
夜に何度もトイレに行きたくなり、目を覚ましてしまう方もいるのではないでしょうか。年齢のせいだからと諦めてしまっている方も中にはいるかもしれません。夜間に1度以上トイレのために起きる必要がある状態を夜間頻尿といいます。夜間頻尿には複数の原因が考えられますが、心不全によって生じている可能性もあるため、そのままにせず病院を受診することが大切です。
今回は、東京都健康長寿医療センター副院長の原田 和昌先生に、心不全によって夜間頻尿が起こる理由、対策や治療などについてお話を伺いました。
心不全とは、心臓の病気によって心臓の機能が悪くなり、その結果として息切れやむくみなどを生じる病態です。進行してしまった事例ではがんよりも予後が悪いといわれることもあるため、早期発見・早期治療が重要となります。
心筋梗塞(心臓の血管が詰まってしまう病気)、心臓弁膜症(心臓の中の弁に問題が生じる病気)、心筋症(心臓の筋肉に問題が生じる病気)、不整脈、高血圧といった病気が心不全の原因として挙げられます。心臓弁膜症などの病気は年齢とともに少しずつ悪くなっていくことや、多様な心臓の病気の結果として起こるために、心不全は65歳以上の高齢の方に多いといわれています。
心不全は、心不全の状態が急に起こる“急性心不全”と、心臓の機能がだんだんと悪化する“慢性心不全”に分けられます。以下では、それぞれの症状について詳しく説明します。
急性心不全の主な症状は、急に起こる強い呼吸困難、意識障害などです。何もしていなくても呼吸がしづらい、横になっても息苦しいといった呼吸困難は、急性心不全の特徴的な症状です。すぐに治療を受けないと命にかかわることもあるため、これらの症状が現れた場合はすぐに病院を受診ください。

慢性心不全の主な症状は、息切れや倦怠感、むくみ、体重増加、夜間頻尿などです。早い段階から治療を行い、生活習慣を改善すれば症状はあまり悪化してくることはありませんが、自己判断で薬を中断したり、生活習慣を改善しなかったりすると症状が悪化して、最終的に心臓移植が必要になることもあります。

心不全は進行度などによってA~Dの4つのステージに分けることができます。初めて急性心不全を発症した際、つまりステージC(心筋梗塞や心筋症といった器質的心疾患があり、心不全の症状がある状態)で発見されることが一般的ですが、急性心不全を発症せずに段々と心臓が悪くなり、慢性心不全の状態に至ることもあるため注意が必要です。
急性心不全は、心筋梗塞や心筋炎(ウイルスなどへの感染によって心臓の筋肉に炎症が起こる病気)などを突然発症して起こる場合と、高血圧や不整脈といった増悪因子、貧血や腎不全といった併存症、塩分の摂取過多などの複数の要因が絡み合って急激に心不全が悪化して起こる場合があります。最初に急性心不全を発症したときにきちんと治療を行えば、症状が安定した慢性心不全の状態になりますが、薬を途中でやめてしまったり、節制しなかったりすると急性心不全(慢性心不全の急性増悪)を繰り返して徐々に心臓が悪くなっていきます。すると、補助人工心臓の装着や心臓移植といった外科的治療が必要な難治性の心不全であるステージDに移行することになります。
近年、話題になっているのは、ステージB(心筋梗塞や心筋症といった器質的心疾患はあるものの、心不全の症状はない状態)で心不全の原因となる病気の治療や生活習慣の改善を行うことで、心不全の発症を予防するという考え方です。さらには、ステージA(器質的心疾患はないが、リスク因子がある状態)の段階から、高血圧や糖尿病などの心不全のリスク因子がある方に対して治療や予防を行うことが望ましいと考えられています。
夜間頻尿とは、夜間に1回以上トイレのために起きる必要がある状態を指します。心不全によって夜間頻尿が起こることは知られていますが、そのメカニズムははっきりとは分かっていません。
夜間頻尿が起こる理由の1つとして夜間高血圧(夜間に血圧が高い状態)が関係しているといわれています。心不全の方は腎機能が低下することが多いので、余分な塩分を尿として体外に排出できなくなります。それをなんとか解消するために、通常であれば夜は下がる血圧を高いまま維持して体内の塩分を尿として排出していることが、夜間頻尿を引き起こしているという考え方です。
反対に夜間頻尿で夜中に何度も目を覚ますことによって血圧が上がり、夜間頻尿を悪化させている可能性もあります。また、特に高齢の方の場合、夜間頻尿で夜中に何度もトイレに行くことが転倒のリスクにもなり得るため、そういった面からも治療すべき症状といえるでしょう。
夜間頻尿がある場合には、まずは泌尿器科を受診することをおすすめします。泌尿器科で、夜間頻尿の原因が泌尿器科領域の病気でないと確認してから心臓を検査するという順番がよいと思います。
ただし、夜間頻尿のほかに息切れやむくみ、倦怠感などの症状がある方、またはもともと心臓の病気がある方は、はじめから循環器内科を受診ください。
血液検査のみで心不全かどうか分かるケースもありますが、診断のために胸部X線検査や心臓超音波検査(心エコー)、心電図などの検査を行うこともあります。検査の結果、心不全と診断された場合はすぐに心不全の治療を開始します。それと併せて心不全の原因となる病気を明らかにするための検査を実施することが一般的です。
心不全の治療薬は複数あるため、治療効果を確認しながら患者さんに適した薬を処方します。夜間頻尿がある方はそれと並行して、生活習慣の改善に取り組んだり、治療薬を使用したりします。また、心不全の原因となる病気が判明したら、その病気に対する治療も行っていくことになります。
生活習慣の改善において重要なのは減塩です。夜間頻尿の症状を和らげるためにも、1日の塩分摂取量を6g未満に抑えるように心がけましょう。また、飲酒は尿量の増加につながるため、禁酒、あるいはお酒を極力控えることをおすすめします。
そのほか、睡眠の質を改善すると夜間頻尿の軽減につながると考えられているので、日中は積極的に外に出て活動するのもよいでしょう。
循環器内科では、心不全による夜間頻尿の一因である塩分を体外へと排出するために、治療薬として降圧利尿薬(尿を体外に出すことで血圧を下げる薬)を処方することがあります。その際は、夜に飲んでしまうと逆に夜間頻尿を悪化させてしまうことがあるため、朝にまとめて飲むことが大切です。
また、心不全の治療薬の1つであるカルシウム拮抗薬(血管を広げることで血圧を下げる薬)によって夜間頻尿が悪化している可能性も考えられます。そのような場合には、カルシウム拮抗薬を減らしたり、朝1回の処方としたりします。
夜間頻尿を改善する西洋薬の中には、認知機能の低下が懸念されるものもあります。そういった薬を最小限にするために、夜間頻尿の改善が期待できる漢方を処方する場合もあります。漢方のみで夜間頻尿の改善がみられれば漢方のみを服用いただき、併用する場合でもできる限り西洋薬を減らせるように努めます。
なお、高齢の方は食欲不振や筋肉が痩せたことによって心不全が悪化している可能性も考えられます。そういった患者さんに対しては、不調に応じた漢方を用いて体調や体質の改善を図ることもあります。
夜間頻尿は心不全だけでなく、糖尿病や高血圧、睡眠時無呼吸症候群など、さまざまな要因によって引き起こされている可能性があります。そのため、心不全や夜間頻尿の治療を行っただけでは症状があまり改善されない場合もあると考えられます。
とはいっても、漢方を含めていろいろな治療の選択肢がありますから、「年齢のせいだから仕方ない」と諦めずに病院を受診することが大切です。夜間に何度もトイレに起きることでお困りの方は一度医師にご相談ください。
東京都健康長寿医療センター 循環器内科 副院長
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