

骨髄異形成症候群は、血液細胞のもととなる“造血幹細胞”に後天的にもたらされる遺伝子異常が生じる病気です。赤血球・白血球・血小板は骨髄にある造血幹細胞で造られていますが、遺伝子異常によってこれらが正常に造られなくなります。
主な症状としては、貧血や血が出やすい、風邪をひきやすいなどが挙げられます。
このような自覚症状がなく、健康診断などで偶然発見されるケースも少なくありませんが、進行すると急性骨髄性白血病に移行することもあります。
聞き慣れない病気ですが、近年患者数が増えている病気のひとつです。本記事では、骨髄異形成症候群の特徴について詳しく解説します。
骨髄異形成症候群は40歳代から高齢になるにしたがって発症率が高くなります。日本においては15歳以上のうち10万人に3人の割合で発症するとされていますが、近年では高齢化の影響もあり患者数は年々増えているのが現状です。また、統計的に女性よりも男性のほうが、約2倍発症率が高いことが分かっています。
骨髄異形成症候群は引き起こされる血液細胞の異常によってさまざまなタイプがあり、軽度な症状のみが現れるタイプや、急性骨髄性白血病に移行するタイプもあります。生存率は、記事後半でお伝えする予後因子によって大きく異なり、発症したとしても長期の生存が可能なもの、5年生存率が著しく低いものなどさまざまです。
骨髄異形成症候群の発症原因は不明です。しかし、放射線や抗がん剤などのがん治療によって造血幹細胞に何らかのダメージが加わって発症することが少なくありません。さらに、ベンゼンなどの発がん性物質が発症に関与しているとの説もあります。
骨髄異形成症候群は赤血球、血小板、白血球などの血液細胞が正常に産生されなくなる病気です。発症早期の段階では自覚症状がないこともありますが、進行すると正常な血液細胞が減少することでさまざまな症状が引き起こされるようになります。
具体的には、赤血球の減少によって倦怠感・動悸・立ちくらみ・食欲不振などの症状が引き起こされます。また、血小板の減少では皮膚や粘膜の点状出血・鼻血・あざなどが生じやすくなり、白血球の減少では感染症にかかりやすく発熱を繰り返すといった症状が見られるようになります。
骨髄異形成症候群を診断するには、血液細胞数や形状の異常、骨髄細胞の異常などを確認する必要があります。そのため、診断する際には次のような検査が行われます。
通常の血液検査を行うことで、赤血球数・血小板数・白血球数などを調べるとともに、血液細胞を顕微鏡で観察し、細胞形状の異常の有無などが確認されます。
血液のもととなる骨髄内の細胞を採取し、顕微鏡で観察して異常の有無を調べる検査です。血液検査と比べて体への負担が少し大きくなります。このため、血液検査などの通常の検査で原因が特定できない場合に、この検査の実施が検討されます。また、以下に述べる染色体検査を行うためには、この検査は必須です。
骨髄異形成症候群患者の約半数に染色体異常が見られるため、採取した骨髄細胞を用いて染色体検査が行われます。染色体異常は、治療法の選択や予後を知る点で重要です。
骨髄異形成症候群の進行具合は病気のタイプによって大きく異なりますが、基本的にはできるだけ早く発見し治療を開始することが大切です。先述したような症状が続く場合は、放置せずに病院を受診して、まずは血液検査を受けるようにしましょう。
また、健康診断などで偶然発見されるケースも少なくないため、健康診断で異常を指摘された場合は早めに精密検査を受けることが大切です。
骨髄異形成症候群はタイプによって治療方法が大きく異なります。
治療法を決定するにあたっては、どのような予後をたどるのかを予測することが大切です。予後を予測する際には、骨髄での未熟な血液細胞(芽球)の割合・染色体検査・血液細胞減少の状態をそれぞれ点数化する“国際予後予測スコアリングシステム(IPSS)”という指標が用いられます。IPSSでは、4つのリスクグループ(低リスク、中間1、中間2、高リスク)に分けられます。
一般的に、予後の悪い2つ(中間2と高リスク)のグループは同種造血幹細胞移植が第一選択として行われますが、全身状態や年齢から移植をすることが難しいと判断された場合は、抗がん剤治療が選択されます。
一方、予後の良好な2つのグループ(低リスク、中間1)は、特別な治療を必要としないことも少なくありません。何らかの症状がある場合は、低強度の抗がん剤(脱メチル化剤)治療や免疫抑制療法が行われますが、これらの治療では治癒は期待できません。
また、特定の血液細胞が著しく減少して生命に危険が及ぶ場合は、赤血球や血小板の輸血、白血球の産生を刺激するG-CSF製剤投与などの支持療法が行われます。
上記のIPSSのリスク別に、骨髄異形成症候群の生存率や再発率は異なります。さまざまな治療が行われますが、現在のところ同種骨髄移植以外に治癒が期待できる治療法はありません。先に述べた輸血などの支持療法や脱メチル化剤、免疫抑制剤などの低強度治療によって生存期間の延長が期待されます。
骨髄異形成症候群の初診に適した診療科は血液内科です。しかし、血液内科が近くにない場合は、まずはかかりつけの内科などで検査を受けるのもひとつの方法です。検査で異常が見られ、専門的な検査や治療が必要と判断された場合は血液内科へ紹介されますので、一般的な内科クリニックなどでも検査を受けることが可能です。
いずれのタイプでも早期治療・早期発見が大切であるため、気になる症状が続く場合はできるだけ早く医師に相談し、症状がない場合でも1年に一度は健康診断で血液検査を受けるようにしましょう。
大阪暁明館病院 血液内科部長
小川 啓恭 先生の所属医療機関
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