てんかんは、脳の神経細胞が突発的に興奮することで“てんかん発作”と呼ばれる症状を繰り返す病気です。脳の病気の中では決してまれなものではなく、性別を問わずさまざまな年齢で発症します。
この記事では、てんかんの症状や治療法などの概要について解説します。
てんかんは、てんかん発作と呼ばれる特徴的な発作を繰り返す脳の病気です。
脳の神経細胞は神経回路によってつながっており規則正しい電気信号で連絡しあっていますが、なんらかの原因で電気信号のリズムが乱れ、神経細胞の一部に激しい興奮が生じることでてんかん発作が引き起こされます。
どのようなてんかん発作が起こるかは興奮が生じる脳の部位によって異なり、激しいけいれん、手足の硬直、短時間の意識消失など多種多様です。また、人によっては発作が起こる前に何らかの前兆症状が現れる人もいます。
てんかんは、脳に何らかの障害や傷があって発症する場合(症候性てんかん)と、原因不明の場合(特発性てんかん)があります。
症候性てんかんの原因としては、出生時の脳の損傷、低酸素、脳炎、髄膜炎、脳出血、脳梗塞などが挙げられます。
特発性てんかんは血液検査や頭部画像検査を行っても明らかな異常が見られず、はっきりとした原因がまだ分かっていないてんかんのことを指します。てんかんは必ずしも子どもに遺伝しないものが多いとは考えられていますが、特発性てんかんの一部で“てんかんの起こりやすさ”は遺伝する可能性が考えられており、親がてんかんを持っていると子どももてんかんを発症しやすくなる可能性があります。
てんかんは、100人あたり1人程度に見られる比較的頻度の高い病気です。発症年齢は3歳以下がもっとも多く、年齢が上がるにつれ発症者数は減少しますが、60歳を超えると脳の病気(脳梗塞や脳出血など)を原因としたてんかんが増えるようになります。
てんかんの症状は、てんかん発作と呼ばれる発作症状です。てんかん発作は、脳の異常な興奮が見られる範囲によって部分発作と全般発作に分けられます。なお、2017年にてんかんの分類が改訂され、これからは部分発作などの用語が使われなくなっていくと思われますが、ここでは今までの用語を使って説明します。
脳の一部分が興奮して起こる発作です。興奮する部位によっては、発作中も意識がはっきりしている場合(単純部分発作)と意識障害を伴う場合(複雑部分発作)があります。具体的な症状は多岐にわたりますが、単純部分発作では運動機能の障害(手足のつっぱり、首や目が勝手に動く)、感覚機能の異常(光が見える、音が聞こえる)、自律神経の異常(吐き気や頭痛が起きる)などが見られます。複雑部分発作では急に動作が止まり、顔をぼーっとさせる、突然意味のない動作を繰り返すようになるなどの症状が見られます。
脳の全体が興奮して起こる発作です。全般発作では、ほとんどの患者で意識の消失が見られます。
突然意識を失い体がこわばる強直発作、手足をがくがくけいれんさせる間代発作、突然意識を失う欠神発作、全身の力が入らなくなる脱力発作などがあります。
てんかん発作はいつどのタイミングで起こるか分からず、てんかん発作が起こると本人は体の自由がきかなくなることも少なくありません。
脳がリラックスしているときや、長時間にわたって集中や緊張してその緊張がほどけたときに発作が起こりやすくなる可能性が考えられています。
てんかんは、日常生活で何らかの発作症状が見られたことをきっかけに受診し、診断されることがほとんどです。発作の様子はてんかんの診断の重要な情報ですが、診察時に発作が現れることはほとんどないため、患者や家族への問診をもとに診断が進められます。
問診の結果、てんかんの疑いが強いと判断された場合、脳波検査、CT・MRI検査、血液検査などの精密検査を行い、てんかんの確定診断を行います。
てんかんの治療は、抗てんかん薬と呼ばれる薬による治療が中心となります。抗てんかん薬は脳の過剰な興奮を抑えるはたらきがあり、飲み続けることでてんかん発作を起こさないようにするために内服します。
抗てんかん薬による治療効果が不十分で、発作を起こす場所が脳の一部分であることが明らかな場合などは、外科手術を検討する場合もあります。外科手術では、発作が起こっている部分を中心として脳の一部を切除します。手術を行うことで発作がなくなったり、抗てんかん薬が効きやすくなったりします。
てんかん治療では、発作が起こる可能性があるうちは抗てんかん薬を飲み続けなければいけません。しかし、人によっては薬物治療によって発作が消失している期間が続けば、薬の数や量を減らしたり服薬を中止したりできることもあります。
てんかんは脳の電気信号の異常によって起こる発作症状を特徴とする病気で、あらゆる年代の人が発症する可能性があります。適切な治療を受けることで健康な人と同じような生活を送ることもできるので、気になる症状がある場合は医療機関を受診するようにしましょう。
*2017年のてんかん分類では、“部分発作”は“焦点起始発作”、“単純部分発作”は“焦点意識保持発作”、“複雑部分発作”は“焦点意識減損発作”のように、一部の用語が変更されています。今後、このような用語が使われるようになっていくものと思われます。
神奈川県立こども医療センター 神経内科科長
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