になり、医療費3割負担での禁煙治療が可能なのは、認可が降りた医療機関のみです。日本禁煙学会のウェブサイト http://www.nosmoke55.jp/nicotine/clinic.html などにはその一覧がありますから、医療機関を選ぶときのご参考にするとよいでしょう。
ちなみに、全ての医療施設が禁煙外来を勝手に開設してよいわけではありません。特殊外来扱いで、認められる医療施設にも条件があり、例えば敷地内が徹底的に全面禁煙になっている必要があります。大学病院や広い病院は中庭に喫煙所、灰皿があったりするため、禁煙外来としての保険適用ができず、自費になってしまうところも少なくないのです。
禁煙外来で保険が使える機会は年に1回となります。スケジュールとしては、3か月間、5回連続で診察に来ていただき、ニコチンが無い状態で卒煙まで頑張ってもらいます。3ヶ月通っていただくのは、身体がニコチンが無い状態でのバランスを思い出すのに3か月はかかるためです。禁断症状(離脱症状)の辛さに、その3か月以内に挫折する人が極めて多いのです。
それを支えてあげるため、禁煙外来では禁煙補助薬をお出ししていきます。次に、禁煙外来で処方する薬についてご紹介します。
現在、禁煙外来で使っている禁煙補助薬には、大きく分けるとニコチン製剤とニコチンを含まないバレニクリン酒石酸塩の2種類があります。
ニコチン製剤を使う治療を「ニコチン代替療法」といいます。薬でニコチンを補給して禁断症状を緩和しながら、まず心理的・行動的な依存(習慣)から抜け出し、次にニコチン補給量を調節しながら、身体的なニコチン依存からも離脱するというものです。
ニコチン製剤には、ニコチンパッチとニコチンガムがあります。ニコチンパッチには医師が処方する医療用と薬局で販売されている一般用があり、ニコチンガムはすべて薬局で販売されています。
一方、バレニクリン酒石酸塩はニコチンを含んでいません。しかし脳へはニコチンと同様に働きかける成分が含まれているため、ニコチン製剤と同じように、離脱症状や喫煙の切望感を少なくすることができます。
さらにバレニクリン酒石酸塩の持つもう1つの特別な効果としては、この薬を服用しているときに再喫煙してしまった場合、あまりタバコがおいしく感じなくなるというものがあります。これは、この薬に含まれるニコチンに似た成分が、ニコチンよりも強くレセプターにくっついてしまうため、ニコチンが脳に作用できなくなって起こる効果です。喫煙から得られる満足感が小さくなるので「久しぶりに我慢していたタバコを吸ったらやっぱり美味かった」という感覚がなくなります。
よく考えると、我々は本当にニコチンに騙されているのです。ものを燃やして出た煤を吸っても美味しいと感じたことはないですよね。中に入っているニコチンが脳に作用するから美味しく感じるのであって、そこがブロックされていたらまったく美味しくないわけです。ですから、この薬を使っていると、タバコへの未練が残らなくなるのです。
禁煙中も禁断症状を感じずに済み、かつニコチンではない成分ですので、服薬している間も身体はニコチンが無い状態のバランスを取り戻していきます。3か月後、最終的にはニコチンもこの薬も無しで済むようになり、飲むのをやめてしまっても大丈夫になります。
バレニクリン酒石酸塩は医療用のみで、服用するには医師の処方箋が必要です。また服用の際には、「自動車の運転などの危険を伴う機械の操作をしないでください」と注意の記載があります。
いずれの禁煙補助薬も、すでにもっている病気や服用している薬剤などによって使えない場合があります。必ず、医師や薬剤師に相談してください。
ニコチン製剤について、ニコチンのパッチは保険適用ですが、ニコチンのガムは禁煙治療での保険適用はありません。なぜなら、ニコチンガムではニコチンの依存を消し去ることができないからです。
このガムは噛んだときに、口の粘膜や舌の下の毛細血管から直接、ニコチンを吸収させます。この舌の下から薬を投与する方法は、心臓の悪い方がニトログリセリンを投与されるときと同じで、舌の下に浮き出て見える血管に薄い粘膜を通して直接流し入れるものです。薬は普通に飲んでいたら食道、胃を通って十二指腸、小腸までいってやっと吸収されますが、心臓発作の場合、薬が効くまで長時間待てないため、この方法がとられるのです。
それとまったく同じ理由で、ニコチンガムの場合もすぐに効かせるため、ガムという形になっています。吸いたい衝動が出たときに噛むと、舌の下から血中に即座にニコチンが入り、吸いたい衝動をすぐ抑えてくれます。
このため、このガムを使うと速やかにニコチンの血中濃度が上がり、吸いたい症状は抑えられます。ただし、微量しか成分が入らないのですぐ代謝され、すぐ血中濃度は下がります。このように、血中濃度にピークが出来るような投与をしていると、依存は取れません。脳にはニコチンによる快楽が押し寄せて、それがすぐになくなりますので、「もっと欲しかったのに」という依存が持続します。ニコチンガムでは一時的な喫煙の衝動は抑えられても、ニコチン依存は取れないのです。
ニコチンパッチを使った禁煙は、近年、格段に成功率が上がりました。ニコチンパッチは皮膚からニコチンを吸収させますが、その吸収は非常にゆっくりとしたものです。吸いたいと思った時には、貼ってもすぐ効かないので、衝動は抑えられません。しかし代わりに、ゆっくりと成分が浸透してゆき、しかも貼っているあいだは血中濃度が保たれ、はがしてもすぐにはなくなりません。皮下注射したように皮膚と組織の間にしばらくニコチンが入っていて、それがじわじわ毛細血管から吸収されてなくなってゆくのです。先ほどのガムと同様にニコチンは入っていますが、このように血中濃度が緩やかに変化するような投与のされ方であれば、ニコチン依存はできないのです。
ニコチンパッチはニコチン切れのイライラを抑え、なおかつ依存を取ってくれる作用があります。このため、あまりタバコを吸いたくならず、吸っても美味しくなくなってゆきます。だんだん喫煙の習慣がとれてきて、身体的にもそんなに吸いたいと思わないようになれば、だんだん小さなパッチにしてニコチンの量を下げ、最終的に0にする。それがニコチンのパッチを使った禁煙治療です。
前回お話ししてきたバレニクリン酒石酸塩、ニコチンガム、ニコチンパッチは全て一長一短です。ガムは即効性があり、数秒で効いてきます。タバコを吸いたい衝動を抑えるには一番良いわけです。例えばバレニクリン酒石酸塩を使っていてもなお衝動が抑えられないときは、ガムを噛めばよいでしょう。喘息の治療は毎日のメンテナンスに使うものと発作の時使うものがありますが、それとまったく同じで、ニコチンの薬も、維持しておくための薬と、どうしても避けきれない衝動が起きたときに使うガムというのは役立ちます。でもガムだけではやはり成功しづらい。
ニコチンのガムは噛むとピリピリしますが、ニコチンは劇薬で、粘膜に与える刺激が強いのです。ニコチンの飲み薬が作れないのもそのためです。ニコチンのガムにも、注意書きには唾を飲み込まないようにと書いてありますが、噛んで出た唾をあまり飲み込んでいると胃がやられてしまうのです。唾液をなるべく吐き出さなければならないのは、ニコチンガムのやや使いづらいところです。また、ニコチンガムは口の中に口内炎があるような時は噛めません。
ニコチンパッチの場合でも、皮膚が弱い方は皮膚にニコチンの刺激が加わると皮膚がかぶれるため、皮膚が弱いアトピーの方とかは使えません。こうした点は、ニコチン製剤の弱点と言えるでしょう。
バレニクリン酒石酸塩は、副作用として吐き気が出やすい薬です。ただし、この副作用には胃への直接作用と脳への直接作用があって、胃への作用だけであれば、ご飯を食べた後に薬を飲んで、多めの水で薄めるというやりかたで十分克服できます。
また、ニコチンパッチとガムでは慣れてきたらだんだん量を減らしていくのとは反対に、バレニクリン酒石酸塩では吐き気という副作用に胃を慣らしていくために、徐々に薬の量を増やしていきます。
バレニクリン酒石酸塩は、吐き気という薬の副作用を軽減するために、初めは少ない量から始めます。最初の3日間は1日1回だけ、4日目から朝と晩にします。1週間経ったら倍の大きさの粒にします。これが本来摂取するべき量ですので、これで3か月間続けていきます。
つまり、バレニクリン酒石酸塩を使用する場合、はじめの1週間はならし期間となります。だからはじめの1週間はタバコを吸っていても許され、8日目から禁煙になるのです。「今日から1本も吸ってはいけない」という話ではないので、喫煙者の方にとってははじめやすく、ハードルが低いのがよい点です。
一方ニコチンパッチの場合は、体内にニコチンをあまり多く採ると有害であるため、パッチを貼る時は「タバコは基本的に吸わないで下さい」とお願いします。しかし喫煙者の方にとっては、バレニクリン酒石酸塩とは異なりその日から禁煙がスタートするため、ハードルが高いようです。ニコチンパッチは「貼ったら今日から1本も吸えない」ために、むしろ心理的な依存が残ってしまう弱点があるのです。
以上述べてきたとおり、これらの薬は単独では長所も短所もありますので、基本的には患者さんの状況をみながら、組み合わせてお出ししていくかたちとなります。
禁煙外来によっては、禁煙手帳というものをお配りしているところもあります。禁煙からの時間経過に応じたアドバイスが書かれている手帳で、皆さんにお配りしています。禁煙のコツや禁煙治療についての解説が載っています。また、忘れずに薬を飲めるよう服用記録や喫煙本数などの記録ができ、通院時の問診の際にご利用いただけます。継続が目に見えて記録できることは、達成感にもつながり、禁煙を後押ししてくれるでしょう。
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