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子宮頸がんワクチンの現状とは? ~海外の現状を踏まえ、国や私たちができることを解説~

子宮頸がんワクチンの現状とは? ~海外の現状を踏まえ、国や私たちができることを解説~
加藤 友康 先生

国立がん研究センター中央病院 婦人腫瘍科 医師

加藤 友康 先生

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子宮頸(しきゅうけい)がんワクチンHPVワクチン)は、接種することで子宮頸()がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を予防する効果があるとされるワクチンです。日本においては、2013年から安全性に懸念があるとして“積極的勧奨”が中止されていました。しかし、世界的にも安全性が認められたことで、2021年11月にHPVワクチンの積極的勧奨の再開が決まりました。では、なぜ積極的勧奨が中止されていたのでしょうか。また、私たちはワクチン接種についてどのように考えていけばよいのでしょうか。

本記事では、積極的勧奨が中止された当時の状況を振り返りながら、日本だけでなく諸外国の現状も踏まえつつ、ワクチンの現状について現時点の正しい情報を解説します。

日本では2013年4月にHPVワクチンが定期接種化されました。しかし、その直後の6月にワクチン接種後のさまざまな症状の訴えが相次いだとして、厚生労働省による接種の積極的勧奨が中止されています。

このさまざまな症状の訴えは、各種メディアでも繰り返し取り上げられ強いインパクトを残し、結果として2002年度以降に生まれた女子ではワクチン接種率が1%未満に落ち込んでいます。

HPVワクチン接種後に起こりうる症状としては、主に接種した部位の赤みや腫れ、痛みなどが挙げられます。また、まれに重い症状として、呼吸困難などのアレルギー症状や手足に力が入らなくなるなどの神経系の症状が起こることもあるとされています。

ただし、2020年10月に厚生労働省が出した資料によると、HPVワクチン接種後に生じた症状の報告数は1万人あたり9人で、そのうち医師や関係者が重篤であると判断した症状*の報告数は1万人あたり5人と記されています。

*重篤な症状とは、医師や関係者による判断であり、重篤ではない場合も報告されることがあります。

この状況は、2015年12月にWHO(世界保健機関)により「薄弱なエビデンスに基づく政策決定は安全で効果的なワクチンの接種を妨げ、真に有害な結果をもたらす可能性がある」と指摘されているのをはじめとして、たびたび批判を浴びています。

また、日本産科婦人科学会のホームページにも、「将来、先進国の中で我が国に於いてのみ多くの女性が子宮頸がんで子宮を失ったり、命を落としたりするという不利益がこれ以上拡大しないよう、国に対して、一刻も早くHPVワクチン接種の積極的勧奨を再開することを強く求めます」という記述が見られます。このように、国際的批判・学術界からの強い要請を受けているという背景がありながらも、国としては再開に向けて動くことができませんでした。

現在日本で承認されているHPV ワクチンには、2価・4価・9価があります。

HPVには100種類以上の型があり、2 価ワクチンには子宮頸がんの主な原因となるHPV16・18 型に、4 価ワクチンには16・18 型に加え尖圭(せんけい)コンジローマなどの原因となる 6・11型も含めた4つの型に効果が期待できます。また9 価ワクチンは、さらに 31・33・45・52・58型に対する効果が期待できます。

また、実際の成果としてHPVワクチン接種を早期に取り入れたオーストラリア・イギリス・米国・北欧などの国々では、HPV感染や前がん病変(がんの手前の状態)の発生が低下していることが報告されています。特に政策が進んでいるとされるオーストラリアでは、2028年に子宮頸がんは撲滅できるという研究結果も示されています。

このように、適切な介入により子宮頸がんを撲滅させるというのが世界的な流れになっています。

これまで述べてきたような日本、そして世界における現状を踏まえたうえで、日本は実際どのような方向にかじを切っていくのでしょうか。

HPV ワクチンの接種は若い年代の女性の子宮頸がん発症を予防する重要な対策と考えられています。実際に世界の多くの国の研究から、安全性の高いワクチンであることが報告されており、日本でもHPVワクチンの接種によって現れるさまざまな症状はHPVワクチンと関連性が認められないとしています。

また、厚生労働省では「HPVワクチンを1万人が受けることで、受けなければ 子宮頸がんにかかっていた約70人のがんを防ぐことができ、 約20人の命が助かる」と計算しています。日本産科婦人科学会では「HPVワクチンは、WHOが15歳までに90%以上の女子が接種することを目標としている国際的に効果と安全性が確立されたワクチン」と公表し、2022年4月から積極的勧奨を再開しました。

さらに世界においては、2030 年までに15歳までの HPV ワクチン接種率を90%に、子宮頸がん検診の受診率を70%(35・45歳の 2 回)に、子宮頸がん治療を受けられる率を90%にする3つの介入が成功すれば、2070 年以降には子宮頸がんは撲滅し得るとの目標が発信されています。

国の政策に加え、メディアや私たち国民の姿勢も同様に大切です。HPVワクチン問題がここまで複雑化した要因の1つには、メディアによる、時に科学的根拠を軽んじたとも捉えられかねない報道があります。そして、国民もそういった報道を全て鵜呑みにせず、自ら吟味する姿勢が必要です。

やはり、メディアにも国民にも科学的根拠に基づく姿勢が非常に重要といえるでしょう。

HPV ワクチンはこれまでの研究などから効果と安全性が確認されたワクチンです。一人ひとりが接種することで社会全体を守ることにもつながるといわれています。

また、世界的にも子宮頸がんのワクチン接種がすすめられており、子宮頸がんによる死亡者を減らすことが期待されています。実際に接種する際にはワクチンの有用性とリスクを正しく理解したうえで判断することが大切です。

国ではHPVワクチンを含む予防接種ついての情報の提供、または相談窓口を設置しているほか、各市町村でも予防接種に関する相談を受け付けています。ワクチン接種にあたり疑問や不安がある場合は、厚生労働省あるいはお住まいの各市町村の相談窓口に相談するとよいでしょう。

厚生労働省 予防接種情報

厚生労働省 感染症・予防接種相談窓口

参考文献

  1. 第69回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和3年度第18回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会.諸外国の公的機関及び国際機関が公表しているHPVワクチンに関する報告書.厚生労働省(閲覧日:2022年4月)
  2. 詳細版 小学校6年~高校1年の女の子と保護者の方へ大切なお知らせ.厚生労働省(閲覧日:2022年4月)
  3. 厚生労働省ウェブサイト.ヒトパピローマウイルス感染症~子宮頸がん(子宮けいがん)とHPVワクチン~(閲覧日:2022年4月)
  4. 公益社団法人 日本産科婦人科学会ウェブサイト.子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために(閲覧日:2022年4月)
  5. 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構ウェブサイト.ワクチンの信頼性に関するICMRA共同声明(一般向け)(閲覧日:2022年4月)
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