腹腔鏡手術のがんにおける有用性が示され、さまざまながんで用いられるようになってきています。本記事では、婦人科における腹腔鏡手術の適応疾患について、がん研有明病院 婦人科医長の金尾祐之先生にお話しいただきました。
2016年現在、婦人科領域における腹腔鏡手術の適応疾患は次のとおりです。
婦人科腫瘍領域における腹腔鏡手術は、良性腫瘍(不妊関連)から始まり、徐々に悪性腫瘍(がん)へ広がっています。
しかし、婦人科腫瘍のなかでも卵巣がんや子宮肉腫が適応となっておらず、これにはがんの特性と腹腔鏡手術の弱点が関係しています。
卵巣がんには、非常に早期からがんが飛び散って播種(他の臓器への転移)してしまうという特性があります。腹腔鏡手術は治療のターゲットが決まると、それを拡大してみることができたり、細かい作業を行えるというメリットがある一方、周囲を広く見渡すことを苦手とします。
お腹のどこに飛び散るかわからないような卵巣がんを腹腔鏡で手術すると、播種を見落としてしまう危険性があるのです。その見落としたがんが将来再発につながり、がんの根治性を落とす危険性があるため、卵巣がんに腹腔鏡手術が用いられるようになるには時間がかかることが予想されますし、そもそも本当に腹腔鏡手術を行う必要があるのかという議論にもなります。
卵巣がんの腹腔鏡手術は技術的には可能です。しかし先述したとおり、傷を小さくするということはがんの患者さんにとっては重要なメリットとはいえない場合もあります。ですから、きちんと治すことを第一にするならば、根治性を落とす危険性のある腹腔鏡手術を用いることはあまりお勧めされません。
(参考記事「婦人科における腹腔鏡手術のメリットとデメリット-真のメリットとは」)
たとえば検査技術がさらに進歩し、がんの広がりが手術前に確実にわかるようになれば腹腔鏡手術の出番もあるかもしれません。現実に、PET-CT検査*が以前より進歩し、がんの広がりがある程度予想できるようになってきました。
* PET-CT検査:全身の細胞のうち、がん細胞だけにはっきりとした目印をつけ、小さながんやがんの広がりを調べる検査
しかし繰り返しになりますが、がんの特性を考慮すると腹腔鏡手術が卵巣がんに用いられるようになるには、他のがんよりも時間がかかってしまうのではないかと考えています。
現在、腹腔鏡は進行卵巣がんに対しては検査の目的で用いられています。卵巣がんでは、開腹手術を行おうと切開しても、がんの広がりが予想より大きく、手術では取りきれないため手術を中止する(インオペ・手術不能)ことが起こる場合があります。切開後の手術中止は患者さんにとって負担になります。
これを防ぐために、手術前に腹腔鏡でがんの広がりを検査する「審査腹腔鏡」や「腹腔鏡探索」が行われています。この検査では、カメラで体内の様子を見たり、組織を採取する(生検)ことができるため、インオペを減らすことにつながります。また、腹腔鏡検査で手術での切除が難しいと判断されれば、化学療法で腫瘍を小さくしてから手術を行うというような判断も可能となります。
良性の子宮筋腫では腹腔鏡手術が用いられますが、悪性の子宮肉腫では用いられません。どちらもサイズが大きい腫瘍ですが、違いは良性か悪性であるかです。サイズが大きい腫瘍は、お腹の中で小さく砕いてから腹腔鏡の小さな穴から体外に取り出します。良性の子宮筋腫の場合、腫瘍を砕くことは問題ありません。
しかし悪性の場合、腫瘍を砕くことによってがんが体内に飛び散ってしまうため、腹腔鏡手術が行われることはありません。子宮体がんや子宮頸がんも同様ですが、腫瘍が大きくなる前に症状が現れますので、腹腔鏡手術を行えるケースがほとんどです。
腹腔鏡手術には「腹腔鏡手術の穴の大きさ以上のものは取り出せない」「全体を見渡すことが難しい」という弱点があります。この弱点とがんの特性の関係から、卵巣がんと子宮肉腫は適応されていません。このように、がんの特性に合わせた手術法が選択されることが重要であるといえます。
がん研有明病院 婦人科 部長
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