DOCTOR’S
STORIES
未来の人々をも救うため「診断と治療がしっかりできる医師」の育成に尽力する、大曲貴夫先生のストーリー
私は、酪農を営む両親のもとで育ちました。ある日、小学生だった私は病気を患い、心配した母が佐賀医科大学医学部附属病院(現:佐賀大学医学部附属病院)に連れて行ってくれました。そして、子どもながらに「両親に心配をかけている」と後ろめたさを抱いた私は、このように考えるようになりました。
「医者になれば両親に心配をかけなくなるのではないか」
たまたまその日は、佐賀医科大学(現:佐賀大学医学部)の入学式でした。晴れやかな顔をした学生たちの様子を見た母親が、ふと「いいなあ」と口にしたのです。きっと、保護者として大学の入学式に参加することに、憧れを抱いたのでしょう。
私には子どもの頃の記憶がほとんどありませんが、あのときの「心配をかけないために医者になろう」という思いと、母親の言葉だけは、なぜかずっと心に残っています。
高校生になった私は柔道部に入部し、当時、顧問(現:佐賀県柔道協会 顧問)をされていた、恩師となる光武則秋先生に出会いました。国士舘大学出身の猛々しく威厳がある光武先生は、
「文武両道!勉強だけではなく体も鍛えなさい」
「新聞を毎日読んで世の中を理解しなさい、教養のある人間になりなさい」
と、よく仰っていました。子どもから大人になる大事な過程である高校時代に、柔道以外にも、人として成長するにあたって必要なことを教えてくださった先生です。
なかでも、大局的に物事を考えること、つまり物事の一部分にとらわれず全体を俯瞰したうえで考えることの大切さを教えてくださいました。
進学先の選択に頭を抱えていた高校3年生のころ、先生方は、英語や歴史などの文系教科を得意としていた私に、官僚になったらどうかと助言をくださいました。しかし、なぜか首を縦に振れない自分がいたのです。その理由を、そのときは分からないでいました。
考えても考えてもこれだという解を得られないまま日々を過ごしていたところ、思いがけず光武先生の教えが脳裏をよぎりました。大局的に物事を考えること。次の瞬間、私は大局的に自分自身の進路を捉えられているのだろうか、という問いにぶつかったのです。そして、長い人生のうえでは通過地点でしかない、文字通り「進学先の選択」という一点にとらわれ、悩んでしまっていることに気が付いたのです。そこでようやく視点を変え、大局的に「将来、自分はどんな大人になりたいのか」を考えはじめました。すると、ふと子どものころの記憶が蘇ってきたのです。
「そういえば、医者になりたかったのだった」
胸のつかえがとれてさっぱりした私は、医師を志すことをすんなりと決意できたのです。
光武先生との出会いがなければ、自分なりの解を求める過程を経ることなく、流されるままに官僚の仕事を目指していたかもしれません。
進学先は、子どものころに母親と入学式を眺めた、あの佐賀医科大学の医学部でした。
医学部での勉学に励み医師となった私は、聖路加国際病院に研修医として着任。そこで、私の指導医となってくださった古川恵一先生(現:地方独立行政法人 総合病院 国保旭中央病院 感染症センター長)から、診療の手ほどきを受けました。
古川先生は、患者さんに寄り添い、患者さんが病気を患う前の生活状況などのお話にまでしっかりと耳を傾ける、とにかく診療に膨大な時間を割く医師です。古川先生の診療スタイルを目の当たりにした私は、ある大切なことに気づきました。診断や治療の鍵となるのは、患者さんとの会話から、患者さんの日常の生活スタイルや習慣を適切に把握することだ、ということです。
日々、患者さんは、知らず知らずのうちに仕事や食事から影響を受けた生活を送っていらっしゃいます。職業によっては、不規則なシフト制で勤務している場合もあります。患者さんは、そのようないつも通りの日常生活のなかで、病気を患うのです。診療中のお話からそうした患者さんお一人おひとりの背景を汲み取ることができなければ、なぜ患者さんが病気を患ったのか、ひいては目の前の患者さんが抱える症状が今後どのような経過をたどる可能性があるのかを、私たち医師は推定するに至れないはずなのです。
私自身は、検査値や症状といった病気自体を診るだけでは足りないと考えています。たとえば、病気になりかけの段階で診断ができれば、治療に早く移ることができるだけでなく、病気の悪化を予防できる可能性が上がるかもしれません。そして、結果的によりよい予後を送っていただくことができるかもしれないのです。
患者さんの背景から起こりえる病気、そして患者さんの体の中で実際に何が起こりかけているのか、これらを患者さんとの会話から推定したうえで、検査結果に依存しすぎることなく診断することが重要である、と思えるようになったのは、古川先生の診療スタイルをそばで見ていたからでした。
古川先生と出会って、私の理想の医師像が固まりました。それは、医療のプロとして当たり前のことではありますが、「診断と治療がしっかりとできる医師」です。「物分かりがよい」、「人当たりがよい」などの細々とした目標も掲げていますが、これらはあくまでも付加目標だと捉えています。
実際に患者さんの背景を把握したうえで診断に至るためには、限られた診療時間のなかで患者さんから話を的確に引き出し、さらに核心に迫れる認知能力・判断能力が不可欠です。それには、患者さんの日常生活をお話から想定できるほどの、世間一般的な知識をはじめとした教養を培う努力も必要だと考えています。
世間一般的な知識として、「職業」で例を挙げます。患者さんの職業はどれほど体を動かす仕事なのか、どれほどストレスを受ける仕事なのか、正しい生活リズムを維持できない仕事なのか、どういった価値観をもっているのか、などといったことを想像できるようにならなければいけません。そのためには、医療だけではなく社会や人にも関心をもって、知見をいかに広げられるかが重要になります。
そうした理由から、診断と治療がしっかりできる医師になるためには、教養を培い深めることが必要だと強く感じています。
医師の仕事は、人の命を救う仕事です。「人の命を救う」ということは、目の前の患者さんだけではなく、そこからつながる未来の人々をも救うという意味も持ち合わせていると考えています。そして、自身の専門分野で得た知見だけでなく、これまでの人生で構築してきた医師としての価値観を、後進の医師たちに伝えることで、後の世代によるさらなる能率的な医療の発展に、間接的に寄与することができるのではないでしょうか。つまり、後進の医師を育てることは、未来の人々を救うことにつながっていくと思います。
そのため私は、診断と治療がしっかりできる後進の医師の教育に尽力しています。後進の医師たちには、診療時の会話から患者さんの背景を把握できるようになるために、教養を身につけなさいと伝えています。
私も時折、自身の教養のなさに打ちのめされることがあります。そうしたときは、積極的に本を読んだり、世の中のことを学んだりしています。
教養を深めることで、幅広く深みのある思考力が身につきます。そのような思考力は、人生において大きな財産になりますが、なによりも時間の限られた診療の場面で大いに役立つのです。「診断と治療がしっかりとできる医師」という理想に少しでも近づくため、これからも研鑽を積みたいと思います。
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