ネフローゼ症候群とは、大量のタンパクが尿に出てしまうために血液中のタンパク(アルブミン)濃度が低下し、その結果全身にむくみが起こる病気です。むくみの正体は水分です。アルブミンは血管内に水分を引き込む作用があることから、血液中のアルブミン濃度が低下すると血管内の水分が外に漏れ出し、皮膚の下や臓器の外にたまるようになります。また、二次的に腎臓においてNa 再吸収を促進し、さらに浮腫(むくみ)を増悪するとされています。原因はさまざまで、明らかな原因疾患がない一次性(原発性)と原因疾患によって起こる二次性(続発性)に分けられ、種類によって治療法が異なります。
本記事では、ネフローゼ症候群の種類別の治療法について解説します。
一次性ネフローゼ症候群は、明らかな原因疾患がないタイプです。病型としては以下が挙げられ、治療はそれぞれの種類や病状に合わせた治療が検討されます。
1.微小変化型ネフローゼ症候群……若い年代に多く、発症が急激なことが特徴です。ただし、治療による反応がよく、予後はよいといわれています。
2.巣状分節性糸球体硬化症……治療の効果が現れないことが多く、腎不全となり透析が必要になる場合もあります。
3.膜性腎症……原因が分からないことが多いですが、約10~20%程度に感染症や悪性腫瘍などが関係していることがあります。
4.膜性増殖性糸球体腎炎……比較的まれに起こるものです。約10%程度は原因不明のもので小児に多く、残りは原因があるもので成人に多いといわれています。
尿タンパクを減らすためにまず副腎皮質ステロイド薬を使用し、これを内服あるいは点滴で投与します。
ステロイド薬の効果が不十分な場合、繰り返し再発する場合には、免疫抑制薬(シクロスポリン、シクロホスファミド水和物、ミゾリビン)や生物学的製剤(リツキシマブ)を併用することがあります。追加でLDLアフェレーシス(LDL吸着療法)が行われる場合もあります。
塩分を取りすぎると体の塩分濃度を薄めようとして体内に水分がたまってしまい、むくみがひどくなります。そのため、むくみを悪化させないよう塩分の摂取量を制限します。
塩分制限をしてもむくみが悪化するようであれば利尿薬を使用し、それでも改善しない高度のむくみには一時的に透析が行われることがあります。
ネフローゼ症候群では血管内に血栓(血の塊)ができやすいため、適度に足のマッサージをしたり軽く歩いたりすることも大切です。血栓予防に抗血小板薬や抗凝固薬を使用することもあります。
そのほか、高血圧症を合併している場合にレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系阻害薬を、高コレステロール血症に脂質異常症改善薬を用いるなど、病状に応じた治療が行われます。
二次性ネフローゼ症候群は、原因疾患によって引き起こされるタイプです。原因となる病気には以下のようなものがあります。
二次性ネフローゼ症候群では原因疾患に対する治療が優先され、たとえば糖尿病からくる糖尿病性腎症には血糖コントロールを行います。薬が原因となっている場合には原因薬を中止します。医師の指示にしたがって治療を受けるようにしましょう。
ネフローゼ症候群の治療は、種類や病状などによって異なります。また、初回の治療効果が乏しい場合には追加の治療が必要になるなど、人によって治療内容が違います。塩分制限などは患者自身で行わなければならないため、気になることがあれば医師に相談するようにしましょう。
イーヘルスクリニック新宿院 院長、帝京大学大学院公衆衛生学研究科 非常勤講師、久留米大学医学部公衆衛生学講座 助教
日本内科学会 認定内科医日本腎臓学会 腎臓専門医・腎臓指導医日本抗加齢医学会 抗加齢専門医日本医師会 認定産業医
埼玉医科大学卒業後、都内の大学附属病院で研修を修了。東京慈恵会医科大学附属病院、足利赤十字病院、神奈川県立汐見台病院などに勤務、研鑽を積む。2016年より帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学し、2018年9月よりハーバード大学公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)に留学。予防医療に特化したメディカルクリニックで勤務後、2022年4月東京都新宿区に「イーヘルスクリニック新宿院 (eHealth clinic 新宿院)」を開院。複数企業の嘱託産業医としても勤務中。
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