確かな技術で、患者さんの生きる道しるべをつくる

東京医科歯科大学 医学部 頭頸部外科学講座 教授
朝蔭 孝宏 先生

確かな技術で、患者さんの生きる道しるべをつくる

卓越した技能で難治症例の患者さんを救う朝蔭孝宏先生のストーリー

公開日 : 2017 年 05 月 30 日
更新日 : 2017 年 06 月 01 日

外科医の仕事は患者さんの生きる道しるべをつくること

患者さんが無事に退院していく姿をみると、心の底からほっとします。

「先生、ありがとうございました」

そう感謝の言葉をいただけると、本当に医師をやっていてよかったなと思えます。私のもとへやってくる患者さんは、他院では治療が難しいといわれた、いわゆる難治症例の患者さんが多くいます。藁にもすがる思いで訪ねてきてくれる患者さんをよく診もせずに断るようなことは絶対にしません。患者さんは、自分はもう病気を治せないのか、という失望のなかで、それでも最後の希望をもって私のところへやってきているのですから。

私の役目は「手術によって患者さんの生きる道しるべをつくること」だと考えています。唯一病気を根治できる可能性のある方法が手術だからこそ、私たち外科医はその道しるべをつくるべきだと思っています。

どうせなら、人の命に直接かかわりたい。耳鼻科から頭頸部外科の道へ

山形大学医学部を卒業して、私がまず入局したところは東京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科でした。耳や鼻を診療することももちろん興味深く、面白く取り組んでいたのですが「どうせ医師として長く生活するのであれば、直接命にかかわるような医療をしたい」と思い、耳鼻咽喉科の一分野としてあった頭頸部外科へ転向。頭頸部外科医としての道を歩み始めました。

頭頸部外科では、頭や喉にできる腫瘍を中心に、首から上の外科領域をすべて担当します。扱う主な疾患は舌がんなどの口腔がん、咽頭がん、上顎洞がんなどの鼻副鼻腔がん、耳下腺腫瘍、甲状腺腫瘍、頭蓋底腫瘍など。頭蓋底腫瘍など、脳の底にできる腫瘍は手術の難易度がとても高く、手術できる医師も日本ではそう多くありません。ときには20時間以上にも及ぶ手術を経験することも珍しくありませんでした。

加えて、頭頸部外科の領域は審美・機能的にも大きく患者さんの人生を左右する部分です。いくらきれいに腫瘍をとったとしても、嚥下機能などに障害が残れば、患者さんはその障害を一生背負って生きていかなければなりません。また機能的に問題がなくても、顔はあらわになる場所だからこそ、いかに審美的に美しいかたちを保って治療をするかが鍵となります。術後の合併症にも配慮しながら腫瘍を切除し、美を保つ手術は、とても大変でした。

上司のもとで日々トレーニングを積み、高度な技術を会得するのに精いっぱいの日々。また、せっかく大掛かりな手術を行っても数か月後には再発してしまうこともあり、そのときはとても落ち込んだものです。果たして自分はちゃんと患者さんを救えるのだろうか。悶々と悩んだこともありました。しかし、考えれば考えるほど患者さんを救えるものは確かな手術以外にはないと信じ、トレーニングに明け暮れました。

自分の手に託された幼い命を救うために

今まで数多くの手術を経験しましたが、今でも昨日のことのように思い出せる手術がふたつあります。どちらも、子どもの患者さんでした。

一人は11歳の眼窩悪性黒色腫頭蓋内進展の患者さん。大規模な後方視的研究では、頭蓋内に進展した悪性黒色腫の生存率は0%という結果が出ていました。

過去に生きながらえた例のない厳しい症例ではありましたが、患者さんはまだ未来のある子ども。なんとか生かしてあげたい、元気になって、笑顔で生活してもらいたいという思いで手術に臨みました、手術は無事、成功し術後10年以上経った今でも、再発や転移も起きていません。立派な大人になり、元気に過ごされていると聞いたときはとても嬉しかったものです。

もう一人は8歳の眼窩骨肉腫の患者さんでした。もともと網膜芽細胞腫という目の病気で、片側の眼球をすでに摘出していました。しかし今度はもう一方の眼球裏に骨肉腫が現れてしまったのです。そして残った目の視力も失われつつありました。

眼球裏に生じた骨肉腫を取るには、残ったもうひとつの目を犠牲にせざるをえません。

「通常は両目とも見えなくなるような手術を行うことはないのですが、どうしますか」

私は患者さんのご両親に問いかけました。するとご両親はこちらを見据えて、強くおっしゃいました。

「目が見えなくなることは確かにつらいかもしれません。それでも、私たちはこの子にどうしても生きてもらいたいんです」

その言葉に私は胸を打たれ、絶対にこの手術を成功させるという思いで骨肉腫摘出のための頭蓋底手術を決行しました。あれから10年経ちましたが、再発や転移がなく、この子も元気でいるそうです。

どちらも難しい手術ではありましたが、臆せずに手術に臨んだこと、そして今まで堅実に自身の手術の腕を磨いていたことで、二人の未来ある幼い患者さんを救うことができました。手術から何年経っても患者さんが元気でおられることは、医師として本当に嬉しいものです。

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東京医科歯科大学 医学部 頭頸部外科学講座 教授

朝蔭 孝宏 先生

日本でも数少ない頭頸部がん治療のスペシャリスト。患者さんへの負担が少ない低侵襲治療の研究を推し進める傍ら、20時間以上にも及ぶ頭蓋底手術を年間12例以上行う。頭頸部領域のあらゆる腫瘍性疾患に対して、最適、最高の医療を提供する。

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