インタビュー

統合失調症の治療方法-薬物療法で使われる抗精神病薬 副作用で太るのはなぜ?

統合失調症の治療方法-薬物療法で使われる抗精神病薬 副作用で太るのはなぜ?
松本 和紀 先生

東北大学 大学院医学系研究科 精神神経学分野 准教授、みやぎ心のケアセンター 副センター長

松本 和紀 先生

統合失調症の治療は、その症状の緩和のために薬物療法を行うことが一般的です。しかし抗精神病薬など、精神疾患で扱う薬について不安を感じる方も少なくありません。統合失調症で使われる抗精神病薬は、患者さんの症状をコントロールし、社会復帰の一助となるものです。統合失調症の治療と薬物療法で用いられる抗精神病薬や、その副作用について、東北大学大学院医学系研究科 精神神経学分野 准教授の松本和紀先生にお話をうかがいました。

統合失調症とは、主に思春期〜青年期に発症し、幻覚や妄想、意欲や感情表出の低下、言動や行動のまとまりのなさなどがみられる精神疾患です。発症の原因は不明ですが、神経発達の問題やストレスを含んだ環境的な要因がかかわるのではないかといわれています。

統合失調症で行われる治療法は、薬物療法と心理社会療法です。

統合失調症の治療法として、薬物療法はとても重要ですが、特に抗精神病薬を用いた治療が大切です。抗精神病薬は、ドーパミンやセロトニンなどの脳の神経伝達系の機能を調節することで症状を改善すると考えられています。

抗精神病薬には、主にドーパミンに作用するものと、ドーパミン以外にもセロトニン、ノルアドレナリン、ヒスタミンなどさまざまな神経伝達物質に作用するものとにわけることができます。第二世代、あるいは、新規抗精神病薬などと呼ばれる新しい抗精神病薬では、副作用の一部が緩和されるなどの特徴があり、第三世代などと呼ばれる抗精神病薬では、ドーパミンをブロックするだけでなく、足りないときにはドーパミンの分泌を促すものもあります。

上記の薬物療法とあわせて、心理社会療法も実施されます。医師によるカウンセリング、自身の病気について理解する心理教育、コミュニケーションを学び社会に適応する訓練であるSST(Social Skill Training・社会生活技能訓練)、デイケアでの人との付き合い方や人間関係のトレーニング、作業所での作業訓練、考え方や行動の仕方に働きかけることで適応力を高めていく認知行動療法、認知機能の改善に働きかける認知トレーニング、個別的な就労支援、患者さんのご家族への支援などが心理社会療法にあたります。

統合失調症に限らずほかの疾患もそうだと思いますが、治療に際しては原則としてできる限り患者さん自身の制限の少ない治療環境を選択することが理想です。もし患者さんが通院での治療を希望していて、実際に通院で治療できると医師が判断した場合には、通院治療から始めることになります。患者さん自身がきっちりと治療を受け、症状がコントロールできている状態であれば通院による治療だけでも問題ありません。

しかし、患者さん本人が自身の病気について理解できず治療を拒否したとき、症状が落ち着かず誰かが終始様子を見ていなければいけないとき、薬物療法の効果をしっかりと確認したいとき、セルフケアができない、自殺や暴力が懸念されるときなど、より積極的な医療による介入が必要な際には入院による治療が選択されます。

また、診断を確定させるために症状をしっかりと観察する必要がある場合も、入院を勧められることがあります。

そのほかにも、医師や看護師などの自宅訪問によって、入院をせずに地域の中で治療を行っていくことが役に立つ場合もあります。

統合失調症の治療で服用する抗精神病薬の副作用として太ることを懸念される方も多くいます。確かに抗精神病薬、特に第二世代の抗精神病薬のなかには、脂質代謝・糖代謝に影響し太りやすくなる副作用を持つものもあります。このような副作用から一部の抗精神病薬では、糖尿病がある場合には禁忌に指定されているものもあることは事実です。しかし、この太るという副作用は非常に個人差が大きく、同じ薬を同じ量、同じ期間飲んでいても、著しい体重増加がみられる方、ほとんど体重に変化がない方がいます。

この太るというリスクは、抗精神病薬を服用する、しないにかかわらず、統合失調症に罹患することそのものがリスク要因になる可能性も指摘されています。統合失調症を発症することで引きこもりがちになってしまったり、運動不足やアンバランスな食生活に陥ったりした結果として太ってしまうケースもあるでしょう。

現在、統合失調症の患者さんの生活習慣病のリスクについて、より注視しケアをしていこうという動きが医学界でも出てきています。

先に挙げた脂質代謝・糖代謝への影響による肥満、生活習慣病のリスクの上昇のほか、統合失調症の薬には以下の副作用がみられることがあります。誰に、どのような副作用がいつ出るかについては、個人差があります。医師と相談しながら自分にあった薬を飲むようにしましょう。

  • 眠気
  • だるさ
  • 手のふるえ(振戦)
  • ろれつが回らない
  • 乳汁分泌や月経不順

まれではありますが以下の副作用がみられることもあります。

薬物療法は、適切な処方と服用で症状をコントロールし、患者さんの社会復帰を促し、十分な社会生活を送る手助けをしてくれるものです。また、再発を予防する効果もあります。

なかには抗精神病薬を服用することに抵抗があったり、薬である程度症状がコントロールできていたりすると、医師の指示を守らずに無断で減薬・断薬をしてしまう患者さんもいらっしゃいます。無断で減薬・断薬をしてしまうと人によっては症状をコントロールできなくなって症状が悪化してしまう、寛解していた症状が再発してしまうということが起こりえますから、減薬や断薬は必ず医師の指示のもとで行うべきでしょう。

もし自分が服用している薬が多すぎる、本当に効果があるのかわからないという場合は主治医に相談することが大切です。また、セカンドオピニオンを利用するのも一つの選択肢です。

もちろん、抗精神病薬を服用することでしっかりと病状がコントロールできていればそれに越したことはありません。しかしながら、抗精神病薬はその作用機序も明確になっていない部分があります。また、患者さんの病態もさまざまなため、十分な効果が得られないこともあります。そのため、最初の薬では効かず、ほかの薬を試しながら自分にあった薬を見つけていくということが多くあります。

一方で、一部の患者さん、特にはじめて統合失調症や精神病と診断され、治療によってすっかり症状がとれて安定した患者さんのなかには、抗精神病薬を服用しなくても回復を維持する人がいます。また、まだ研究段階ではありますが、手厚い心理社会療法のみで症状が軽快する事例があることも報告されています。

しかし、残念ながら、こうした患者さんは全体からすれば少数で、どのような患者さんで薬が必要なくなるのかを見分けることはまだできません。より良い社会生活を送るために、抗精神病薬を飲み続けることが欠かせない人が多くいることも事実です。医師と相談しながら、自分にあった治療法をじっくりと見極めていくことが大切です。

松本和紀先生

統合失調症の治療は長期にわたることが多く「自分はいったいいつ治るのだろうか」と不安になる患者さんも少なくありません。しかし医師と相談しながらしっかりと薬物療法と心理社会療法を受けることで、症状をコントロールすることができ、再発を予防することも可能となります。実際に、症状が長期化しても継続して治療を受けることで機能が回復し、社会復帰された方も多くいます。

これは、高血圧糖尿病などの体の病気でも、治療を続けることで、満足のいく社会生活が送れるようになることと似ています。

ですから、悲観的にならずに、一歩ずつステップ・アップするつもりで、じっくりと治療を進めていくことが大切です。そして、症状や治療に関して何か気になることがあれば、些細なことであっても医師に相談することが大切です。また、さらには、家族、友人、ソーシャル・ワーカー、看護師、その他の支援者など、多くの人たちの意見や手助けを得て、自分に合った治療を進めていくことができるとよいでしょう。

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統合失調症や双極性障害などの治療の副作用にて、遅発性ジスキネジアが発症する場合があります。
「遅発性ジスキネジア」チェックリスト
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*抗精神病薬:主に統合失調症の治療に用いられるが、うつ病や双極性障害などほかの病気の治療のために処方されることもある。
1または2を選択した方は、下記「チェック結果を見る」へお進みください。
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