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インタビュー

胃がんの低侵襲手術-有用性と今後の展望

胃がんの低侵襲手術-有用性と今後の展望
清水 伸幸 先生

国際医療福祉大学 医学教育統括センター 教授、国際医療福祉大学 健康管理センター長

清水 伸幸 先生

目次
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この記事の最終更新は2016年02月01日です。

かつて、胃がんに限らず消化器の手術は開腹手術が一般的でした。開腹手術は切開した部位の治癒を待たなければなりませんから、一般的に入院期間が長くなります。近年では腹腔鏡や内視鏡の発展によって、開腹手術を行わず胃がんの手術を行えるケースが増えてきました。そのため身体への侵襲も少なく、手術後早期に体調が回復し、早期に社会復帰できるようになってきました。本記事では、胃がんにおける低侵襲手術について、山王病院副院長 外科部長の清水伸幸先生に解説していただきます。

腹腔鏡手術とは、炭酸ガスで腹腔(おなか)をふくらませて、おへそからカメラ(腹腔鏡)を挿入した後、数カ所を小さく切開(一般的に5~10mm程度)し、手術用の器具を挿入して行う手術のことです。日本においては、1990年に胆石による「腹腔鏡下胆嚢摘出術」が導入されましたが、手術創(手術後、腹部に残る傷跡)が小さく、開腹手術に比べて手術後の疼痛が少なく回復が早いことから、胃がんの外科手術にも利用されるようになってきています。腹腔鏡手術を受ける患者さんには、以下のメリットが挙げられます。

  • 腹部に小さな穴を開けて手術するので、術創(手術後の傷跡)が目立たない
  • 手術後の疼痛が少ない
  • 手術後の腸の運動の回復が早いので、回復が順調ならば早めに食事が再開できる
  • 術後の呼吸器機能障害などの合併症が少ない
  • 術後の腸閉塞の発生が少ない

また、腹腔鏡手術では術野(手術を行う部位)を拡大視できるため、リンパ節を高い精度で切除できるようになってきました。がんの治療成績の向上につながることはもちろんですが、手術の際に不必要な部位を傷つけませんので、手術後の合併症を減少させることにもつながると期待されています。

胃がんの内視鏡治療とは、通常の上部消化管内視鏡と同様に口から内視鏡を挿入し、内視鏡の先端から出す器具を用いて胃がんを切除するものです。

● EMR(Endoscopic Mucosal Resection):高周波スネアを用いて胃がんを切除する方法

がんの下(粘膜下層)に生理食塩水などを注入して患部を持ち上げ、内視鏡の先端から出したループ状のワイヤーをかけて、高周波電流を流してがんを含んだ粘膜を切りとる手術法です。この手術は短時間で行える上に危険性が少ないですが、切除できる大きさに限界があります。また、再発した病変や部位によっては切除が難しく、微小な取り残しをおこしやすいといったデメリットがありました。

● ESD(Endoscopic Submucosal Dissection):高周波メスを用いた内視鏡治療

EMRが難しい病変でも確実に取り残しなく切除できるように、内視鏡から出した細い電気メスによって胃の粘膜をはがして切除する、内視鏡下粘膜下層剥離術(ESD)という治療法が開発されました。(平成18年4月から医療保険が適用になっています)。現在は、内視鏡による胃がんの治療はESDによる治療が主流となっています。

ESDによる治療では、まずがん周囲の粘膜を切開し、次に粘膜下層を直接観察しながら少しずつ剥離して切除します。この治療法の利点としては、サイズが大きい腫瘍や潰瘍瘢痕(はんこん)を伴う例などでも一括して切除できる点です。ただし、EMRに比べて熟練した医師による治療が必要となり、EMRに比べて施行時間が長くなります。従来、内視鏡によって治療が可能な胃がんは胃癌学会のガイドラインでは以下の通りと規定されていました。

  1. がんが胃の表層(粘膜内)にとどまっているもの
  2. 分化型癌(癌細胞の形や並び方が胃の粘膜構造を残しているもの)
  3. 大きさが2cm以下のもの
  4. 癌の中に潰瘍を併発していないもの

ESDによる治療法の出現によって、これまで切除が難しかった大きな病変や潰瘍瘢痕のある病変に対しても治療が可能になってきました。したがって、(3)(4)の条件に当てはまらない病変(場合によっては(2))も治療対象にできるようになってきています。

胃がんにおける低侵襲手術は、内視鏡治療と腹腔鏡手術に大別できます。しかしながら腹腔鏡手術は、病巣だけを取り除いて機能を温存するという手術が積極的に行われていません。胃がんの手術は胃の3分の2程度を切除するケースが多いのですが、術後の胃の機能の観点からみれば腹腔鏡手術には、開腹手術に比べてメリットがあるとはいえません。したがって、胃の機能を残せる方は可能な限り機能を温存するなど、事前の検査の結果でそれぞれの患者さんにあった「テーラーメード」治療を行うことが重要だと考えられるようになってきています。

胃がんにおける内視鏡治療は、比較的初期の胃がんに適用されます。腹腔鏡手術は、開腹手術をするまでもないが内視鏡治療では対応できない状態の場合に行われるのが一般でした。しかし、腹腔鏡手術は術後の胃の機能の面では開腹手術に比べほとんどメリットが得られません。また、胃の機能を温存する手術は難易度が高くなる傾向があります。今後は、胃の機能を温存するために腹腔鏡手術が改良されて用いられることが望ましいと考えています。腹腔鏡手術の技術を進歩させつつ、化学療法などの治療を組み合わせながら患者さんの病状にあわせたテーラーメードの医療を行えるようになることが、今後の胃がんにおける治療の課題といえます。

  • 国際医療福祉大学 医学教育統括センター 教授、国際医療福祉大学 健康管理センター長

    日本外科学会 外科専門医・指導医日本消化器病学会 消化器病専門医・消化器病指導医・学会評議員日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医・消化器内視鏡指導医・関東支部 評議員日本内視鏡外科学会 会員日本胃癌学会 会員日本癌治療学会 会員日本消化器癌発生学会 代議員

    清水 伸幸 先生

    東京大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院で、一般・消化器外科、特に上部消化管外科について学ぶ。東京大学医学附属病院で臨床を重ね、ハーバード大学Massachusetts General Hospital Research Fellow、2009年に東京大学医学部附属病院准教授に就任。2013年より現職。特に、胃がんの低侵襲手術については医師の間でも評価を集めている。

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