インタビュー

画像でみるワイドネックの脳動脈瘤に対する症例ごとの血管内治療

画像でみるワイドネックの脳動脈瘤に対する症例ごとの血管内治療
奥村 浩隆 先生

新座志木中央総合病院 部長、脳卒中・血管内治療センター長、佐々総合病院 非常勤、メディカルスキ...

奥村 浩隆 先生

この記事の最終更新は2017年08月23日です。

脳動脈瘤には様々な形状があり、「ワイドネック」と呼ばれる根元の広いタイプの脳動脈瘤では、血管の突き当りに起こる「ターミナル」という状態や、脳動脈瘤の根元や血管壁から血管が枝分かれしている状態になっていることがあります。このようなタイプの脳動脈瘤に対して血管内治療を行うにあたっては、それぞれの形状や注意点をよく把握したうえで、最も適切な方法や手順を選択することが大事です。ワイドネックの脳動脈瘤は、ほとんどの場合で開頭手術が選択されますが、血管内治療が選択されるケースもしばしばあります。様々な形状に応じたワイドネックの脳動脈瘤への血管内治療について、昭和大学脳神経外科助教の奥村浩隆先生にお話をうかがいます。

超ワイドネックの動脈瘤

椎骨動脈瘤(ついこつどうみゃくりゅう)の患者さんの治療例

これは、椎骨動脈瘤(ついこつどうみゃくりゅう)の患者さんの治療例です。この動脈瘤は大型であり、その入り口は広くワイドネックと呼ばれるタイプであることがわかります。

この例において、クリッピングで血管の血流を残すことは不可能と判断し、血管内治療を行いました。通常、ここまでワイドネックな動脈瘤はステントアシストが必要で、バルーンでの治療は困難とされていますが、患者さんの脳梗塞リスクを少なくするため、バルーンアシストで行いました。

バルーンをふくらませながらコイルを詰めていき、最終的に下図のようになりました。

バルーンをふくらませながらコイルを詰めていく様子

一見、コイルが血管内にはみ出しているようにみえますが、別な角度でみると血管の内腔が保たれていることがわかります。

塞栓終了後

上図のAの矢印の角度から動脈瘤を確認した写真がBです。この方向からだと血管の内腔が確認しやすく、塞栓終了後のCの写真で確認できるように、血管の部分だけが綺麗に空洞になっていて内腔にコイルが出てきておらず、コイルのかたまりがアーチを形成し安定している様子がわかります。

このようなアーチをステントなしで形成するのは非常に困難で、技術やセンスを要します。

どのようなコイルの形状であっても、わずかでも作り方を誤れば上記のアーチの形が崩れてしまいます。どのようにアーチの形状をとどめたまま手術を完了できるかが、この手術手技の最も困難なところといえるでしょう。

このコイル塞栓術は非常に特殊なコイルの詰め方をしているため、すべての先生がこの術式を行えるわけではありません。私自身、本術式に関する講演を各地で行っており賛同が得られてきております。

しかし、この術式が全国に広まれば、脳動脈瘤の血管内治療における脳梗塞のリスクは確かに減っていくことになるだろうと考えています。

ターミナルタイプかつワイドネックの右中大脳動脈瘤

これは、中大脳動脈瘤の患者さんに対する手術後の画像です。中大脳動脈瘤は比較的手術の難易度が低いタイプであるため、手術をお薦めしました。しかし、手術によって頭部に傷が残ることに強く抵抗があったため、血管内治療を選択されました。

この動脈瘤はターミナルタイプとよばれ、血管がT字に分かれている部分にハート形の動脈瘤ができています。このタイプでは、T字につながる血管すべての血流を温存しなければならないため、1本のバルーンでは不十分となることが多いです。さらにこの患者さんの動脈瘤はワイドネックで、コイルが血管に出てくるリスクが高かったため、2本のバルーンを用いて治療を行いました。

血管がT字に分かれている部分にハート形の動脈瘤

2本のバルーンを用いた治療

このように、上下の血管にそれぞれバルーンを挿入しふくらませて塞栓しました。

この患者さんは、脳梗塞くも膜下出血を来すこと無く治療が終了し、経過も良好で、再発もありません。

右内頚動脈前脈絡叢動脈分岐部動脈瘤

この動脈瘤は、瘤の途中から血管が出ているタイプです。万が一この血管が詰まってしまうと半身不随に至る可能性が高いため、血流を残すことを最重視しなければいけません。しかしその一方で、動脈瘤の塞栓が中途半端になってしまうと再発する恐れがあり、十分な塞栓を行うには難易度が高い動脈瘤です。さらに、この患者さんはワイドネックでもありました。

この患者さんに対しては、バルーンを1つ用いて塞栓を行いました。動脈瘤を塞栓するカテーテルとコイルを上手くコントロールすることにより、動脈瘤の壁から出ている血管の入り口部分のみを残して塞栓できました。

バルーンを1つ用いて塞栓を行う

動脈瘤内への血流が完全に消失

入り口を残すだけでなく、かなりきっちり詰めることができたため、動脈瘤内への血流が完全に消失しているのがわかります。

この患者さんは、脳梗塞くも膜下出血を起こすこともなく、再発もありません。

カテーテル治療は低侵襲というイメージがあり、確かに手術に伴う肉体的な負担は少ないと考えます。ただしステント術を行った場合、手術後は抗血小板役を長期間もしくは一生服用しなければなりません。飲み続けることで問題が生じることもあります。

ですからぜひ、患者さんには「侵襲が低い」とは何かを考えたうえで治療を選択していただきたいと考えます。

だからこそ私は、脳動脈瘤の患者さんが術後に薬も手術も必要ない状態まで回復できるよう、患者さんのための治療法の開発を続けたいと考えます。「The Roman Bridge Technique」と名付けられたこの治療法は、ステントが必要な動脈瘤をステント無しで治療できる画期的な治療法です。確かに難易度の高い術式ですが、ステントによる脳梗塞のリスクが低減されることが期待できるため、今後もこの治療を行い、患者さんのための医療を目指したいと思います。

 

記事内の症例画像は全て奥村浩隆先生ご提供のものです。無断転載を禁止します。

 

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  • 新座志木中央総合病院 部長、脳卒中・血管内治療センター長、佐々総合病院 非常勤、メディカルスキャニング浜松町 非常勤

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