子宮頸がんとは、女性の子宮の入り口である“子宮頸部”と呼ばれる部分にできるがんのことです。20~30代の若い女性にもみられることが特徴で、日本では年間約11,000人が子宮頸がん(浸潤がん)と診断されています。子宮頸がんは2000年以降患者数、死亡率ともに増加傾向にあり、発症のピークが若年化しつつあるといわれています。
では、子宮頸がんの原因や発症のリスクがある人の特徴には何が挙げられるのでしょうか。
子宮頸がんの主な原因は、ヒトパピローマウイルス(HPV)といわれるウイルスの感染によるものといわれています。
HPVは性交渉によって子宮頸部に感染し、数年から数十年以上の長い年月をかけて子宮頸がんに進行します。HPVは非常にありふれたウイルスであり、性交渉の経験がある女性であれば、半数以上が生涯のうちに感染するといわれています。
しかし、通常の場合は感染しても免疫機能により、約2年以内に自然に検査では検出されない状態となります。さらにそこからHPV感染が持続するのは感染者の約10%であり、子宮頸がんまで進行するのはさらに一部の人であると考えられています。
HPVにはさまざまな型があることが知られていますが、その全てのHPVが子宮頸がんの発症に関わっているわけではありません。HPVの中でも子宮頸がんの発症リスクとなるものを“ハイリスク型”と呼びます。
100種類以上のHPVのうち、十数種類がハイリスクHPVとされていますが、この中でも16、18型の割合が多く、日本の子宮頸がんに関連するHPVのおよそ60~70%を占めているといわれています。
子宮頸がんはハイリスク型HPVが感染し、さらに感染が持続しヒトの遺伝子に変化を起こすことで発症します。そのため、HPVの感染機会が多いことに加え、免疫機能の低下によりウイルスを排除する力が低下することなどが、子宮頸がん発症のリスクとなります。
そのほか、喫煙も持続感染のリスクと考えられています。近年では子宮頸がんの発症年齢が若年化していることが問題となっていますが、初回性交年齢が若年化傾向にあることも1つの理由であると考えられています。ただし、最大の要因は検診受診率が低いことにあるとされています。具体的に以下のような人は、現在子宮頸がん発症のリスクがあると考えられています。しかし、これはあくまでも疫学データであり、性交渉の相手が一人であっても出産経験がなくても、一度でも性交渉の経験があれば発症することがあります。
これまでに述べたとおり子宮頸がんはごく一部の特殊なタイプを除き、ほぼ全てがHPV感染を原因としたものであり、子宮頸部へのHPV感染は通常性交渉によるものと考えられています。性交相手が多いほどHPVの感染機会が増えるため、子宮頸がんのリスクが増加する可能性は否定できないものの、性交相手が1人だけでも初回性交から3年後の感染リスクは40%以上にのぼるとの報告もあります。
そのため、経験人数が少なければHPVに感染しないというわけではなく、一度でも性交経験がある時点で誰にでも感染の可能性があることを理解する必要があります。
また、性交経験がない人は子宮頸がんになる可能性がまったくないとは言いきれません。実際に性交経験がない人が子宮頸がんになるリスクは、きわめて低いといえるでしょう。しかし先ほど述べたとおり、子宮頸がんのごく一部のタイプでは、HPVが検出されないものもあります。現時点では性交経験がなく発生するのは、ごく特殊な組織型(HPVが関与しない特殊腺がん)です。そのため、リスクはかぎりなく低いものの、性交未経験者が絶対に子宮頸がんにならないと言いきることはできないと考えられます。
また、子宮頸がんに限らず、婦人科疾患のなかには性交経験の有無にかかわらず、発症するものがあります。そのため、性交経験がないから婦人科検診を受ける必要がないというわけではありません。気になることがある場合は婦人科を受診するようにしましょう。
子宮頸がんは、HPV感染からがんの発症まで、いくつかの段階を経て進行します。
性交渉によってHPVが子宮頸部に感染します。性交渉の経験がある場合は、半数以上の女性が1回以上感染するといわれています。ほとんどの人は、免疫機能によって1~2年以内に検出されなくなります。
HPV感染者のうち、約10%はウイルスが排除されずに長期間持続感染します。しかし、この段階で自然治癒する場合もあります。
持続感染した人のなかで、子宮頸部細胞の一部が変化する“異形成”と呼ばれる、がんの一歩手前(前がん病変)の状態に移行することがあります。異形成にはいくつかレベルがあり、軽度異形成、中等度異形成、高度異形成に分けられます。異形成の段階で自然治癒することも多いため、基本的に軽度異形成、中等度異形成では経過観察となりますが、長期間(2年以上程度が目途)存続する中等度異形成は治療を行うこともあります。
異形成のなかでも細胞の変化度合いが高いものは高度異形成、がん細胞が子宮上皮内にとどまるものは上皮内がんと呼ばれます。また、上皮内がん・高度異形成・中等度異形成まで含めて高度前がん病変と呼ばれます。
前がん病変はがんの一歩手前の状態ですが、上皮内がん・高度異形成と長期間存続する中等度異形成では将来的ながん化のリスクを減らすため、円錐切除術と呼ばれる方法で病変部位の切除を行うことがあります。
がん細胞の範囲が子宮の“間質”と呼ばれる部分に達したものが、浸潤子宮頸がんとして扱われます。多くの子宮頸がんは進行がゆっくりであるため、HPV感染からこの段階にいたる人は1%未満であるといわれています。
子宮頸がんに移行したとしても、早期の段階で治療を行えば多くの場合で治癒が期待できます。
子宮頸がんの原因であるHPV感染は、1回でも性交渉の経験があればどんな女性でも起こりうることです。しかし、HPV感染自体ががんの発症に直結するわけではなく、感染が持続することで子宮頸がんへと進行します。HPV感染から子宮頸がんへの進行までには長い期間がかかるため、がん化する前の段階で治療を行えば、怖い病気ではありません。
横浜市立大学医学部産婦人科学教室 主任教授
日本産科婦人科学会 特任理事・産婦人科専門医・指導医日本臨床細胞学会 理事・細胞診専門医・細胞診指導医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本婦人科腫瘍学会 理事・婦人科腫瘍専門医・婦人科腫瘍指導医日本産婦人科乳腺医学会 理事・乳房疾患認定医日本婦人科がん検診学会 理事NPO法人婦人科悪性腫瘍研究機構(JGOG) 理事
1988年横浜市立大学医学部卒業、2007年に日本婦人科腫瘍学会が認定する婦人科腫瘍専門医を取得する。2013年より日本産科婦人科学会特任理事(子宮頸がん予防担当)に就任し、婦人科腫瘍の集学的治療と子宮頸がん予防、卵巣明細胞がんのトランスレーショナルリサーチなどを手がけている。
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