てんかんの子どもを持つお母さんにとって、子どもがはじめててんかん発作を起こしたときの不安や焦りは推し量れないものでしょう。まずはてんかんかどうかの診断を明確にすることが大切ですが、てんかん発作には部分発作や全般発作など、様々な種類があり、どの発作を起こしたかによって適切な対応や治療法が少しずつ異なります。我が子がどのようなてんかんの種類に該当し、発作を起こしたときにどう対応すればよいか知っておくことで、子どもの状態を少しでも早く改善することができるかもしれません。今回はてんかんの子どもを育てるお母さん、お父さんや親族の方に向けて、子どもがてんかん発作を起こしたときに知っておきたい対応についてご紹介します。東京女子医科大学名誉教授/日本てんかん学会理事長の大澤眞木子先生にお話しいただきました。
てんかん発作は、脳の一部または大部分、全体が興奮して起こる発作です。てんかん発作には様々な分類があり、大きく部分発作(局在関連発作ともいう、脳の一部が興奮して起こるタイプ)と全般発作(脳の大部分又は全体が興奮しておこるタイプ)に分けられます。
また、てんかん発作は意識障害、発作の症状、発作型、発作の対称性によってさらに細かく分類されます。
てんかん発作のうち、部分発作は単純部分発作と複雑部分発作に分類されます。
単純部分発作は意識障害を伴いませんが、複雑部分発作では意識障害がみられます。
全般発作では強直(きょうちょく:筋肉や関節がこわばること)や脱力がみられ、全身が硬くなり倒れてしまうこともあります。
また、さらにてんかん重積(じゅうせき)を起こした場合は非常に危険な状態であり注意が必要です。通常のてんかん発作の場合は約3分以内で症状が治まり意識も戻りますが、意識が戻らない場合はてんかん重積の可能性が高いといえます。
てんかん重積が疑われる場合で、特に初回の発作の場合は直ちに医療機関を受診してください。救急外来での点滴など、緊急対応が必要です。
てんかんの診断のもとに抗てんかん薬が投与されたら、ますは薬を定期的に服用して発作を起こさないようにすることが大切です。例えば、人がけがをしたとき、患部にはかさぶたができます。これをそのまま放置して待てば、自然にかさぶたが剥がれ落ちて治癒します。しかし、できたかさぶたをひっかいて出血させ、またかさぶたができたのでひっかくという行為を繰り返すと、その部分は汚くなってしまいます。これと同様、何度もてんかん発作を繰り返すと治療が遅れる可能性があります。そのため、まずは子どもがなるべくてんかん発作を起こさないようにすることが大事です。
発作の予防は大事ですが、万が一てんかん発作を起こしてしまった場合(倒れる発作)はすぐに対応する必要があります。下記の対応を行いましょう。
基本的には2回目以降の短い発作であれば、焦らず翌日に受診しても大きな問題はありません。
てんかん発作の種類によって注意点は異なります。そのため、発作がどのタイプなのかを見極めることが重要といえます。
たとえば全般発作にあたる強直間代発作(きょうちょくかんたいほっさ:突然意識を失い、口を固く食いしばって呼吸が止まる強直発作と、膝や手足を折り曲げガクガクと曲げ伸ばすようにけいれんする間代発作がみられる)の場合は、大発作とも呼ばれる発作です。このとき、口の中に物を入れたり体をゆすったりしてはなりません。上述した4つの対応を行った後はしばらく子どものそばにいて様子を伺います。
また、欠神発作(けっしんほっさ)といって、意識が瞬間的に喪失し、ボーッとしているようにみえるタイプのてんかん発作は気づかれにくいため、意識して様子を観察しましょう。
側頭葉から起こる複雑部分発作の場合、「その場にはそぐわない」行動が見られるのが特徴です。
たとえば私が患者さんの診察中に突然靴を脱いで足の裏を眺めたとしたら、患者さんやその親御さんは不思議に思われるでしょう。このように、それ自体が特別変わった行動ではないものの、その場面においては不適切な行動がみられる場合、複雑部分発作が疑われます。複雑部分発作の場合、発作のたびに行動が変移するというよりは、毎回同じような行動を起こす傾向があります。
前頭葉から起こる複雑部分発作の場合、歩き回ることが多いです。このとき、親御さんが正面に回って動きを止めようとすると子どもを刺激し、衝動的な行動(止めようとした人を殴る等)を誘発してしまうため、後ろからそっと見守りながら後を追います。無理に歩行を止めようとするのは危険です。
子どもの体格が小さい場合は、体を抱き上げて湯船の外へ救出しましょう。子どもの体格が大きく、抱き上げることが難しい場合は湯船の栓を抜いてしまったほうが速く安全確保できます。
ただし、一般的には入浴中よりも入浴後、着替えの途中などに発作が起こります。
子どものてんかん発作は体温上昇と関わっています。体温は着替えたり体を拭いたりしている最中により上昇するため、浴室から出て1~2分後に最も体温が上がりやすいのです。
なかには37度台前半の微熱状態でてんかん発作が起こる子どももいます。
食事中にてんかん発作が起こるケースは多くありませんが、ミオクロニー発作(急に手指がピクッと動いてしまうタイプのてんかん発作)の場合は箸や皿などの食器を放り投げてしまう可能性があるので注意が必要です。やけど防止のため、スープや味噌汁など、熱いものは子どもの傍に置かないようにしてください。
気圧や天気の影響を受けて発作が起こることがあります。
具体的には低気圧が近づいているとき、台風が近づいているときに発作を起こしやすいと考えられています。(詳細は記事2『てんかんの子どもを育てるお母さんが知っておきたいこと―ありのままの姿を見つめて認めることが大事』)
発作が起きたかどうかの自覚は別として、子どもはお母さんやお父さんの行動に大きな影響を受けます。つまり、子どもが発作を起こしたとき、お母さん方がパニックに陥って動転し、慌てていると、子どもの心にまで大きな負担がかかってしまうのです。
てんかん重積の場合は状況が異なりますが、てんかんのけいれんだけで命を落とすことは基本的にはありません。ですから冷静に対応し、子どもには「大丈夫だよ」と励ましてあげるように意識することが重要です。
子どものてんかんとADHDの関係には、下記の2通りが考えられます。
てんかん発作の原因ははっきりとわかっていないものの、てんかん発作を起こす脳機能障害があり、その障害がADHDを起こす可能性はあるといえます。
てんかん発作のなかでも、欠神発作の場合は1日数十回にわたり意識が消失することがあります。欠神発作ではけいれんなど発作に伴う大きな動きがないため、周囲からはボーっとしているだけのように思われ、てんかんだと気づかれないというケースも多々みられます。
一方、欠神発作を繰り返す子どもの視点から考えると、自分の知らぬ間(意識がない間)に周りの世界が動いているような状況です。勿論、意識が消失しているときに周囲が言っていたことは認識できません。本人は周囲の動きが信頼できず、衝動的に動いてしまいます。こうした行動から、ADHDではないにもかかわらず、ADHDと間違えられる可能性があります。
つまり、てんかんの併発としてADHDが起こる場合もあれば、実は欠神発作がADHDに間違われていたという場合もあるということです。
ADHDを伴う場合は、てんかんが治まるとともにADHDの症状も改善していきます。
ただし、脳波の異常がある子どもにADHDのような行動が多いというデータは存在します。
*関連記事「注意欠陥・多動性障害(ADHD)への支援と治療―周囲はどのように接すればよいか?」
てんかんの型にもよるため一概に予後を述べることはできませんが、大方の場合は年齢とともによくなっていきます。
18歳未満の子どものてんかん治療には下記の制度があります。
小児慢性特定疾患治療研究事業
概要
児童の健全育成を目的として、疾患の治療方法の確立と普及、患者家庭の医療費の負担軽減につながるよう、医療費の自己負担分の一部を補助します。
対象
18歳未満(引き続き治療が必要であると認められる場合は、20歳未満)の児童。
自己負担額
所得の状況に応じて自己負担額は異なります。
申請先
お住まいの市区町村の担当窓口(保健所など)に申請してください。
有効期限
有効期限は1年間です。期限が切れる3カ月前から更新の申請をすることができます。
乳幼児医療費助成制度
概要
乳幼児の健康保険適応の医療費の自己負担分の全額あるいは一部を助成する制度です。
対象
一定年齢以下の乳幼児が対象となります。ただし、市区町村により対象年齢が異なります。
申請先
お住まいの市区町村の担当窓口に申請してください。
(てんかんinfoより引用)
これらの制度を活用することにより医療費を削減できる可能性があります。詳細は地域の保健所や医療福祉相談室に問い合わせてみるとよいでしょう。
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