インタビュー

てんかん発作の種類からみる-てんかん4大ファミリー

てんかん発作の種類からみる-てんかん4大ファミリー
兼本 浩祐 先生

愛知医科大学精神科学講座 教授

兼本 浩祐 先生

この記事の最終更新は2015年12月26日です。

てんかん診療の第一人者である愛知医科大学精神神経科講座教授の兼本浩祐先生は、てんかんについて考えるときは、4つの大きなファミリーのどれに当てはまるのかを見つけていくことが、もっとも現実的なアプローチであるとおっしゃっています。この記事では、年齢依存性焦点性てんかん・特発性全般てんかん・年齢非依存性焦点性てんかん・てんかん性脳症の4つのファミリーについて解説していただきました。

年齢依存性焦点性てんかんには、小学校に入学する前後から始まり、小学校を卒業する頃には治ってしまうという特徴があります。治療をする・しないにかかわらず、ある年齢になると生じ、ある年齢になると治るというものです。これは子供のてんかんの中では割合としてかなり多くみられます。子どもにてんかんが起きた場合には、この年齢依存性焦点性てんかんのファミリーに入る可能性を考えていただくことが重要です。これはほぼ100%治るてんかんだからです。

このファミリーに入る具体的な病気には、Panayiotopoulos症候群(パネヨートポーラス、またはパナイオトポロス症候群)とベクト(ローランドてんかんとも言います)というものがあります。一般の患者さんにこれらの病名を覚えていただく必要はありませんが、そういうものがあるのだということを認識していただければよいと思います。

このグループの特徴として、脳波の異常が非常に多く出るということがあります。知らない人からみれば、脳波の異常が多いとかなり悪いのではないかと思ってしまいがちですが、そうではありません。これはむしろ、いずれ治っていくてんかんであるという合図なのです。このことはよく知っておいていただきたい点のひとつです。思春期になればてんかん発作は治ってしまうものであるということを意識しておくことが大切です。

特発性全般てんかんは、発作の初めから脳の両方に脳波が出てくるというものです。脳の両側に出るということで何か悪いもののように思われるかもしれませんが、これは良い・悪いということとはまったく関係がありません。

特発性全般てんかんにはバルプロ酸という薬が非常によく効きます。この薬だけでは発作が止まらない方もいますが、正しく治療をすれば最終的には発作が人生に影響を及ぼすということはあまりありません。いずれ発作は止まってしまうか、ごく軽いものになるので、てんかんということをそれほど重大視して生活する必要はないのです。

薬の服用は続けなければならない人もいますが、薬をやめることができる方もたくさんいます。薬を続けなければならない人も、糖尿病高血圧などの慢性疾患と同様に、薬の服用を継続していれば日常生活上に大きく差し支えることはありません。

妊娠・出産や就職、その他のことについても基本的に支障はなく、薬を飲んでいることで一定の工夫は必要な場面もありますが通常はまったく問題なく生活を送ることができる病気だと考えていただくとよいと思います。

最初にご紹介した年齢依存性焦点性てんかんが一定の年齢になると生じ、一定の年齢になると治るのに対して、このてんかんは年齢とはまったく関係なく出てきてしまいます。その特徴から年齢非依存性と呼ばれています。

このてんかんは脳の脆弱性と関連が深いので、乳幼児と高齢者に多く起きる傾向がありますが、押し並べてどの年齢でも起こってくる病気です。したがって交通事故や脳卒中はもちろん、脳腫瘍などによっても起きます。こういったものがすべて年齢非依存性焦点性てんかんのグループに入ります。

このてんかんには、基本的にカルバマゼピンという薬が第一選択薬となります。ただし、薬剤の使用について「三振アウトの法則」と呼ばれるものがあります。効きそうな薬を3種類使ってもてんかんを止められない場合には、その後の治癒率がかなり低くなってしまうということが知られています。ですからアウトになった場合には、外科手術や迷走神経刺激など他のやり方を一度は考えてみることも大事です。

とはいえ、6〜7割の人は発作が止まり、先に述べた特発性全般てんかんの人と同じように普通の生活を送ることができますので、そうした場合はてんかんは実際には深刻な病気というのとはイメージが違うということになります。残り3割は治療が難しく、これは薬物に対して抵抗性のあるてんかんの、もっとも大きなグループになります。

てんかん性脳症は非常に数が少なく、通常は専門外の医師が診療の中で出会うことはまずありませんが、大変難しい病気です。小学校就学前に起き始めるという意味では、先に述べた年齢依存性焦点性てんかんと似ていますが、てんかん発作が止まることは基本的にないという点は大きく異なっています。

このてんかん性脳症では、発作が止まる方は約2割といわれています。つまり、専門医が治療しても、5人のうち4人はてんかん発作を止めることができませんので、その場合はてんかんと共に生きるということを考える必要があります。

発作を止めることができない以上、生活していく上でさまざまな制限が出てくることを覚悟しなければなりませんし、さらに、この病気では知能が落ちるという特徴があります。たとえば、発症前にIQが100ぐらいあっても、50ぐらいになります。したがって、てんかんと知的障害の重複障害を持つということになります。

これらを混同してしまうため、てんかんになるとIQが低くなるなどの偏見が生じるのですが、それはてんかんの中でもある一部のグループに限定されることなのです。

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いわさき まさき

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東京医科大学病院 小児科学分野 准教授

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重症児・者福祉医療施設「ソレイユ」川崎小児科 副施設長、 聖マリアンナ医科大学 小児科 客員教授、東京医科大学小児科 兼任教授、東京都立東大和療育センター 非常勤医師

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