現在、日本では子宮頸がんの罹患率・死亡率が増加しています。特に、20歳代・30歳代の女性の罹患率が増加していることは、若い女性の健康を守るという視点からも、少子化対策という視点からも、我が国にとって大変深刻な問題となっています。
子宮頸がんを予防するためには、定期検診を受けるだけでなく、10代のうちに“HPVワクチン”を接種することが有効です。本記事ではエビデンス(科学的な根拠)に基づくHPVワクチンの有用性について、和歌山県立医科大学産科婦人科教授の井箟 一彦先生にお話しいただきました。
子宮頸がんの原因はHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染であり、根本的な1次予防として、イギリス、アメリカ、オーストラリアなど、世界各国で10代前半の女性に対しHPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)接種が国のプログラムとして実施されています。
HPVには多くの種類がありますが、HPVワクチンはハイリスク型で特に発がん性の高いHPVである16型・18型の感染を、未感染者においてほぼ100%予防することができます。16型・18型のHPVが原因の子宮頸がんは、「全子宮頸がん」のうち約60~70%を占めています。この60%という数値にとらわれてしまい、「40%近くの子宮頸がんを予防できないワクチンは有用とはいえない」と反論する方もいます。
しかしながら、第一に過半数の子宮頸がんを予防できる意義は非常に大きいことです。また、第二にこの数値の母体となっている「全子宮頸がん」とは、高齢の方までを含めた「全年齢の子宮頸がん」を指していることを考えることも大切です。
このデータを年齢別に解析すると、我が国の20歳代の子宮頸がんの90%、30歳代の子宮頸がんの76%は16型・18型のHPVが原因となっています(図参照)。
つまり、検診受診率が低く、また進行が早い症例も比較的多いとされる若年世代に発症する子宮頸がんの多くは、ワクチンで予防可能な16型・18型が原因なのです。HPVワクチンによる一次予防効果は、これらの若年世代の子宮頸がん発症予防に、より大きな効果があるといえます。また、二次予防としての検診(細胞診)も同時に必要です。
HPVはごくありふれたウイルスであり、一度の性交渉で感染する可能性もあります。ですから、可能な限り多くの方の子宮頸がんを予防するためには、HPV未感染の割合が高い(Sexualデビュー前の)10代前半にワクチンを接種する必要があります。
ただし、現にHPV16/18型に感染してしまっている人には、それを排除するような効果はワクチンにはありません。
つまり、仮にある1学年の女性全員がHPV未感染だとし、ワクチン接種率100%を達成できたとすれば、その方たちの中から20歳代に発症する子宮頸がんの90%は回避され、一生涯でみても60%強の発症が回避されることが理論上は期待できることになります。
和歌山県立医科大学 産科婦人科 教授
和歌山県立医科大学 産科婦人科 教授
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医・代議員日本婦人科腫瘍学会 婦人科腫瘍専門医・婦人科腫瘍指導医・代議員日本癌学会 会員日本癌治療学会 会員日本臨床細胞学会 会員
和歌山県立医科大学では、全ての婦人科がん患者さんに医学的根拠に基づいた説明・診療を徹底しており、患者さんとの強い信頼関係を築いている。また絨毛性疾患の取扱い規約や治療ガイドラインの確立に尽力し、全国の患者さんの相談・診療を行っている。日本産科婦人科学会のHPVワクチンに関する委員会の委員を務め、子宮頸がん予防のためのワクチンと検診に関するエビデンスに基づく医療情報の提供と啓発活動に尽力している。
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