JCHO北海道病院は、1953年の設立以来、北海道社会保険中央病院、北海道社会保険病院として地域の医療を支えてきました。2014年4月には独立行政法人地域医療機能推進機構(Japan Community Health care Organization:JCHO)北海道病院として新たに出発し、2024年で発足10年目を迎えました。
同院は“地域の人々を中心とした質の高い医療・介護を提供し、地域から信頼される病院になります”という理念を掲げています。周産期から成人・高齢者までの急性期医療を中心とした地域医療に貢献することを目的とし、消化器、呼吸器、腎・膠原病、周産期の4センターをはじめ、各診療科それぞれが専門性の高い医療を提供するとともに連携を密にして、総合的な診療に努めています。同院の医療の特徴について院長である古家 乾先生にお話を伺いました。
消化器科センターは、2007年4月1日に開設しました。診断から内視鏡的治療、経皮・経カテーテルインターベンション、外科治療、がん化学療法、緩和医療まで幅広く診療しており、さまざまな専門医・指導医の資格を持った医師が在籍しています。また、従来からの内科と外科の垣根を取り払い、毎週合同カンファレンスを行って、迅速かつ適切な治療を行えるように取り組んでいます。
患者さんのニーズに応え、低侵襲な内視鏡治療やIVR治療、鏡視下手術(胃がん、大腸がん、胆石症、急性虫垂炎、鼠経ヘルニアなど)、肝胆膵悪性腫瘍(かんたんすいあくせいしゅよう)の外科手術やロボット手術も積極的に取り入れております。また、腫瘍内科と連携して、がん化学療法、緩和医療、在宅や施設での栄養管理のための胃ろう造設、中心静脈ポート造設なども行っています。
呼吸器センターは呼吸器内科と呼吸器外科からなり、密接に連携して多岐にわたる呼吸器疾患に対応しています。入院の契機となることが多い病気は、原発性肺がん、急性肺炎、間質性肺疾患、誤嚥性肺炎などです。また、肺結核、間質性肺疾患、過敏性肺炎、気胸、膿胸など種々の原因による、重症急性呼吸不全から長期の在宅管理が要求される慢性呼吸不全まで、ほとんど全ての病気に関して当院で対応できることが大きな強みであり、当呼吸器センターの特徴です。
腎・膠原病センターでは、腎臓内科の専門医*とリウマチの専門医**がそれぞれの専門性を保ちつつ協力して腎疾患と膠原病の診療にあたっています。
腎臓内科では、蛋白尿や血尿、糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、慢性腎臓病、腎不全などの診療を行っています。また、必要な患者さんに対しては血液透析や腹膜透析を導入し、管理しています。膠原病内科では、患者さんの多い関節リウマチのほかに全身性エリテマトーデスや各種血管炎症候群など、膠原病全般の早期診断と最新治療も取り入れながら適切な治療の提供を目標に診療を行っています。
*腎臓内科の専門医……日本腎臓学会認定の腎臓専門医を指す。
**リウマチの専門医……日本リウマチ学会認定のリウマチ専門医を指す。
周産期医療センターは、2001年にNICU(新生児集中治療室)を開設し、地域周産期母子医療センターに指定されました。NICU 9床、GCU(回復治療室) 12床に加えてMFICU(母体・胎児集中治療室)3床という体制を整えています。
2023年4月からは、北海道地域医療構想により当院とKKR札幌医療センターとで産婦人科の機能分化を行い、体制を変更しています。当院では、周産期医療をメインに、KKR札幌医療センターでは婦人科領域(がんなど)をメインに、2つの病院で協働して診療を行っています。このように機能分化を行ったことでより専門性に特化した医療を提供できることはもちろん、症例が集約され技術や経験が蓄積されることで、医師をはじめ医療スタッフの研修や育成環境が充実することも期待されます。
地域周産期母子医療センターとして、以前から切迫早産や合併症妊娠などリスクの高い妊娠や出産にも広く対応していますが、機能分化によりさらに充実した周産期医療の提供ができるよう、現在、感染症対策として、陰圧対応手術室を整備しています。
陰圧対応手術室とは、室内の気圧を低くできる手術室のことで、空気感染する可能性のある細菌やウイルスなどを外部へ流出させないよう調整することが可能となっています。これにより、新型コロナウイルスなど感染症を合併している妊婦さんにも対応しやすくなります。また、周産期専用の手術室が確保できたことで緊急の帝王切開などの場合もスムーズな対応が可能です。
さらに、当院では無痛分娩も開始しており、患者さんのニーズに合わせ幅広く対応できるよう環境を整えています。今後も、新生児科と産科の協力体制で、この地域における周産期医療の基幹施設として求められる役割を、積極的かつ安定的に担い続けていければと思っています。
2020年より、循環器の専門医(日本循環器学会認定 循環器専門医)が常勤しており、経胸壁心エコー、冠動脈CT、運動負荷試験、ホルター心電図など各種検査をはじめ、入院による心臓カテーテル検査・治療(PCI)も行っています。また、不整脈に対するカテーテルアブレーション治療なども積極的に実施しており、病気の二次予防のため心臓リハビリテーションにも力を入れています。
泌尿器科では、前立腺肥大症、膀胱瘤、尿路結石など良性疾患から、前立腺がん、膀胱がんなど悪性腫瘍の治療まで幅広く対応しています。
当院では、2023年4月から道内初の“MRI-fusion前立腺生検”を開始しています。これは、生検の際にMRI画像と超音波検査を融合させることにより、前立腺がんの検出を精細に行うことが可能となる検査です。
また、前立腺がんの手術には手術支援ロボット(ダビンチXi)による“ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術”を実施しています。当院には、泌尿器ロボット支援手術プロクター認定医*(膀胱・前立腺)もいるので安心して治療を受けていただけるのではないかと思います。受診された方はもちろん、当院の健康管理センターなどで前立腺がんの疑いを持たれた方についても、検査から治療までスムーズに当院で完結することが可能です。
*泌尿器ロボット支援手術プロクター認定医……日本泌尿器科学会/日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会より認定を受けた医師を指す。
整形外科では、股関節・膝・足の病気(下肢疾患)から、背骨の病気(脊椎疾患)、肩・腕・肘・手の病気(上肢疾患)まで広く対応しています。高齢者に多い変形性関節症の治療をはじめ、半月板損傷などスポーツ障害の治療も積極的に行っています。また、お子さんに多い側弯症(背骨の変形)の手術や、装具による治療も行っています。
2024年4月からは、整形外科の医師が増員する予定なので、人工関節の治療などにもより力を入れて取り組んでいければと思っています。
当院では2023年12月より手術支援ロボット“ダビンチXi”も導入しており、前述のとおり泌尿器科での前立腺がんの手術からスタートしています。今後は、消化器センターや呼吸器センターでの稼働も予定しており、より患者さんの体への負担が少ない低侵襲な手術ができるようになることが期待されます。
一方で、停電など非常事態が起こった際のことも考慮すれば、やはり従来の開腹での手術も重要なものだと考えます。ロボット支援下での手術など最新の技術も取り入れつつ、従来の開腹手術も行えるよう後進を指導することも大切になってくるでしょう。
今後の日本の超高齢化社会を鑑み、健康管理センターでの検診による病気の早期発見と予防および附属介護老人保健施設での在宅復帰を目指した介護と福祉の実践にも注力しています。いわゆる地域包括ケアシステムを地域において実践する、要の役割を目指しております。
健康管理センターの主な業務は健康診断です。一般検診・ドック検診のほか、特定健診、特定保健指導に力を入れています。
自覚症状がなく元気に毎日を過ごしている方でも、実際に健康診断を受診してみると、さまざまな問題点がみつかることがあります。食生活の偏り(食べ過ぎ、塩分・糖分・脂肪分の取り過ぎ)、肥満、喫煙などの生活習慣の偏りは自分でも気が付きにくいものです。健康診断の結果を見て、自分の生活習慣を振り返ってみることは大きな意味を持ちます。
生活習慣を自ら変えていくことは容易ではありません。医師・保健師・栄養士などのスタッフが健康診断の結果を一緒に考え、健やかな生活へと変わるためのお手伝いができればと思います。
そのほか、地域住民との交流を図る「なかのしま健康フェア」は、医学講話をはじめ看護師やソーシャルワーカーなどによる健康・医療相談を開催しています。
附属介護老人保健施設は入所定数100名、通所定数60名で運用しています。在宅強化型介護老人保健施設として、生活リハビリを目的とした在宅への中間施設の役割を担っています。
音楽療法士による月3回の演奏会や、北海道ボランティアドッグの会に所属するセラピー犬の月1回の訪問など利用者さんとさまざまな形で触れ合う時間を設けるなどの工夫を行っています。このように、利用者さん同士や職員との交流を図りながら、楽しく心安らぐ生活の支援をしています。
一方で、高齢者多死社会を踏まえ、老健施設でのがん・非がん患者さんのお看取りも積極的に取り入れています。急性期病院でもある当院と棟続きである利点を生かし、日常的な健康管理や身体的問題への配慮、救急対応も可能です。また、介護予防事業支援も行っています。
高齢化社会においては、“臓器を診る専門性の高い医療のみならず、精神・心理的、社会的な背景をもった“病に陥った人”を全人的に診療し、疾病に陥る以前の状態になるべく近い状態まで回復させる道を探しだすこと”が必須になってまいります。そのためには、関係医療機関、介護施設、在宅治療施設などとのシームレスで密接な連携の構築が必要なことは、いうまでもありません。
当院は数年前、地域医療機関とのシームレスな連携の構築のために“総合診療救急科”を立ち上げました。どの専門科を受診してよいか分からない場合、この科を受診いただけば、適切な科に紹介できます。
また、かかりつけ医の先生が「何か変だ」、「このまま返していいのか」と感じた患者さんがおり、紹介すべき診療科を迷った場合、それ以上の検査などをすることなく総合診療救急科にご紹介いただければ適切な科へと連携が可能です。
困ったときに電話をいただければ、直接総合診療救急科の担当医師が対応するようにしております。これにより病診連携の垣根は、かなり低くなりました。
地域で医療を完結させるためには、医療機関同士の連携がますます重要なものとなっていきます。急性期医療・慢性期医療・回復期医療などそれぞれの役割を意識して、うまく連携を取っていくことが必須となるでしょう。今後も地域での連携を円滑にしていけるよう、顔がみえる関係性を大切に構築していければと思います。
“総合診療救急科”は、研修医に対する教育の場としても大きな価値があります。当院は初期研修医の教育も重視しており、基幹型および協力型(たすきがけ)臨床研修病院として道外および道内3大学(北海道大学、札幌医科大学、旭川医科大学)全てから研修医を受け入れています。
しかし、研修の場が専門の診療科だけに限られると、“その科を受診した”という事実だけで、体のどの部分に課題があるのか、ある程度の予想がついてしまいます。これでは真の診断力は養えません。
その点、総合診療救急科における研修では、「どの科に紹介すべきか」を決めるため、患者さんの訴えと症状、検査結果のみから病気を鑑別します。この訓練により、全身を総合的に診断できるスキルを磨くことができます。
また、複数の病気が見つかった場合、全身状態との兼ね合いを考えたうえで、どのような順番で治療すべきか決めなければなりません。高齢者は複数の病気を抱えているのが一般的です。今後の高齢化を見据えた場合、このようなスキルは必須でしょう。
同じことは指導医の先生にも当てはまります。総合診療救急科での診療を通じ、自らの専門科で養った“深く考える”習慣を、ほかの疾患にも広げてほしいと考えています。育成したいのは“視野の広い医師”です。そのため、院外の専門家を招いた医療講演会も定期的に開催しています。
教育を重視しているのは、医師だけにとどまりません。たとえば、社会の高齢化にともない認知症を合併する患者さんが多くなりました。そのため、医師だけでなく看護師さんや老健施設の介護士さんの育成も重要な課題であり、認知症の教育を重点的に行っています。また、年齢が上がれば、入院に際してせん妄状態となる患者さんも増えます。精神科医師以外でも対処できるよう準備しておく必要があり、これも教育の一環です。
そのほかに、特定行為研修制度への対応強化、認定看護師の取得促進等の育成環境の充実を図り、レベルの高いサービスが提供できる体制作りにも取り組んでいます。
また、患者さん向けの情報提供にも積極的に取り組んでいます。病院外で行う地域住民対象の講演会や、外来にいらした患者さんを集めての院内“健康教室”などです。いずれもテーマを決め、医師・看護師・介護士などのスタッフが分かりやすく説明しています。
2016年に院長になって以来、JCHO(ジェイコー)北海道病院を患者さんや働いている人たちに、よりいっそう魅力を感じてもらえる病院にしたいと考えてきました。また、地域の皆さんとの交流も大切にし、地域に開かれた病院となるよう院内コンサートなどのイベントも積極的に行っています。
医療界のなかでも医療安全・医療経営・新規薬剤の費用対効果、医師の偏在と専門医制度に関してなど、大きな問題が山積しています。2025年問題といわれる“団塊の世代”が75歳以上になる社会構成人口の推移など、時代や社会背景によって医療に求められる変化にも柔軟に対応しながら、地域に信頼され、地域にとって必要不可欠な存在となれるよう職員一丸となって取り組んでいきたいと思っています。
*医師数、病床数、提供している医療の内容などの情報は全て2024年3月時点のものです。
独立行政法人 地域医療機能推進機構(JCHO) 北海道病院 病院長
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。