日本の医師たちは、胃がん治療技術を国単位で高めるために、50年以上前から研究会やルールブックを作り、治療のための「共通言語」を創造してきました。その結果として、日本は「世界一」の胃がん治療技術を獲得したのだと、広島記念病院消化器センター長の二宮基樹先生はおっしゃいます。本記事では、日本における胃がん治療の幕開けから、世界で認められるようになるまでの歴史についてお話しいただきました。
第一回胃癌研究会が発足したのは、今から50年以上前の1962年のことです。それまで、胃がん治療は各々の施設において独自の方法で行われており、「共通言語」がなかったために治療法の比較も標準化も図ることができない状態でした。
共通言語というのは、リンパ節の郭清(かくせい)範囲を示す番号のことなどを指します。胃がんの切除手術の際には、転移や再発を防ぐためにリンパ節を適宜切除する必要があり(これを郭清といいます)、現在では「右噴門リンパ節が1番」といった番号がついています。このように共通言語として使える番号などをひとつひとつ作ることで、手術は標準化されていくのです。胃癌研究会は治療法の標準化のための土俵を作る場として機能し、日本で初めてがん治療のルールを記載した「胃癌取扱い規約第1版」も同年に発行されました。このような共通化・標準化の観点は、当時世界にはまだ存在していない、非常に画期的なものでした。
上記のような「共通言語」がなければ、それぞれの医療機関や異なる施設の医師は「会話」をすることができません。
外科の世界でも、日本ではかつて各施設同士の技術交流などはなく、「ウチはウチのやり方」という姿勢を重視していました。いわゆる「○○秘伝」といった代々伝わる独自の流儀が多々存在しており、それを外に公開しないことがよしとされていました。さらには、他施設に名医がいると知っていても、「その先生のやり方はウチのやり方をマスターしてから学ぶものである」と考えられていました。このような風潮は私が医師になった1977年以降もしばらくの間続いていました。これは日本国内の話ですが、国と国同士の間にも胃がん治療のための共通言語は存在せず、1995年に京都で第一回の国際胃癌学会が開催された際には、それぞれの異なるやり方を問う大きな衝突が起こりました。
第一回の国際胃癌学会のテーマは「共通言語の創造にむけて」でした。各国共通の用語がないだけでなく、手術手技も技術も、何もかもが違ったために大混乱が起き、各国医師がそれぞれにカルチャーショックを受けることになったのです。この第一回の国際胃癌学会では、各国からの発表、ビデオの供覧、議論を通し、胃がん治療分野において日本が抜きんでた技術を持っていることが明らかになりました。私たち日本人も、自国の持つ技術レベルをそのとき初めて知ることができました。私は、あらゆる分野において物事を芸術的レベルまで高める日本人の国民性やひたむきさが、日本の胃がん治療を世界一に押し上げたのだと考えています。しかし、当時は西洋諸国にこの事実を受け入れてもらうことはできませんでした。
「日本は胃がんではない腫瘍までがんとして手術しているから成績がよいのではないか」「日本の胃がんと西洋の胃がんは違うものなのではないか」、このような疑いまでもたれたほどです。
この問題は、わが国が誇る多くの先達のたゆまぬ努力により、徐々に解消されていきました。
1997年にベルリンで開かれた第二回国際胃癌学会でのことです。あるドイツ人医師が、「調査の結果、日本の胃がんも我々(西洋)の胃がんも病理学的に同じものであることがわかった」と発表しました。
これ以降、次第に世界が日本の技術を認めるようになっていきました。私自身も当時受けた衝撃をいまだ鮮明に覚えています。このころから日本で胃がん治療を学ぶ諸外国の医師が続々と増え、日本の胃がん治療技術が世界の治療技術を向上させる大役を果たすようになったのです。
行政などに携わる方には強く認識してほしいと願うことですが、日本の胃がん治療技術は国の財産であり、世界で通用するカードといえるものです。私は、このカードを国策として活用し、医療貢献で日本を世界にアピールすべきであると考えています。
友愛医療センター 消化器外科センター センター長
二宮 基樹 先生の所属医療機関
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