インタビュー

治療が必要な不整脈と治療が不要な不整脈 致死性不整脈とは?

治療が必要な不整脈と治療が不要な不整脈 致死性不整脈とは?
日本心臓財団

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この記事の最終更新は2016年01月25日です。

前回の記事「不整脈とはどんな病気?どのような場合に受診すべきなのか」では、不整脈にはさまざまな種類があること、そしてどのような場合に受診すべきなのかについてご説明しました。この記事では、治療の必要な不整脈・必要でない不整脈について具体的にご説明します。

不整脈診療の究極の目的の一つは、突然死の回避といえます。基礎疾患の有無に関わらず、放置すると短時間で死亡してしまう危険性の高い不整脈を「致死性不整脈」といい、不整脈そのものの重症度が極めて高く、危険な不整脈の代表です。これらの不整脈が発生した場合、一分一秒を争って治療しなければ重大な結果を招く可能性が高いのです。

致死性不整脈としては、以下のものが代表的です。 

・頻脈性不整脈:心室細動、持続性心室頻拍、トルサード・ド・ポワンツ

心室細動を引き起こす原因としては、原因なく発症する「特発性」のほかに心筋梗塞や様々な心筋症、Brugada症候群があります。持続性心室頻拍の原因にも特発性のほか、心筋梗塞や様々な心筋症があります。またトルサード・ド・ポワンツを起こす原因として、先天性または薬剤などの影響による後天性のもの、それにQT延長症候群というものがあります。

・徐脈性不整脈:完全房室ブロック洞不全症候群

準致死性の名前のとおり、不整脈そのものは致死性不整脈ほど重症ではありません。しかし、長時間放置すれば血液循環が悪くなって死亡することもあり、やはり危険な不整脈といえます。何らかの基礎心疾患を持っている人に起こる比較的まれな状態ですが、発生した場合はいずれも注意深い観察と緊急の治療が必要となります。

準致死性不整脈としては、以下のものが挙げられます。

・頻脈性不整脈:WPW症候群における頻脈性心房細動(偽性心室頻拍)、肥大型心筋症における頻脈性心房細動、心房粗動の1対1伝導

・徐脈性不整脈:MobitzII型の第2度房室ブロック、発作性完全房室ブロック、急速に進展する三枝ブロック

不整脈そのものが命を脅かすことなくとも治療の対象となることがあります。日常生活に大きな支障があり、患者さんの生活の質(QOL)が下がってしまうような、自覚症状の強い不整脈の場合です。

このような不整脈としては、以下が挙げられます。

心房細動、心房粗動、上室性頻拍などの頻脈発作を繰り返す場合や、期外収縮も多発するケースでは動悸を強く自覚しやすいです。一方、徐脈性不整脈においても、発作性洞停止では強いめまいや失神発作を起こすことがあります。また、徐脈頻脈症候群(頻脈発作と洞停止を繰り返します)と呼ばれる特殊な病態もしばしば見られます。

1分間130拍以上の極端な頻脈や、逆に40拍以下の極端な徐脈が長時間続くと、適正な収縮を保つことが困難になります。徐々に心筋に負荷が掛かることになり、もともと基礎に心臓病があると、容易に心不全を誘発してしまいます。

最近では、基礎心疾患がまったくなくても長期間の頻脈の持続によって心筋細胞が変性し(これをリモデリングといいます)、強い心不全を来たす「頻脈誘発性心筋症」という病態が注目されています。

以下のような不整脈が挙げられます。

前述しましたが、一見不整脈とは関係なさそうに思える「脳梗塞」が不整脈を原因として起こることが多々あります。特に「心房細動」が曲者です。

左心房の一部に「左心耳」と呼ばれる部分があります。ここは、ちょうど顔に耳が付いているように心房の一部が耳のようになっており、もともと血液の流れが少ない部分です。この部分が心房細動になると、心房全体の収縮性が低下するために、左心耳内には血流がほとんどなくなります。血流も川の流れと同じで、うっ滞するとよどみ、血栓(血のかたまり)ができてしまうのです。この血栓が何かの拍子に剥がれると(心房細動が停止した瞬間に多いと言われます)、血液の流れに乗って左心房→左心室→大動脈→頸動脈→大脳動脈と進みます。そして脳動脈の途中で詰まって、脳梗塞を起こすのです。

高齢者に起こる脳動脈そのものの動脈硬化による脳梗塞と異なり、比較的若年者に突然発生することが特徴です。ある程度太い血管に詰まり、脳梗塞の範囲も大きいケースが多いことも問題です。

これを予防するためには、心房細動を根治させるか、または血栓ができることを完全に防止する必要があります。この治療戦略に関しては、現在も医学界の大きなテーマとして注目されています。現在欧米やわが国でも大規模臨床試験が行われており、どのような治療が最も効果的なのかを知るための客観的データが収集されつつあります。

なお、心房細動は持続時間によって3つに分類されます。発作性心房細動、持続性心房細動、慢性(永続性)心房細動の3つです。

ここまでに述べてきた内容はいずれも治療の必要な不整脈の場合でしたが、逆に治療せずに観察しているだけでよい不整脈もあります。

以前の考え方では、「不整脈は心臓に起こる異常な病態であるため、できるだけ速やかに不整脈を完全に消失させ正常なリズムに戻すことが長期予後を良くする(長生きできる)」とされていました。そして正常なリズムに戻すことを最大の目標に治療が行われてきました。

しかし欧米における近年の大規模研究の結果、驚くべき事実がわかり、この仮説は覆されてしまいました。軽症の不整脈に対して強い薬剤を長期間用いると、確かに不整脈は消失します。しかし、薬のために不整脈が起こるという「薬の催不整脈作用」やその他の薬の副作用のために、かえって予後が悪くなる可能性が指摘されたのです。十数年前に発表されたこれらの大規模研究の結果は、衝撃的なニュースとして瞬く間に世界中を駆け巡りました。不整脈治療の考え方は一夜にして大きく転換することになったのです。

不整脈治療において特に有名なものに「CAST試験」というものがあります。心筋梗塞後に心室期外収縮(PVC)や非持続性心室頻拍(nsVT)が多ければ予後が悪いことが分かっています。抗不整脈薬でこれらの不整脈を減らせる症例があるという観察に基づいて、「心筋梗塞後の患者において、心室期外収縮や非持続性心室頻拍を薬物治療で減らすと予後が良くなるかどうか」を確かめました。

結果として、薬物治療を行った群のほうで予後は悪く、試験は途中で中止されています。

治療する必要がある場合と、無治療でよい場合

現在では、どのような不整脈に対して治療を行うかという治療適応に関して、おおむね図のように判断しています。もちろん症例ごとに慎重に考えなければなりませんが、一般的には重篤な心臓病がない方に不整脈が見られても、不整脈の重症度が高くなく症状も軽ければ、生活習慣の改善などの指導を行うことを優先して積極的な薬物治療などは行わないという考え方が近年の方針です。

現在の医療界全体にある潮流といえますが、画一的に目の前の病気を治療すること=不整脈を抑制することよりも、患者さんのQOLの改善が得られること、あるいは多少の不整脈が残っても長期予後の改善が得られることのほうが重要だと考えられています。また、かつては不整脈を抑制する対症療法を行っていましたが、現在は不整脈の原因に対する治療、すなわち根治を目指すようになりました。そしてこれらの目標を達成するために、それぞれの患者について特性に応じた個別の治療の構築と、治療戦略が求められる時代となっています。

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