日本の医療の質は非常に高く、これを一つの産業として「輸出」することは、国際貢献にも日本経済を潤わせることにも繋がります。アジアの胃がん治療の第一人者である広島記念病院消化器センター長の二宮基樹先生は、20年以上にわたり中国の上海交通大学において、医療産業輸出に力を注がれてきました。本記事では、二宮先生ご自身が取り組んでこられた日中交流と、日本が国際的な競争力を高めるために今すべきことをお話しいただきました。
私はこの20年ほど、中国の上海交通大学医学部を中心に中国各地で講演や手術映像の共有など、「個人的な医療輸出」を行ってきました。日本が歩んできた胃がん治療の歴史も話し、中国が向かうべき方向性も訴え続けてきました。このような技術交流をしていても、中国の医療にはなかなか進歩が見られませんでしたが、この2~3年の間に経済発展と共に急速な発展をとげ、日本に追いつくほどのレベルにまで到達しました。
上海交通大学との交流は個人で行っているものですので、自分が引退してしまえばそのパイプは途切れてしまうかもしれません。しかし、15年前にはごくわずかだった日本と中国を繋ぐパイプは、今非常に増えています。かつては考えられなかったほど多くの日本の先生方が、中国へ行って医療技術輸出を行っています。それほどに日本の医療技術の質は高いものであり、各国から求められている貴重な資源でもあるのです。
ですから、日本の医療経済の発展のためにも、国が医療産業を輸出するためのプロジェクトなどを作り、国策として推進すべきであると私は強く主張します。日本はもともと「おもてなしの国」であり、他国に喜んでもらうことを自分の喜びとして感じられる国民性を持っています。医療という日本の財産ともいうべきカードを使って世界の人々に喜んでもらい、その結果として対価を得ることは決して悪いことではありません。このような国家主導での医療産業の輸出をすすめるためには、①胃がん治療の統合と②実力ある若手医師が海外進出しやすくなるようなシステム構築が不可欠です。
現在、日本は国全体が萎縮しており若手も留学や海外への雄飛を夢見るひとは少なくなっています。日本の経済も低迷していますが、医療産業に関しては超高齢化社会の到来に伴い今後も発展していく「成長産業」だと思われます。日本は、得意分野である医療においてグローバルな視点を持った医師を多数育て、海外に派遣していけば立派な国際貢献をすることができます。そのためには、医師が海外へ積極的に出たいと思えるよう、インセンティブを与えることが重要です。現在は「海外に行きたい医師しか行かない」という状況ですが、そうではなく、今後のキャリアアップにつながる道を用意する、ポストを約束するなど、何かしらシステムで補償しなければ現状は改善していきません。
日本の持つ医療資源を海外へと輸出していくことや他国と手を携えることは、日本の医療や国際的な競争力の向上にも繋がることです。より多くの方に、医療を国の基幹産業のひとつと捉え、医療貢献で世界に日本をアピールしていくことの重要性を知っていただきたいと願っています。
また、世界一の技術を広く伝導していくことは、グローバル社会における私たち日本の医師の務めであると考えています。
友愛医療センター 消化器外科センター センター長
二宮 基樹 先生の所属医療機関
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