インタビュー

多発性子宮筋腫の手術に関して考慮することは? 子宮温存を最優先に考え、必要に応じて薬物療法も行う

多発性子宮筋腫の手術に関して考慮することは? 子宮温存を最優先に考え、必要に応じて薬物療法も行う
渡邊 良嗣 先生

福岡山王病院 産婦人科部長

渡邊 良嗣 先生

この記事の最終更新は2016年03月29日です。

子宮筋腫の治療の基本は手術ですが、筋腫核出術(子宮を温存する方法)と子宮全摘術(子宮をすべて切除する方法)のそれぞれで異なったいくつかの手術方法があります。福岡山王病院 産婦人科部長の渡邊良嗣先生に筋腫の手術方法についてお話を伺いました。

子どもを希望する場合あるいは子宮の摘出を望まない場合は、子宮を温存する筋腫核出術を行う必要があります。筋腫核出術には開腹手術と腹腔鏡下手術があり、筋腫の大きさや個数(一つだけ筋腫ができるタイプであるか、複数個の筋腫が同時に出来る多発性筋腫であるか)によって、各手術のメリットとデメリットがあるため慎重に手術方法を選ばなければなりません。

お腹を10cm程度切開して、医師が子宮や筋腫を直接手で触って確認しながら行う手術方法で、全てのタイプの筋腫を手術することができます。開腹手術のメリットは3つあります。非常に大きな筋腫でも手術できること、多数の筋腫ができている多発性筋腫でも対応できること、そして1~2mm程度の非常に小さな筋腫も核出できることです。

開腹手術では、次に述べる腹腔鏡下手術で対処できない筋腫を手術することが可能で、小さな筋腫も取り残すことがほとんど無いため再発の可能性も少なくなります。一方、デメリットとしては、切開の傷が大きいため手術直後の痛みが強いこと、このため入院日数が長くなること、手術後の傷が目立ちやすいことが挙げられます。

腹腔鏡下手術のメリットは傷が小さいことです。福岡山王病院産婦人科ではおへその中を1.5cm、左脇腹に1.5cmと0.5cmの小さな穴を計3ヶ所あけて、内視鏡(お腹の中を観察するカメラと手術を行うための鉗子がついている器械)を使って手術を行っています。

副鏡下手術では術創(手術でつく傷)が小さいため手術後の痛みが軽く、手術翌日は普通に歩くことが可能で、4~5日もすれば退院して普通の日常生活に戻ることができます。退院後すぐにスポーツをすることも可能です。

また、小さい傷はほとんど目立たなくなりますから美容的にも優れていますし、不妊症の原因となる術後癒着という症状が起こることも少なくなります。

ただし、どのような筋腫でも腹腔鏡下手術で手術できるわけではありません。腹腔鏡下手術はお腹の中の狭い空間でマジックハンドのような鉗子を使って手術を行うため、一定の制限があります。具体的には、10cm以上の大きな筋腫は対処できません。それに対して、1cm以下の小さな筋腫も確認することが難しいため、核出することは困難です。また4~5個以上の複数個の筋腫を取る場合も、出血量が多くなるなどの理由から対象外となります。

多発性筋腫の方が子宮の温存を希望する場合には、開腹による腹式筋腫核出術が必要です。また不妊症の治療目的で筋腫核出術を行う場合は小さい筋腫もすべて核出することが望ましいため、開腹手術を推奨します。

筋腫の大きさが10cm以下で、個数が2~3個以内、1cm以下の筋腫がない場合は、手術の負担が少ない腹腔鏡下手術がよいでしょう。

手術後に妊娠した場合は、開腹手術でも腹腔鏡下手術でも、安全のために通常の経膣分娩は難しく、帝王切開手術を行う必要があります。

子宮全摘術には開腹子宮全摘術と腟式子宮全摘術、そして腹腔鏡を利用した腹腔鏡補助下腟式子宮全摘術があります。筋腫再発の恐れがない、月経に伴う不快な症状から解放される、子宮がんが起こる可能性がなくなる等の利点が挙げられます。

上記のうち最も多く行われているのが開腹子宮全摘術です。お腹を10cm程度切開して行う手術方法で、筋腫により巨大になった子宮でも、子宮が周囲の腸などと強く癒着(くっついて)している場合でも子宮を摘出できることが長所といえます。ただし、切開の傷が大きいため手術直後の痛みが強いこと、入院日数が長くなること、手術後の傷が目立ちやすいことが欠点です。

腟式子宮全摘術はお腹に全く傷をつけることなく、膣から子宮を摘出する方法になります。お腹に切開の創が残らないため、外見的には手術したことは分からず、美容的に極めて優れた手術方法といえます。開腹子宮全摘術と比較して術後の痛みが軽いため入院日数は3~4日間短くなります。また早期回復が見込めるので、退院後は通常の日常生活が可能です。

膣式子宮全摘術は高度の技術が必要とされる特殊な術式のため、大部分の病院では行っていませんが、福岡山王病院では日常的に行います。ただし、膣という狭い空間を通して行う難易度の高い手術方法のため、限界もあります。一般的には分娩の経験のある方が対象で、子宮が大きかったり、骨盤内の周囲臓器に癒着して子宮の動きが不良な場合には対処できません。

腟式子宮全摘術が難しい場合でも、腹腔鏡を併用して行う腹腔鏡補助下腟式子宮全摘術(ふくくうきょうほじょかちつしきしきゅうぜんてきじゅつ)が可能です。

子宮が大きすぎる場合や癒着が疑われる場合には、お腹に小さな穴を3ヶ所開けて腹腔鏡下補助式膣式子宮全摘術が適応されます。肉体的負担や入院日数は通常の腟式子宮全摘術と同じです。また近年は、同様の術式で、腹腔鏡下に子宮全摘操作を全て行う、全腹腔鏡下子宮全摘術という方法も行われています。

福岡山王病院では手術手技に熟練した医師が慎重に子宮の状態を診察して手術方法を決定しています。負担の最も少ない腟式子宮全摘術を第一選択とし、難しい場合は腹腔鏡補助下腟式子宮全摘術、それでも難易度の高い場合は開腹子宮全摘術を行っています。

子宮筋腫に対して、近年は手術以外の新しい治療方法も考案されています。

子宮動脈塞栓術(しきゅうどうみゃくそくせんじゅつ)(UAE)は、子宮に栄養を送る血管に特殊な物質を詰めて血液の流れを遮断することで、筋腫を小さくする方法です。

集束超音波治療法(しゅうそくちょうおんぱちりょうほう)(FUS)は超音波エネルギーを筋腫に集中させて病巣を焼き切る治療法です。

どちらも手術しなくてもよいというメリットはありますが、副作用について十分に判明しておらず、治療後に卵巣機能の低下が起こることがあるため、妊娠を希望している方には推奨されない治療法です。現状ではこのふたつは標準治療ではなく、治療を受ける際には十分な理解と注意が必要になります。

妊娠を考えていない場合はマイクロ波子宮内膜アブレーション(MEA)という子宮内膜を焼きつぶす方法で月経過多症状を改善する治療法もあります。

子宮動脈塞栓術(UAE)と集束超音波治療法(FUS)は福岡山王病院では行っていませんが、ご相談には応じています。

注射や鼻からスプレーする点鼻薬により、人工的に体を50歳過ぎの閉経状態にして、筋腫を縮小させる偽閉経療法(ぎへいけいりょうほう)という薬物療法があります。しかしこの治療法は副作用等の点から6ヶ月間の投与しか行うことができないという制限が儲けられています。そのうえ、薬の投与を止めると筋腫が再び大きくなって、4~6ヶ月後には元の状態に戻ります。あくまで筋腫は一時的に縮小するのみで、短期間筋腫による不快な症状を緩和するという効果があるのみです。

筋腫に対する薬物療法が有用なのは以下の2点です。

  1. 腟式子宮全摘術を可能にするため、薬物で筋腫を小さくして、より負担の少ない腹腔鏡で筋腫核出術を行うことを目的にしている場合。また、開腹術が必要なときでも、筋腫を小さくして出血などの手術リスクを軽減することを目的とする場合。
  2. 1年以内に閉経すると予想され、手術を避けたい場合。
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