兵庫県西宮市にある兵庫医科大学病院は、1972年の開院以来、50年以上にわたって阪神地区の地域医療を支えている急性期の病院です。現在は41の診療科と963床の病床を備え、県内最大規模の中核病院として地域医療の要を担っています。
また、同院を含めて県内で2施設しかない特定機能病院に指定されており、日々高度な医療技術を追求するとともに、2026年秋のオープンを目指して新病院棟の建設計画を進めています(2024年時点)。
そんな同院の特長について、院長の池内 浩基先生にお話を伺いました。
1972年に開院した当院は、特定機能病院(高度の医療の提供、高度の医療技術の開発や高度の医療に関する研修を実施する能力がある病院)でありながら、地域の皆さんにやさしい病院を目指して歩みを進めてきました。当院では地域の皆さんにさらに貢献するために、2013年4月に急性医療総合センターを開設。急性医療総合センターには、救命救急センターや集中治療センター、周産期センターなど超急性期医療に関する部門を1つの施設に集め、手術センターも併せて配置しました。これにより、緊急の対応が必要な患者さんや災害時に適切に医療を提供できる体制を整えることができました。
その後2016年には認知症疾患医療センターを設置しました。さらに2019年には兵庫県難病診療連携拠点病院やがんゲノム医療拠点病院の認定を受け、2020年には地域がん診療連携拠点病院に指定されています。当院はこれらを通じて、高齢化に従って増えてきた病気に対して大学病院として期待される医療を提供できるようになりました。
現在当院は新病院棟を建設しており、2026年秋のオープンを予定しています。15階建て、約800床の病床を備えるこの新病院棟は“Human Centered Hospital”をキャッチフレーズに、ひとが主役の未来型スマート病院となります。“ひと”は患者さん、ご家族、地域にお住まいの方、さらには当院の職員までを含んでいます。“スマート病院”が目指すのはIT、AIを使ったDXの活用による、より効率的な医療の提供です。
新たな設備や導線によって質の高い医療をより安全に提供することができることに加え、免震構造や止水対策を行うことにより災害拠点病院としての機能も充実します。ぜひ新病院棟開設による当院のさらなる進化にご期待ください。
当院は、炎症性腸疾患を専門とするIBDセンターを設立し、難病に指定されている潰瘍性大腸炎やクローン病などの診療に力を入れています。
同センターの患者数は2,000人以上と国内で見ても非常に多く、手術の症例数も潰瘍性大腸炎とクローン病を合わせて年間350例ほどのペースで診療を行っています。
こうした炎症性腸疾患に加え、当院では中皮腫や眼科の斜視手術においても豊富な治療実績があります。中皮腫は呼吸器内科と呼吸器外科が診ており、外科的治療に加え内科的治療も行っています。外科、内科の両方の治療を行える病院は少なく、当院は稀少な役割を担っていると言えるのではないでしょうか。
また斜視については、2011年に開設した眼科専用の手術室を3室備えたアイセンターにて交代プリズム遮閉試験、HESSや大型弱視鏡などの専門的な検査を提供しているほか、手術件数も非常に多く、2022年度には1,000件以上の手術を行っています。
当院の脳神経外科は、カテーテル(細い管)を用いた体にやさしい治療(脳血管内治療)において、全国的トップクラスの実績を持っています。特に脳梗塞の治療は時間との勝負です。当院では救急隊や医療機関とのホットラインを活用して迅速に搬送できる体制を構築しており、急性再開通療法(t-PA療法、血栓回収療法)を年間100例以上のペースで行っています。
また、当院は特定機能病院として新しい治療を積極的に取り入れています。脳神経外科では未破裂脳動脈瘤に対する新しい血管内治療として、フローダイバーター(網目状の金属の筒)留置術や動脈瘤内フローダイバーター留置術を数多く実施しており、全国から患者さんが来院されています。
当院は地域がん診療連携拠点病院や小児がん連携病院、がんゲノム医療拠点病院に指定されており、2007年に開設したがんセンターにて手術、放射線療法、化学療法による集学的な治療やがんゲノム医療、さらには緩和ケアまでの包括的ながん診療を行っています。
特に当院では低侵襲(からだへの負担が少ない)な治療に努めており、手術支援ロボット“ダヴィンチ Xi”を泌尿器科、上部消化管外科、下部消化管外科、産科婦人科、呼吸器外科などのがんの手術に活用中です。下部消化管外科では、かなり進行した大腸がんに対する骨盤内臓全摘術にもダヴィンチを役立てています。
各診療科において、ダヴィンチが保険適用となる病気は以下になります。
中咽頭がん
さらに当院は、 “エキスパートパネル実施可能がんゲノム医療連携病院”にも指定されています。これは、当院で遺伝子パネル検査(患者さんに合う薬剤があるかどうかを調べる検査)を行ったのち、エキスパートパネル(検査結果に基づいて患者さんに合う薬剤を検討する会議)を経て抗がん剤による治療を行えるもので、兵庫県で唯一当院が指定されています(2024年9月現在)。また、2代目手術ロボット「hinotori」を2024年度より導入し、ロボット支援下手術の対象を広げ、件数を増やしていく予定です。
我々は2015年、当院内に“兵庫医科大学 健康医学クリニック”を開設しました。治療だけでなく予防にも力を入れる当院は、ここに大学附属病院ならではの新しい機器を導入し、大学病院と連携した健康診断や人間ドックを提供しておりました。
このクリニックがご好評をいただいたことから、本学50周年を迎えた2022年にはより多くの方々に“健康医学クリニック”を利用していただけるよう、西宮のクリニックを大阪の中心である梅田の一等地に移転。新たに“兵庫医科大学 梅田健康医学クリニック”を開設しました。同クリニックは各ターミナル駅と直結したツインタワーズ・サウス13階に位置しており、梅田の阪神百貨店の上にあるというその立地の良さからさまざまな地域よりご来院頂いています。
診療内容としては、健診や人間ドックに加えて外来医療も提供しており、胃や腸など消化器に関する患者さんが大半を占めています。また、健康診断といえばバリウムを飲んでの造影検査を思い浮かべる方の多いと思うのですが、当院では日本消化器内視鏡学会認定の専門医による胃カメラ(上部内視鏡検査)や大腸カメラ(下部内視鏡検査)での検査も行っています。さらにはMRIやCTによる精密検査も積極的に行っており、これまでに比べてより正確な健診を提供していると自負しています。
全国同様、阪神間でも人口減少が続いており、今後、地域の病病連携、病診連携がますます重要となります。当院は大学病院なので敷居が高いイメージを持たれがちですが、新規開業の先生を含め地域の医療機関との交流を深め、救急医療なども積極的に受け入れていき、いざという時にスムーズな医療を提供できるよう取り組んでいきたいと考えています。
また、2026年秋オープンを予定している新病院棟については、移転時に提供する医療を充分に保てるよう、しっかりとシミュレーションを行う予定です。新しい病院棟で我々が提供する新時代の医療にぜひご期待ください。
当院は、これからも特定機能病院として先進医療を追求し、県内最大規模の病院として地域医療をけん引して参ります。