日本は世界に誇る胃がん治療技術を持つ国であり、さらに高度なスキルを持つ医師が各地にいます。しかし、各々の持つ意見を「集約」することは不得意であり、それが国際社会にインパクトを残すことができない原因であると、第87回日本胃癌学会総会会長の二宮基樹先生は主張されています。日本人が元来得意としている「分化」と、不得手としてきた「統合」の必要性についてご解説いただきました。
2015年に開催された第87回日本胃癌学会総会にて、私は会長を務め、学会テーマを「分化と統合」と定めました。まず、医療分野における「分化」とはどのようなことかをお話ししましょう。
日本には全国各地に優れたオペレーター(術者)が沢山おり、これは他国とは異なる日本の財産といえることです。また、胃がん治療においては開腹手術や内視鏡治療、化学療法など、それぞれの領域が高度に専門分化しています。つまり、日本はもともと分化していくことが得意であり、各々の専門領域や一施設で己の腕や技術力を高め、匠になろうとする特性を持っているのです。
しかし、これとは逆に分かれていたものを集約化すること、すなわち組織として「統合」することは苦手であり、これがボーダーレス化する現代において致命的な弱点となっています。
日中韓を含む東アジアは、世界の胃がん患者数の約6割を占めており、この3か国は胃がん治療技術を高めるために、手を携えながら切磋琢磨しています。たとえば、韓国では胃がん治療のスペシャリストも患者も皆ソウルに集めています。中国でも同様の動きがみられます。すると、当然ながら国単位でのインパクトは、臨床試験も含めて日本よりも大きいものになります。たとえば、家電業界を例に出してご説明すると、日本には沢山のメーカーが存在し、切磋琢磨し新しい技術を生み出していますが、韓国は大手一社が強烈なインパクトを持って世界に名をとどろかせています。これが、日本の苦手とする「統合」による成果です。
第87回日本胃癌学会総会のテーマを「分化と統合」としたのは、学会という場が学術の統合の場であるべきと考えたからです。たとえば、同じ胃がんに対して、腹腔鏡手術を選ぶ方もいれば、開腹手術を選ぶ方もいます。また、内科医は内視鏡治療を選ぶかもしれません。一同が一か所に会し、それぞれの意見を出し合うことで、互いを高め合いよりよい治療法を見出すことができると考えたのです。
医療のエビデンスを創る臨床試験も、小さなものを各地でやるのではなく、日本全体で統合して国際的に通用するようなインパクトのあるものを行うべきです。
ここまでは医師に特化した話をしてきましたが、現代は医師だけでなく、看護師や臨床心理士、栄養士などが、それぞれの専門性を活かして「チーム医療」を行う時代です。これも「統合」の場が必要であると考えた理由の一つです。職種、専門領域、そして国、あらゆる分化していたものをまとめるべき時代が来ているのです。
第87回日本胃癌学会総会では、韓国や中国をはじめとする沢山の国からも質の高い演題の応募がありました。現在日本は韓国との共同研究をしていますが、今後は中国も加わり、ますますボーダーレス化が進んでいくでしょう。
また、学会の運営面では、科や業種、施設の垣根を超えて、100名以上もの方が協働してくださり、これまで分化していたものを集約して統合していくという役割を貫くことができた学会になったと感じています。
とはいえ、日本の胃がん治療の「統合」は、今始まったばかりです。今後いっそう力を入れて、施設間や委員会同士の統合、データの登録などをすすめる必要があります。治療が共通化されることで、国としての治療成績が向上し、世界に発信できるものに昇華していくのだと考えています。
友愛医療センター 消化器外科センター センター長
二宮 基樹 先生の所属医療機関
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