膵臓は、内分泌機能と外分泌機能を持ちあわせており、インスリンの分泌や消化液を作りだす重要な役割を担っています。記事1『膵臓の機能を温存する 膵臓縮小手術の対象疾患とメリット』では、膵臓縮小手術の種類やメリットなどを中心にお話をうかがいました。今回も引き続き、藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院消化器外科教授の堀口明彦先生に、十二指腸と胆管までも温存できる手術法や、今後の膵臓手術の展望を中心にお話しいただきました。
藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院では、膵臓の頭部、尾部の切除だけではなく、膵臓の中央を切除する膵中央切除術も行っています。また、逆に膵の真ん中を温存する中央区域温存膵切除術は私が始めた術式で、膵臓の中央部分を残すだけで、糖尿病になるリスクを大幅に低下させることができます。
その他にも、膵頭下部切除術など多数の手術方法を採用しています。そのなかでも、特に高度な技術を誇っている術式が十二指腸温存膵頭切除術です。
先に述べた膵頭十二指腸切除術では、膵頭部と共に十二指腸と胆管を切除する必要がありました。しかし、藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院では、残せる臓器は残すという考えが根本的にあります。そのため、十二指腸と胆管を残し膵頭部だけ切除する十二指腸温存膵頭切除術を積極的に行っています。十二指腸温存膵頭切除術を行っている病院は全国でも数少ないため、日本各地から藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院に患者さんが来られます。
十二指腸と胆管を残すには、膵臓とそれらがつながっている血管も残す必要があります。血管を取ってしまうと、血液が十二指腸温存と胆管に回らなくなり、壊死してしまうからです。そのため、下の図のように、膵臓の1mm程度下に埋まっている血管を丁寧に取り出さなくてなりません。この作業には高度な技術を要します。
藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院では、2000年から十二指腸温存膵頭切除術を開始しました。当時は様々な病院でもこの手術を行っていましたが、術後の合併症が多発したため、この術式をやめてしまう病院がほとんどでした。藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院でも十二指腸温存膵頭切除術を始めた当初は、術後に十二指腸が破れるなどの合併症に悩まされました。
合併症を起こす原因を探るべく今までのすべての術例を研究したところ、全部の膵臓とつながっている血管を残すことに意義があるということがわかりました。この結果から、膵臓のなかに埋め込まれている血管を一本一本取り出し温存することで、合併症のリスクを抑えることができると判断したのです。
現在、藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院で行われる十二指腸温存膵頭切除術は高解像度画像診断から、膵臓の支配動脈を術前に把握し、すべての血管の位置を頭に入れてから手術に臨んでいます。そのため、出血も少なく術後の合併症もほとんど起こっておらず、患者さんは安心して手術を受けていただけます。
十二指腸を温存するか否かで、患者さんの予後(手術や治療後の見通し)が大きく左右されることは、呼気試験(息を吐くだけで胃の動きや機能がわかる試験)の結果によって証明されています。
十二指腸温存膵頭切除術と膵頭十二指腸切除術を行った患者さんそれぞれに呼気試験を実施した結果、十二指腸を残した患者さんの吸収度(腸に栄養が吸収される度合い)は何も行っていない正常な方と同等であることがわかりました。
十二指腸温存膵頭切除術の入院期間は平均2週間ほどで、その他の手術とあまり差はありません。しかし、長期的にみると十二指腸を残したほうが、吸収障害(栄養失調を起こしている状態)にもならず、体重もしっかりと増加していくというメリットがあります。
膵臓の手術にも手術支援ロボットのダヴィンチが導入されています。ダヴィンチは開腹をせず、おなかの表面に小さく開けた穴から手術を行います。そのため、患者さんの体にとって大きな負担となる腹膜破壊や筋肉を切ることなく手術ができ、出血も大幅に減らすことが可能です。
また、ダヴィンチを用いれば執刀医が手元を拡大してみることができます。さらにダヴィンチには手ぶれ補正機能も搭載されているため、細い1mmほどの膵管と腸を縫う作業でも綺麗に仕上げることできます。手術時間はダヴィンチのほうが長くなる傾向があります。しかし、手術後に患者さんの様子を見にいくと、開腹手術を行った方よりも元気で回復が早いという印象があります。
膵体尾部切除術にダヴィンチを導入している施設は他にもありますが、膵頭部に対してダヴィンチ手術を行っている施設は、日本では藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院だけです。
※ダヴィンチは膵臓手術に適していますが、現状では自費診療で患者さんに多額の負担がかかるため、すべての方に適応となる術式ではありません。
膵臓の機能温存治療の発展のために、日々さまざまな研究がされています。なかでも膵臓の縮小手術は、切り方や縫い方の研究により、さらに患者さんにとって最適な術式が増えていくと思われます。
また、どうしても膵臓を全摘出しなくてはいけない患者さんには、膵臓の細胞をあらかじめ採取しておき、手術後にその細胞を肝臓に注射するといった研究も行われています。肝臓に膵臓の細胞を入れることで、肝臓からインスリンを分泌するようになり、膵全摘をした方でも糖尿病になりにくくなるのです。
また今までの膵臓がんの治療においては、手術後は一般的に再発予防の目的で抗がん剤治療を行っていました。しかし近年は術前にも抗がん剤治療を行い、術後にも行う動きが強まっています。
今後これらの研究が実用化されれば、膵臓の疾患に対する機能温存治療は、さらに進歩を遂げていくでしょう。
堀口 明彦 先生の所属医療機関
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