日本は諸外国を圧倒するほどの高度な胃がん治療技術を持つ国です。しかし、近年の経済情勢を背景に中国や韓国が勢いよく技術を向上させていくなか、日本は「英語力」において弱みを持つために、グローバル社会で自国の技術や経験をうまく活かせないでいると、広島記念病院消化器センター長の二宮基樹先生はおっしゃいます。本記事では、日中韓の胃がん治療の現状と日本が抱える課題についてお話しいただきました。
1997年の第二回国際胃癌学会以降、日本は胃がん治療という分野においてトップを独走している状態でした。しかし、現在の日本は成熟期に入り、国自体に高度経済成長期の頃のような勢いは感じられません。医療の勢いは経済の勢いに比例します。今技術を伸ばしているのは中国と韓国です。韓国は7~8年ほど前から技術において日本に追いつきはじめ、ロボット治療においては既に我々を凌駕しています。胃がん治療全般となると、日本は依然トップレベルではありますが、この2~3年で中国も急速に力を伸ばしはじめ、2015年には追いついたといっても過言ではないほどのレベルにまで到達しています。私は韓国や中国でも講演を行ってきましたが、特に中国では、1日中缶詰で熱心に勉強し、短い休憩時間も質問のために使う医師たちの様がみられ、「成長したい」「世界に出たい」という意欲にあふれているように感じられます。日本も今一度エンジンをかけなおすべきときが来ているのではないでしょうか。
前項では、日本の胃がん治療技術は依然として世界トップレベルであると述べました。しかし、グローバル化が進む社会においては勢いで中国、韓国に劣ります。その大きな理由として、「英語力の低さ」が挙げられます。高い技術を持ってはいても、それを英語で説明・展開できる人は極めて少ないというのが日本の現状です。実際に、日本人が学会において英語を母国語とする相手との議論に、語学力不足が原因で負けてしまっている場面を私は何度も見ています。医療分野に限った話ではなく、ボーダーレスとなった世界との接点を持つあらゆる分野において、日本人は英語を用いての豊かな表現力を身につけていかなければ、国力をそぐことになりかねません。
対する日本人の強みは、高い技術力と、「他者に親切にする」「おもてなしの心を持つ」という国民性です。自身の持つ技術や知識を隠すことなく、フェアな立場で共有するという美点があります。また、金銭のためではなく、自らの人間性を高めるために、自分の持つ技術を磨くという傾向もあります。
今、外科技術の交流は、人種や歴史、文化の壁を超えてかつてない規模で進行しています。
日本は上述のような国民性を活かし、「国境という垣根のない皆の幸せ」のために、民間ではなく国家が主導となって、優れた医療技術をわが国が持つ有力なカードとして各国に紹介していくことに注力すべきでしょう。
友愛医療センター 消化器外科センター センター長
二宮 基樹 先生の所属医療機関
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