インタビュー

A型インフルエンザウイルス—ウイルス学の視点から

A型インフルエンザウイルス—ウイルス学の視点から
高田 礼人 先生

北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター・教授

高田 礼人 先生

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この記事の最終更新は2018年01月30日です。

A型インフルエンザウイルスには、自然界に多くの種類があり、そのうち3種類がヒトの間で大流行をひきおこしました。この3種類のA型ウイルスは、カモからブタを経由してヒトに感染したという経緯があります。

今回は、ウイルス学の視点からA型インフルエンザについて北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター国際疫学部門の高田礼人先生に詳しくお伺いしました。

 

ウイルスの遺伝子には、いろいろな種類があります。1本の遺伝子に全てのタンパク質の設計図が載っているウイルスから、「分節」と呼ばれ、何本もの遺伝子にタンパク質の設計図が別々に載ることで成り立つウイルスまでさまざまです。

インフルエンザウイルスは、A型、B型、C型のすべてが分節を持ち、A型は、8本の分節にわかれています。

次に、新型のインフルエンザウイルスが発生するメカニズムを説明します。

A型ウイルスのような分節をもつウイルスは、「遺伝子再集合」という現象を起こす点が特徴です。

それぞれ8本の分節を持っている、2つの異なるインフルエンザウイルスがあるとします。この2つの異なるウイルスが同時に1つの細胞に感染したときに、細胞内で両方のウイルスの分節遺伝子が増えます。

そして、それぞれの8本の分節がいろいろな組み合わせで入れ替わった新しいウイルスが発生します。これが、遺伝子再集合と呼ばれる現象です。

新型のインフルエンザウイルスは、このように遺伝子再集合が起きて出現する可能性が高いといえます。

 

A型インフルエンザウイルスの粒子表面には2種類の突起(スパイク状のタンパク質)があります(上図)。それらのうちヘマグルチニン(HA)に着目すると、自然界には、「H1」〜「H16」までの16種類のA型インフルエンザウイルスがあります。このA型ウイルス全16種類を、病気にもならずにずっと持っている動物は、野生の水禽類(すいきんるい)で主にカモです。

ヒトの間で流行しているA型インフルエンザウイルスは、もともとカモが持っていたA型ウイルスが、ブタを介して、ヒトの世界に入ってきたことがわかっています。

今までヒトの世界に入り大流行を起こしたA型ウイルスは、「H1」、「H2」、「H3」という種類です。
ヒトは、今まで経験した「H1」〜「H3」までは免疫をある程度持っています。

しかし、「H4」〜「H16」のA型ウイルスがヒトに感染するようになった場合、ヒトは免疫を持っていないためパンデミック(大流行)が起こると考えられます。

「H1」…かつてスペイン風邪と呼ばれていた「H1」は、1918年に大流行を起こす。その後、今にいたるまでヒトの間で受け継がれている。現在は「ロシア型」とも呼ばれている。

「H2」…かつてアジア風邪と呼ばれていた「H2」は1957年に発生し、10年ほどで消えた。

「H3」…かつて香港風邪と呼ばれていた「H3」は、1968年に香港を発端とし流行した。

ヒトが免疫を持たない「H4」〜「H16」がいきなりカモからヒトに入ってくるのではなく、これまでと同様にブタを介して入ってくる可能性が高いと考えられています。

ブタの間でもインフルエンザは流行しています。鳥類が持つA型ウイルスがブタに入り流行することも、ヒトで流行しているA型ウイルスがブタに入り流行することもあります。

ブタのなかで、鳥インフルエンザウイルスとヒトインフルエンザウイルスが遺伝子再集合を起こしてできたウイルスが、新型インフルエンザウイルスとしてヒトに広がった場合、パンデミックが起きる可能性があります。

そのため鳥インフルエンザウイルス(特に2018年現在、中国の家禽の間で流行している「H5」や「H7」)が、ブタで見つかりだした場合は警戒する必要があると考えられますが、まだ起きていないようです。

 

よく使われているのは、オセルタミビルとザナミビルで、A型にもB型にも効く薬です。

インフルエンザウイルスの表面にあるノイラミニダーゼ(NA)という突起があります(上図)。

オセルタミビルやザナミビルは、このノイラミニダーゼの働きを阻害します。

ウイルス感染した細胞からウイルスが遊離するのを防ぎ、他の細胞へと拡散するのを抑える薬です。

WHO(世界保健機構)の研究協力機関では、定期的にいろいろなウイルスの遺伝子配列を読み、今どの地域でどのようなウイルスが流行っているか、それが増えてきているかなどを調査しています。

そのさまざまな情報を元にWHOは、毎年どのウイルスが流行るかを予測します。

この予測を元に、インフルエンザワクチンが作られます。

主に使われているインフルエンザワクチンは、「不活化ワクチン」といい、ウイルスの感染する力をなくしたワクチンです。

注射したことによる赤み、発熱はあるかもしれないですが、ウイルスは生きていないため感染することはありません。

一方で生ワクチンは、ウイルスが生きています。そのため少しだけ感染しますが、病気にはならないように非常に弱くしてあります。

麻疹風疹水痘黄熱病などが生ワクチンです。

卵

ワクチンは、鶏の発育鶏卵(有精卵)で作ります。鶏の卵は通常21日で孵化しますが、10日目くらいの卵に、インフルエンザウイルス株を注入します。

そうすると、卵白のサラサラした水のような部分に増殖したウイルスが出てきます。そこからウイルスを精製してワクチンを作ります。

部屋の温度は、自分が快適な温度でよいと思います。

寒い環境ほどウイルスは、活性を長時間保つことができます。

そのため、4度ほどの低い温度がウイルスにとってはよく、反対に60度くらいだとウイルスはすぐに活性を失います。しかし現実的に部屋を60度にはできないです。

20度〜30度の間くらいでしたら、それほどウイルスの活性に違いがないと考えられるため自分が快適な温度設定でよいと思います。

空気が乾燥しているからインフルエンザウイルス自体が強くなる、活性化するということはありません。

乾燥していると、ウイルスが咳やくしゃみで遠くまで飛びやすくなることはあるかもしれませんが、ウイルスは乾燥に強いとはいえません。

ただ、人の呼吸器の問題として、湿度が低く呼吸器の粘液が少なくなると生体防御機構が弱まって感染しやすくなることはあると思います。

インフルエンザウイルスは、少しずつ遺伝子が変わっていくため毎年予防接種を受けることが理想的です。

接触感染や飛沫感染を避けるために、まず人混みに行かないことも予防につながります。

100%は防げるということはないですが、手洗い・うがい・マスクは、インフルエンザに限らず、他のウイルスや細菌の二次感染の予防にある程度効果があると思います。

あまり潔癖になりすぎるのは、自分自身の免疫や、外界の様々な微生物との正常な関係性に影響を与えるかもしれないため、おすすめはしません。

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