
多発性子宮筋腫に対する筋腫核出術は非常に難易度が高い手術といえます。手術時の出血のリスクへの対処、小さな筋腫を取り残さないことなど、多発性筋腫の治療には熟練した技術が必要です。福岡山王病院 産婦人科部長の渡邊良嗣先生に多発性筋腫に関する治療のポイントについてお話をうかがいました。
子宮筋腫は単発でできることもあれば、複数個できることもあります。数個から数十個の筋腫が同時にできることもあり、このように多数の筋腫ができることを多発性子宮筋腫といいます。筋腫は小さくても症状が強かったり、大きくてもあまり症状が現れなかったりするため、数や大きさというよりも、筋腫のできた場所によって症状の出方は変わってきます。しかし多発性筋腫の場合は、子宮が非常に大きくなるため圧迫症状として頻尿や腰痛、月経時の多量出血や痛みが起こり、ひどくなると日常生活にも影響をおよぼしてQOL(生活の質)を大きく低下させてしまいます。
手術には筋腫だけを摘出する筋腫核出術と、子宮ごと摘出する子宮全摘術があります。また、それぞれの手術においては、お腹を開いて行う開腹術や、腹腔鏡を用いてより低侵襲(体への負担が少ない方法)に行う腹腔鏡下手術などがあります。
福岡山王病院ではこれまで腹腔鏡を使った手術を数多く行ってきました。実際、多くの患者さんが腹腔鏡手術を希望して受診されますが、全ての患者さんに腹腔鏡手術ができるというわけではありません。今回のテーマとなっている多発性子宮筋腫もその一例です。
患者さんが困っている症状を消失させたり、状態を改善させたりすることが多発性子宮筋腫の治療の目的です。治療の中心は手術となりますが、基本的には子宮を全摘(すべて取る)するか、温存する(残す)かの二通りです。同じような症状であっても、患者さんの置かれている背景によって治療法は変わります。一般的には、これから子どもを希望する場合は子宮を温存し、すでに子どもがいてこれ以上妊娠を希望しないような場合には子宮の摘出術が検討されます。つまり、子どもを希望するかどうかで治療法は大きく変わるということです。
とはいっても、子どもがいる方、あるいは閉経を迎えている方であっても、子宮を残したいという希望があるのであれば、不利な点もあることをお話ししたうえで患者さんの望む治療を優先して行います。
多発性子宮筋腫の子宮全摘術の難易度は高くありません。偽閉経療法を行って子宮の大きさを縮小させれば、より安全に全摘手術を行うことができます。
一方、多発性筋腫の核出術は非常に難易度の高い手術です。多数個の筋腫核出術は、通常の筋腫核出術とは全く異なります。筋腫が数十個あったり、非常に巨大であったりするということで、他の施設で子宮全摘しか方法はないといわれて福岡山王病院を受診される患者さんもおられます。
※出血が大量になって止血が不可能な状態となることがあり、生命に危険がおよぶ可能性がある場合は子宮全摘を行わざるを得ない状況になるため、大多数の施設では多発性筋腫に対する子宮温存手術は出来ないと説明されることがしばしばです。
子宮を残したいという理由の多くは、これから子どもを持ちたいということです。この場合子宮摘出は絶対に避けなければなりません。このような希望を持っている患者さんに対して、福岡山王病院では多発性筋腫に対する子宮温存術をこれまで数多く行ってきました。100個以上の筋腫があった方もおられましたが、その方にも筋腫核出術による子宮温存術を行っています。非常に大きな筋腫があっても、かつ多数個であっても、福岡山王病院では筋腫核出を行って子宮を温存する手術が可能です。
筋腫が大きかったり、複数個あったりする場合、手術時の出血リスクはどうしても高くなってしまいます。多量の出血が予測される場合は、他者からの輸血を避けるために自己血保存を行っています。自己血保存とは、手術で出血のリスクが想定されるときに、術前に患者さん自身の血液を採血して保存しておくことです。ご自身の血液であれば、輸血(自己血輸血)をしてもさまざまなリスクを回避できます。
自己血の保存期間は5週間なので、保存用の血液は手術の5週間前以降に採血します。採血量は、献血と同様に400mlを単位として採取します。通常は1回400ml、ある程度の出血量が想定される患者さんには少々多めに2回800mlか3回1200mlを採血保存しておきます。
ただし、自己血保存をすれば、絶対に他者からの輸血を避けることができるわけではありません。手術中の出血が非常に多くて保存した自己血で足りない場合は、他者からの輸血が必要になります。
筋腫のある患者さんは月経時の出血量が多いため、貧血状態になっている方も少なくありません。貧血では自己血を保存することはできませんので、その場合は貧血の治療を先行して行います。貧血が改善しないか貧血が治っても月経過多ですぐにまた貧血になるという場合は、自己血保存はできないことになります。単発の筋腫であれば閉経状態にするGnRHアゴニストというホルモン剤を投与して月経を止め貧血を改善させることができますが、多発性筋腫に対する手術の場合は小筋腫の確認が困難となり、取り残しによる再発のリスクが高くなるため、GnRHアゴニストは使用することができません。この場合は、他者からの輸血を行うことを前提として核出術に臨まなければなりません。
福岡山王病院 産婦人科部長
福岡山王病院 産婦人科部長
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医日本産科婦人科内視鏡学会 腹腔鏡技術認定医日本生殖医学会 生殖医療専門医・代議員日本女性医学学会 女性ヘルスケア専門医・指導医日本内視鏡外科学会 技術認定取得者(産科婦人科領域)
福岡山王病院副院長。産婦人科部長として子宮筋腫や卵巣腫瘍など良性の婦人科疾患、不妊症の治療にあたっている。傷の小さな腹腔鏡下手術や、開腹しない膣式手術および子宮鏡下手術など低侵襲な手術を中心とした治療に長年取り組んでいる。挙児を希望する方には自然に近い形で妊娠できるよう、一般的不妊治療と腹腔鏡手術などの治療を組み合わせながら治療を行っている。更年期障害や月経不順などに対する女性のヘルスケアにも取り組んでいる。
渡邊 良嗣 先生の所属医療機関
周辺で子宮筋腫の実績がある医師
愛育病院 院長
愛育病院 妊娠、出産だけでなく女性の“今と未来”を守る医療を提供
港区の医療において、やさしい婦人科治療・安心安全を追求した無痛分娩など提供する愛育病院による特集です。
内科、外科、小児科、小児外科、産婦人科、放射線科、麻酔科、乳腺外科、女性内科
東京都港区芝浦1丁目16-10
都営三田線「三田」A6出口 徒歩6分、JR山手線「田町」東口 徒歩7分
河北総合病院 産婦人科 医長
内科、循環器内科、呼吸器内科、消化器内科、神経内科、リウマチ科、リハビリテーション科、小児科、外科、呼吸器外科、心臓血管外科、脳神経外科、整形外科、耳鼻咽喉科、泌尿器科、眼科、皮膚科、放射線科、麻酔科、糖尿病・内分泌・代謝内科、腎臓内科、消化器外科、病理診断科、臨床検査科、救急科、感染症内科、血液内科、精神科、産科、婦人科、乳腺外科、小児アレルギー科、形成外科、美容外科、脳神経内科、頭頸部外科、放射線腫瘍科、疼痛緩和内科、血液外科
東京都杉並区阿佐谷北1丁目7-3
JR中央線(快速)「阿佐ケ谷」 徒歩5分、東京メトロ丸ノ内線「南阿佐ケ谷」 徒歩15分
聖路加国際病院 女性総合診療部 部長
内科、血液内科、リウマチ科、外科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経外科、呼吸器外科、消化器外科、腎臓内科、心臓血管外科、小児科、小児外科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、歯科口腔外科、麻酔科、乳腺外科、呼吸器内科、循環器内科、緩和ケア内科、腫瘍内科、感染症内科、消化器内科、内分泌内科、代謝内科、膠原病内科、放射線治療科、病理診断科
東京都中央区明石町9-1
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国際医療福祉大学三田病院 婦人科部長、国際医療福祉大学 産婦人科学教授
内科、血液内科、外科、精神科、脳神経外科、呼吸器外科、消化器外科、腎臓内科、心臓血管外科、小児科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、歯科口腔外科、麻酔科、乳腺外科、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科、糖尿病内科、内分泌内科、脳神経内科、血管外科、脊椎脊髄外科、放射線診断科、放射線治療科、頭頸部外科、病理診断科
東京都港区三田1丁目4-3
都営大江戸線「赤羽橋」赤羽橋口出口または中之橋出口 徒歩5分、東京メトロ南北線「麻布十番」3番出口 徒歩8分、都営三田線「芝公園」A2番出口 徒歩10分、JR山手線「田町」三田口出口 車5分 徒歩20分
山王病院(東京都) 名誉病院長
内科、アレルギー科、血液内科、リウマチ科、心療内科、脳神経外科、呼吸器外科、消化器外科、腎臓内科、心臓血管外科、小児科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、歯科、歯科口腔外科、麻酔科、乳腺外科、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科、糖尿病内科、内分泌内科、代謝内科、膠原病内科、脳神経内科
東京都港区赤坂8丁目10-16
東京メトロ銀座線「青山一丁目」4番(南)出口 徒歩4分、東京メトロ千代田線「乃木坂」3番出口 徒歩4分
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子宮筋腫による子宮全摘について
臀部から腿にかけて数か月痛み、整形外科を受診したところ椎間板ヘルニアと診断され、その原因がMRIを撮ったことでとても大きい子宮筋腫が原因ではないかと診断されました。 婦人科で受診したところ、子宮筋腫が多発し大きい為、子宮全摘が最善と診断を受けました。 筋腫の種類としては、筋層内・漿膜下・粘膜下全てに複数存在します。現在、セカンドオピニオンを受けるべく準備しておりますが、 実費となる為、少し躊躇しております。子宮筋腫が多発している場合、子宮全摘は一般的なのでしょうか。
今後の検査は必要ですか?
2014年に子宮筋腫の手術をしました。 2022年の検査で子宮頚部:好中球、表層型~中層型の扁平上皮細胞が認められます。明らかな異型細胞はみられません。という結果でした。 医師には今後こちらの病院での検査は出来ないので市の定期検査をしてください。と言われましたが、表層型~中層型の扁平上皮細胞が認められます。は病気ではないということでしょうか? 私としては子宮筋腫の術後のイレウスで現在も毎日不具合と痛みが続くことでこちらの病院に通うのでそのついでに1~2年に一度子宮頚部の検査をして頂きたいと思いますが、それは無理なことでしょうか? 以上、2点教えてください。
検査を早めた方が良いか
変性した8cmほどの筋腫があり、悪性の可能性を完全に否定できないとのことで大学病院にて経過観察中です。定期検診の血液検査でca125が160だったのですが、生理中(5日目)の影響だろうとのことでした。 MRI検査の期間が前回から少し空いているが、すぐ行うか半年先にするかとたずねられ、半年後に予約したのですが、上記の数値が少し高めということを後になって認識し、検査を早めた方が良いのか迷っています。 エコー検査では特に大きな変化はないと言われています。
手術後の微熱
5月中旬に子宮筋腫核出の開腹手術を受けました。術後の経過は順調で、自宅静養中です。術後3週間過ぎた頃から微熱が出たり出なかったりする状態が続いています。自宅で自己にてコロナ抗原検査キットを2回使用し陰性。術後検診を急遽行い採血でもCRPやWBCの上昇なしで、傷も綺麗。経膣エコーも問題ない状況です。ホットフラッシュのように一時的に暑くなり、衣服調整にて平熱に戻ったりします。子宮筋腫を喀出したことで、一時的に更年期障害のような症状が出たりするのでしょうか。それとも何らか病気を考えた方が良いのでしょうか。
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