日本では1998~1999年に科学的根拠に基づく医療を普及させるために、厚生労働省から病気に対する診療ガイドラインの作成が促進され、胃がんにおいては2001年に日本胃癌学会から“胃癌治療ガイドライン”が刊行されました。現在2018年版が刊行され、多くの病院でこのガイドラインに沿った胃がん治療が行われています。ここでは、2018年度版の胃癌治療ガイドラインに基づいた胃がんの治療方針について解説します。
胃がんの治療方法を選択するうえで病期(ステージ)を把握する必要があり、ガイドラインでは“TNM分類”と呼ばれる分類法を用いてステージを決定しています。
TNM分類はUICC(国際対がん連合)が定めた分類法で、“T:がんの深さ(深達度)の程度(T1a~4b)”、“N:領域リンパ節への転移の有無(N0~3b)”、“M:遠くの臓器への転移(遠隔転移)の有無(M0または1)”の組み合わせからステージを決定するものです。
ステージは大まかにI~IVに分かれます。さらにステージI~IIIについてはIA~B、IIA~B、IIIA~Cに分かれるため、詳細には8段階に分類されます。
胃がんの代表的な治療方法に、内視鏡治療、手術、化学療法があります。基本的にはステージIAで内視鏡治療、ステージIB~IIICで手術、ステージIVで化学療法が推奨され、手術での切除範囲はがんの深さや位置、リンパ節への転移の有無・個数などに応じて決定されます。
手術後については、ステージIでは経過観察となりますが、ステージIIとIII(一部を除く)の場合は補助的に化学療法を行うことが望ましいとされています。
内視鏡治療は、胃内視鏡を用いてがんのある部分を切除する治療です。体への負担が少なく切除範囲も小さいため、食生活への影響も少ないのが特徴です。原則として、がんが粘膜層にとどまっていてリンパ節転移の危険性が極めて低いステージIAに対して、がんが一度に全て切除できる大きさと部位にある場合に適応があります。
内視鏡治療の種類には、胃の粘膜病変に輪状の金属ワイヤーをかけて高周波電流で焼き切る内視鏡的粘膜切除術(EMR)や、高周波ナイフを用いて切除する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)があります。
手術は主にステージIB~IIICに対して推奨されている治療方法です。手術ではおなかを20cmほど切開してから、がんと胃の一部または全てを切除し、同時に周囲のリンパ節を切除するリンパ節郭清や、食物の通り道を作り直す手術(再建手術)も行います。切除する胃の範囲については、がんのある部位とステージから決定します。
手術の方法には、上述した開腹手術のほか、5~12mm程度の小さな穴を開けてそこから腹腔鏡という細長い手術器械を挿入して行う腹腔鏡下手術もあります。胃の出口にあたる幽門部も切除する“幽門側胃切除術”が適応となるステージⅠに対して行われることがあります。ただし、長期的に見た場合の有効性についてはまだ検証中の段階です。そのため、ガイドラインでは腹腔鏡下手術を臨床研究として行う治療と位置づけています。
化学療法とは抗がん剤を用いた治療で、主に手術によって切除不能な進行胃がん、再発胃がんに対して行われます。治療の段階として一次治療から三次治療まであり、一次から開始し、使用する薬剤の効果が弱い場合や副作用が強い場合に二次、三次と移行していきます。
胃がんではHER2(ハーツ―)というたんぱく質ががん細胞の増殖に関与している場合があり、HER2が陰性か陽性かで用いる薬剤が異なります。一次治療として、HER2陰性でテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウムまたはカペシタビン+シスプラチン、HER2陽性でカペシタビン+シスプラチン+トラスツズマブがもっとも高く推奨されます。
HER2陰性・陽性のいずれにおいても、二次治療ではパクリタキセル+ラムシルマブ、三次治療ではニボルマブあるいはイリノテカンの単独療法が推奨されています。
手術でがんを切除しても目に見えないような微小のがんが残り、後に再発することがあります。この微小遺残がんによる再発を防ぐ目的で行う化学療法のことを補助化学療法といいます。
主にステージIIとIIIの胃がんに対して推奨され、現在のところテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウムの単独療法が標準治療となっています。
胃がん手術後の流れについては個人差がありますが、基本的に術後1日目以降に水分摂取の開始、術後2~4日目から固形食が始まり、術後8~14日目あたりが退院日の目安となります。
なお、退院した後も再発や残胃がん、重複がんの早期発見のために、原則5年間は定期的な検査が必要です。検査はCT検査、内視鏡検査、血液検査(腫瘍マーカー)が有用とされ、ステージIでは半年~1年に一回のペース、ステージIIとIIIでは3~6か月に一回のペースでの受診がすすめられています。
多くの病院ではガイドラインに基づいて診断や治療を行っています。そのため、病院や医師によって意見が異なることはあまり多くはありません。しかしほかの意見を聞くことで、“がん”や治療に対する理解度が増し、納得して治療に臨むことにつながる場合もあるため、セカンドオピニオンを受けることも1つの手段といえます。
もし担当医に言いにくい心配事がある場合には、がん相談支援センターや看護師など、担当医以外の医療スタッフに相談してみるのもよいでしょう。
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