がん遺伝子パネル検査は、がん細胞に生じている遺伝子の変化を幅広く調べ、一人ひとりの患者さんに適した治療法を探すための検査です。
人体には約2万種類の遺伝子が存在し、その一部はがんの発生や進行に深く関わっています。近年では、特定の遺伝子異常を標的とした分子標的薬が次々と開発されており、遺伝子異常に応じた「がんゲノム医療(個別化医療)」が進んでいます。がん遺伝子パネル検査では、「次世代シークエンサー(NGS)」という解析装置を用いて、一度に数十~数百種類のがん関連遺伝子を解析します。その結果をもとに、現在承認されている治療薬や臨床試験などを含め、患者さんごとに適した治療選択肢を検討します。

日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のウェブサイトより転載
がん遺伝子パネル検査は、すべてのがん患者さんが受けられる検査ではありません。現在、保険診療では、標準治療がない、または標準治療の終了が見込まれる患者さんなどを主な対象として実施されています。
通常の細胞は規則正しく増殖しますが、がん細胞は遺伝子の異常によって増殖の制御を失い、増え続けます。現在のがん治療には、手術・放射線治療・薬物療法といった標準治療があります。
がん遺伝子パネル検査の目的は、標準治療だけでは十分な治療選択肢がない患者さんに対して、遺伝子異常に応じた治療薬や臨床試験など、新たな治療の可能性を探すことです。
たとえば、こんな症例があります。
50歳代の男性Aさんは、数年前に唾液腺がんの手術を受けましたが、その後、肺転移が見つかりました。これまで受けられる標準治療を終え、新たな治療法が限られる状況となったため、がん遺伝子パネル検査を受けました。その結果、Aさんのがんに認められた遺伝子異常に対応する薬剤が見つかり、薬物療法を開始しました。現在も病状は良好にコントロールされ、3年以上にわたり日常生活を送りながら治療を継続しています。
ただし、すべての患者さんで有効な治療法が見つかるわけではありません。遺伝子パネル検査によって治療につながる可能性は、がんの種類や検査内容によって異なりますが、一部の患者さんでは新たな治療選択肢が得られています。
特に唾液腺がんと甲状腺がんの一部では、治療につながる遺伝子異常が比較的高い頻度で見つかります。一方、舌がん、中咽頭がん、下咽頭がん、喉頭がんなどでは、治療につながる遺伝子異常が見つかる頻度は高くありませんが、患者さんによっては分子標的薬や臨床試験につながる遺伝子異常が見つかることがあります。
遺伝子パネル検査は、下記のような流れで行われます。

日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のウェブサイトより転載
がん遺伝子パネル検査を検討する際は、検査によって期待できる効果だけでなく、結果が判明するまでの時間や費用なども含めて、検査を受ける意義があるかを主治医と十分に相談することが大切です。ぜひ知っておきたいポイントは、次の4つです。
1)がんの種類によって治療につながる可能性が異なります。
がんの種類によって、治療につながる遺伝子異常が見つかる頻度は異なります。
2)検査結果が出るまで時間がかかります。
検査結果が判明するまでには、通常数週間〜2カ月程度かかります。
3)費用がかかります。
検査は保険診療で実施されますが、所定の自己負担が生じます。ただし、高額療養費制度を利用できる場合があります。
4)家族に関係する遺伝子異常が見つかることがあります。
まれに、生まれつき受け継がれた遺伝子異常(生殖細胞系列変異)が見つかることがあります。その場合には、ご本人だけでなくご家族にも関わる可能性があるため、必要に応じて遺伝カウンセリングをご案内します。

日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のウェブサイトより転載
がん遺伝子パネル検査を受ける意義は、がんの種類や病状、これまでの治療経過などによって患者さんごとに異なります。また、検査結果の解析・解釈は非常に専門性が高いため、検査後には「エキスパートパネル」と呼ばれる専門家会議で結果を検討し、患者さんの全身状態や病状を踏まえて最適な治療方針を検討します。そのため、がん遺伝子パネル検査は、一定の要件を満たした医療機関で実施されています。
近年、がんゲノム医療は急速に発展しています。従来は手術などで採取したがん組織を用いた検査が中心でしたが、現在では患者さんへの負担が少ない血液(リキッドバイオプシー)を用いた遺伝子パネル検査も実施されるようになっています。また、遺伝子情報の解析技術やデータベースも日々進歩しており、これまで治療法が見つからなかった患者さんにも新たな治療選択肢が見つかる可能性が広がっています。さらに、AI(人工知能)の活用についても研究が進められており、将来的には遺伝子解析や治療選択を支援する技術としての活用が期待されています。
がんゲノム医療は今後も大きく進歩していくと考えられます。医療は日々進歩しているため、患者さんも主治医と十分に相談しながら、その時点で最適と考えられる治療を選択していくことが重要です。
監修:東京慈恵会医科大学 耳鼻咽喉科学教室
岡野 晋(オカノ ススム)先生
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「がん遺伝子パネル検査とは?~あきらめない頭頸部がん治療、最前線~」(改訂日:2026年8⽉13⽇)より引用
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