難聴というと、まず思い浮かべるのは「両耳が聞こえにくい状態」ではないでしょうか。しかし実際には、片耳だけが聞こえづらい/ほとんど聞こえない「一側性難聴」の人も少なくありません。生まれつきの方もいれば、途中から片耳の聴力だけが弱くなる方もおり、その聞こえにくさや困りごとは人それぞれです。
一側性難聴は片方の耳が聞こえているため、「両側性難聴より不自由が少ない」と思われがちです。しかし、騒がしい場所で聞き取りにくい、集中しないと聞こえないため疲れやすいなど、一側性特有の困りごとがあります。生活環境や周囲の理解の程度によっても負担が変わるため、一人ひとりが異なる困難や不安を抱えながら生活しています。
静かな環境では会話に困ることが少ないなど障害の程度が軽く思われがちであり、これまで十分な調査が行われてこなかったことなどから、社会の理解や福祉制度の整備が両側性難聴より遅れているのが現状です。
一側性難聴の原因として最も多い突発性難聴は増加傾向にあります。教育現場や職場での配慮も求められるようになってきており、社会的にも重要なテーマとして注目が高まっています。
一側性難聴には、先天性と後天性があります。
新生児聴覚スクリーニングの普及により、約1,000人に1人の割合で、一側性難聴が発見されるようになりました(※)。最も多い原因は内耳の形成不全ですが、原因不明の例もあります。
※)日耳鼻福祉医療・乳幼児委員会:平成29年度難聴が疑われて乳幼児精密聴力検査機関を受診した0歳児および1歳児、2歳児の社会的調査.日耳鼻121:1033-1040,2018
子どもに多い原因としては、ムンプス(おたふくかぜ)があります。いわゆるムンプス難聴の多くは片耳で、2015〜2016年の流行時の調査(※)では、診断された子どもの95.5%が一側性難聴でした。
※)日耳鼻福祉医療・乳幼児委員会:2015~2016年のムンプス流行時に発症したムンプス難聴症例の全国調査.日耳鼻121:1173-1180,2018
成人で最も多いのは、急性感音難聴の代表的疾患である突発性難聴です。突然片耳の聞こえが悪くなる原因不明の疾患で、発症者数は30年間で10倍に増加。発症から2週間以内に治療を開始すると回復の可能性が高いため、早期受診が大切です。ただし治療しても回復しきらず、一側性難聴が残ることも少なくありません。
※突発性難聴の詳細については、こちらをご覧ください。
成人以降の発症原因には、ほかにもメニエール病、急性低音障害型感音難聴、慢性中耳炎、真珠腫性中耳炎(しんじゅしゅせいちゅうじえん)、聴神経腫瘍などがあります。
一側性難聴の聞こえ方は「片耳が聞こえにくい」というだけでは説明しきれません。
両耳で聞こえる場合は「両耳加算効果」により、片耳より約3dB大きく聞こえます。一側性難聴ではこの効果がないため、より集中が必要です。
両耳の聞こえの差から方向を推測する「音源定位」が難しく、どこから声がするか分かりにくくなります。

片耳で拾った音から雑音をうまく抑制できず、騒がしい環境では特に会話が困難になります。
聞こえ方や感じ方は個人差が大きく、望む配慮も人それぞれです。とくに子どもの場合は、気遣いが逆効果になることもあり、成長段階に応じた接し方が必要です。
職場において、一側性難聴を理由に就労制限がかかることは、あまりありません。実際、一側性難聴とうまく折り合いをつけながら、さまざまな仕事にチャレンジし、活躍している人は大勢います。ただし、本人が希望するキャリアや人生を歩んでいくため、職場側がはたらきやすい環境を整備するためには、職種や職場ごとに異なる規定や条件などの情報を、双方が理解しておくことも大切です。
両側難聴の場合と同様に一側性難聴の人でも補聴器などの補聴機器が使用できます。日常会話や学校、職場の騒がしい環境での会話時に不便を感じる場合は積極的に補聴機器を試してみると良いでしょう。それぞれの聞こえや使用環境に合わせ、適切な補聴器を選びましょう。
一般的に「補聴器」と呼ばれるものです。ただし、難聴耳が高度〜重度難聴の場合は効果が出にくいこともあります。
高度難聴の方が対象です。難聴耳に集音マイクがついた送信機を、健聴耳に受信機を装用し、健聴耳で聞き取るしくみです。両耳に機器を装用する必要があります。片耳ですべて聞き取るため、音の方向感覚をつかむのは困難です。
話し手にワイヤレスマイクを持ってもらい、聞き手の補聴器や人工内耳にダイレクトに声を届けるシステムです。騒がしい場所や遠くの話し手の声もクリアに届くため、教室での学習や会議の席、公共の場などで有効です。
人工内耳は、補聴器では聞こえが十分に改善しない高度〜重度難聴の方が対象となる治療です。
電極を内耳の中に埋め込み、難聴側の耳に電気刺激を送ることで、聞き取るシステムです。難聴側から聞こえるようになるため、両耳での聞き取りが可能になります。専門医の適切な適応判断により実施されます。
一側性難聴は見た目には分からない障害であり、周囲から気づかれることも少ないですが仕事・学習・コミュニケーションに支障が生じ、生活の質が低下することがあります。また、危険の察知が遅れる場合もあります。適切な支援や補聴機器の使用により生活の質の改善が得られる可能性があります。
中高年では聴神経腫瘍が原因の一側性難聴もあります。進行が遅く気づきにくいですが、進行すると顔面神経麻痺、めまい、嚥下障害などが現れ、命に関わることもありますので、できるだけ早く受診しましょう。
すでに一側性難聴と診断されている方も、経過観察を続けることが大切です。定期的に耳鼻咽喉科を受診するように心がけましょう。
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