子宮頸がんは、子宮の入り口部分である子宮頸部にできるがんのことです。2019年の日本産科婦人科学会・腫瘍委員会の報告では、浸潤がん*の発症のピークは40〜49歳で全体の28%ですが、20~39歳の若年においても20%を占めることが特徴の1つです。このように妊娠・出産を望む年代の発症が多いなか、子宮頸がんは進行度合い(進行期)によっては子宮の切除が必要になる場合があり、妊娠する能力(妊孕性)へ影響することがあります。では、妊娠を望む場合にはどのような治療の選択肢があるのでしょうか。
*浸潤がん:がん細胞が子宮の表面から深部へ侵入をした状態
子宮頸がん治療を行った後に妊孕性(妊娠する能力)を維持できるかどうかは、子宮頸がんの進行期と、進行期に応じた治療方法によって異なります。
一般的に、進行期が早期であれば子宮を残した治療を行うことができるため、妊孕性を維持できる可能性は高くなります。また、子宮の全摘出術が必要になるケースでも、妊娠・出産を強く希望する場合は、子宮を温存できることがあります。しかし、がんの範囲が広い場合は子宮を残すことで再発のリスクも高くなることがあるため、それぞれの治療のメリット・デメリットを考慮したうえで選択されます。
子宮頸がんの進行期(ステージ)は、がんの広がり方や深さ、ほかの臓器への遠隔転移の有無によって決められます。大きく分けてI期~IV期まであり、がんの深さや広がりに応じてIA1期、IA2期、IB1期、IB2期、IIA1期IIA2期、IIB期、IIIA期、IIIB期、IVA期、IVB期に細分化されます。このうち、IB1期までは妊孕性温存を考慮した治療を選択できる可能性があります。
がんが子宮のみに限られており、子宮以外に病変が認められない状態です。肉眼で病変が確認できず、病理組織検査のみで診断可能な場合はIA期、肉眼で観察可能な場合はIB期に再分類されます。
また、IA期の中でもがんの深さが3mm以内であればIA1期、3mmを超え5mm以内であればIA2期と診断されます。IB期の中でも病変の大きさが4cm以内であればIB1期、4cmを超えていればIB2期と診断されます。
がんが腟や子宮周辺組織といった子宮外に広がっており、その中でも広がりの程度が高度ではない状態です。広がりの範囲に応じてIIA1期(腟浸潤*が下1/3以内で病変の大きさが4cm以内)、IIA2期(腟浸潤が下1/3以内で病変の大きさが4cmを超える)、IIB期(子宮周辺組織浸潤)に分けられます。
通常は子宮全摘出術や(同時化学)放射線療法が適応となり、妊孕性を温存することはできません。
*浸潤:がんがまわりに広がっていくこと
がんが腟や子宮周辺組織にまで広がっており、かつその程度が高度である状態です。広がりの範囲によってIIIA期(腟浸潤が下1/3を超える)、IIIB期(子宮周辺組織浸潤が骨盤壁に達する)に分けられます。この場合も、通常は妊孕性を温存することはできません。
がんが膀胱や直腸にまで浸潤している場合がIVA期であり、遠隔転移が認められている状態がIVB期です。この場合も、通常は妊孕性を温存することはできません。
子宮頸がんの治療は、大きく分けて手術、放射線療法、化学療法の3つがあり、進行期に応じてどの治療を行うかが決められます。
がん病変の外科的切除を基本とします。再発のリスクを下げるためには、がんの病変が確認できている範囲よりも広い範囲を切除することが必要です。そのため、妊孕性の温存を望まない場合は、この進行期であっても単純子宮全摘出術や準広汎子宮全摘出術といった子宮全摘出術が選択されます。
しかし、IB1期までの進行期で妊孕性の温存を強く望む場合は、再発のリスクを考慮したうえで円錐切除術や広汎子宮頸部摘出術といった妊孕性温存治療が選択できることもあります。ただし、1B1期以下の進行期であっても、状態によっては妊孕性温存治療が選択できないこともあるため、医師とよく相談したうえでどのような治療を行うか決める必要があります。
IB2期はがんの範囲が広いため、広汎子宮全摘出術あるいは(同時化学)放射線療法が行われ、妊孕性を温存することはできません。
卵巣や腟といった子宮の周りの組織は切り取らず、子宮だけを切除する手術です。
単純子宮全摘出術よりも少し広めに子宮を切除する方法です。子宮に加え、基靱帯と呼ばれる子宮頸部の周辺組織や腟の一部を切除します。
準広汎子宮全摘出術よりもさらに広い範囲を切除します。子宮に加え、基靱帯や腟を大きく切除し、骨盤内のリンパ節も同時に切除します。
子宮頸部の一部を円錐状に切除する方法です。診断時に画像検査だけで分からない場合に、検査目的で行われることもあります。
子宮体部と卵巣を残し、妊孕性を保つことを目的とした手術です。本来であれば広汎子宮全摘出術が必要となる場合で、妊孕性の温存を強く望む場合に選択されます。
手術を行う場合は、がんを完全に取り切るために、より広範囲を切除する広汎子宮全摘出術が選択されます。また、同時化学放射線療法も行われます。
III期・IV期の子宮頸がんは進行がんと呼ばれ、手術ではがんが取り切れない場合が多くなります。そのため、手術が第一選択となることはほとんどなく、IVA期までは同時化学放射線療法を選択し、IVB期であれば抗がん剤による薬物療法が中心となります。放射線療法や抗がん剤は子宮や卵巣にダメージを与えるため、妊孕性を温存することは難しいでしょう。
子宮頸がんでは治療が必要になっても、進行期によっては妊孕性を温存することができる場合があります。それぞれの治療の特徴やデメリットについて医師の説明をよく説明を受けたうえで、自分に適した治療を選ぶことが大切です。治療法を決める場合に少しでも疑問がある場合は、納得するまで相談するようにしましょう。
国際医療福祉大学病院 産婦人科部長、国際医療福祉大学 教授
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