喉頭がん、中咽頭がん、下咽頭がんなどの頭頸部がんで喉頭(声帯)を切除された場合、自身の声が永遠に失われてしまいます。しかし、たとえ「声」を失ってしまっても「話す」ことをあきらめる必要はありません。代用発声法を用いれば再び「話す」ことができます。また、最近では、最新技術を用いて失った自分の声を再び獲得する研究もすすめられています。
「話す」ことは、コミュニケーションや感情表現をし、自分らしく活き活きと社会生活を送る上でとても大切な機能です。最新情報に注目して前向きで充実した人生を目指しましょう。
咽頭とは、鼻の奥から食道の入り口まで続く、食べ物と空気の通り道です。
喉頭は、呼吸した空気を気管に、食べ物や飲み物を食道に振り分ける働きをしています。また、発声するために不可欠な声帯があります。
そのため、喉頭がん、中咽頭がん、下咽頭がんなどで声帯を切除すると、声が失われてしまいます。
現在、喉頭を摘出し声を失った方には、食道の粘膜を震わせて声を出す「食道発声」や、電池式振動器を喉に当てて声を出す「電気式人工喉頭による発声」、気道と食道の間にボイスプロステーシスを留置して声を出す「シャント発声」の3つの方法が用いられています。
3つの代用発声法の普及率は、国や文化によって異なります。欧米では発声可能時間が長い「シャント発声」を選択する人が大半を占めていますが、日本では生活環境や年齢層などにより、選ぶ代用発声法はそれぞれです。喉頭を摘出した後でも、これらの代用発声法を修得することで、周りの人とコミュニケーションができるようになります。
「現在主流となっている3つの代用発声法」
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のウェブサイトより転載
口や鼻から食道内に空気を送りこみ、ゲップの要領でその空気をうまく逆流させて食道入口部の粘膜を振動させ、発声する方法。
電気式人工喉頭の先端を首に当て、振動を声道内に共鳴させて発声する方法。
食道と気道をボイスプロステーシスと呼ばれるシリコン製の管でつなぎ、肺からの空気を食道に伝えて発声する方法。
上記の3つの代用発声法に加えて、近年では手術前に自分自身の声を録音保存しておく試みも進められております。名古屋大学では、医学部と情報学部の医工連携により、手術後の代用発声から自分の声に変換する取り組みが始まっております。これらの技術はまだ研究段階ですが、将来的に代用音声を自分らしい音声に変換できれば、従来よりもより積極的な社会への参画が可能になり、自然な発話や、さまざまなシーンに合った自分らしい会話を、より楽しめるようになると期待されています。
「手術前に自己音声を収録して、代用発声用に応用! Save the Voiceプロジェクト」
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のウェブサイトより転載
手術で音声を失ってしまう前に音声を保存しておき、手術後に代用発声による音声と音声変換技術を用いて、自分の音声を取り戻すことを目標としています。
※この取り組みは名古屋大学で行われており、まだ研究段階のものです。
声を失うことは不安で、とても大きな決断を伴います。でも「話す」ことをあきらめなくていい時代、失うことを前提にせず、守ること・より自分らしい声を取り戻すことができる時代が、今まさに始まりつつあります。そのために、医師や研究者たちは、技術と情熱をもって新たな選択肢を広げています。もし声のことで悩んでいるなら、まずは主治医に相談してください。
監修:名古屋大学 大学院医学系研究科
総合医学専攻 頭頸部・感覚器外科学 准教授
西尾 直樹 先生
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「頭頸部外科月間 “話す”を支える Save the Voice! 失われた声を取り戻す「自己音声保存」への取り組み」(掲載日:2025年8⽉22⽇)より引用
取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。