精索静脈瘤とは、精巣から心臓に戻る静脈(蔓状静脈叢)内の血液が逆流してしまい、精巣の周りに静脈の瘤(こぶ)が出来てしまう状態を指します。
健常な一般成人男性でも約15% (*1) に見られますが、とくに男性不妊症患者の約40%に見られます (*2) 。また、右精索静脈と比較して圧倒的に左精索静脈に発生しやすいという特徴があります。
精索静脈瘤が発生する原因として、おもに以下の3つが挙げられます (*3)。
通常の血管には血液の逆流を防止する「弁」があります。精索静脈内でこの弁の機能が低下しているために逆流が起きてしまうこと。
左内精索静脈は左腎静脈に合流します。この左腎静脈が大動脈と上腸間膜動脈という血管に挟まれて血液が心臓に戻りきれずに逆流してしまう(クルミ割り器でクルミを割っているように見えることから、ナットクラッカー現象と呼ばれます)こと。
左内精静脈が、左腎静脈にほぼ直角に合流していること
多くの場合、自覚症状はありませんが、まれに症状として陰嚢の違和感や鈍痛を自覚することがあります。また、自覚症状はないものの造精機能障害(精子を作る上でのトラブル)による精液所見(精液検査の結果)の低下や精子の質の低下(DNAの損傷)がしばしば起こり、男性不妊の原因の一つとして大きなウェイトを占めています。
精索静脈瘤が造精機能障害を引き起こす原因はいまだ厳密には明らかになっていませんが、静脈血の逆流・うっ滞によって精巣の温度が上昇することや、精巣が低酸素環境になることなど (*4)が考えられています。
診断は、おもに触診やエコーを用いて行います。静脈瘤の程度は以下の3段階に分類されます (*5)。グレード3がもっとも重い状態です。
グレード3 視診で静脈瘤を確認できる
グレード2 立位(患者が立った状態)で触り、確認できる
グレード1 立位腹圧負荷(Valsalva maneuver)で触り、確認できる
グレードの高い静脈瘤などは、お風呂上がりなど陰嚢の皮膚がたるんでいるときに自分でも分かることがありますので、是非自分でチェックしてみることをお勧めします。
精索静脈瘤は、現在は男性不妊症の原因の中で最も外科的に治療可能なものとして認められており、治療の主体は外科的治療となります。ただし、これはグレードによって異なります。グレード2以上の精索静脈瘤では治療の効果が見込める (*6、7) ため積極的に手術を考慮しますが、グレード1の例では、精液所見不良の原因が精索静脈瘤以外にある可能性もあります。この場合、手術によって精液所見の改善が見込まれない可能性があるため、担当医とよく相談したうえで治療法を決定することが大事です。
また、手術以外にカテーテルを用いた血管内治療(塞栓術)が行われることがありますが、再発率がやや高いなどの理由から、行われることは少なくなってきています。
上の図にあるように、手術の術式はおもに血管を処理する位置から、1) 高位結紮(けっさつ)術、2) 腹腔鏡(ふくくうきょう)下手術、3) 顕微鏡下低位結紮術に分けられます。それぞれの手術の特徴を以下の表に示します。
各手術療法の特徴
最近は、再発や陰嚢水腫などの合併症が少なく、付随して起こる側副血行路(そくふくけっこうろ)の処理も可能である 3) 顕微鏡下低位結紮術が行われることが多くなってきており、優れた治療成績を誇っています。しかし、動脈損傷により精巣が萎縮するリスクもある点から、施設によっては 1) 高位結紮術や 2) 腹腔鏡下手術もいまだ安定して行われています。特に腹腔鏡下手術は、両側の精索静脈瘤に対して効率的に治療が行えるため負担も少なく、有効であると考えられます。
過去の報告からの治療成績の集計では、術後の精液所見改善率は57%、妊娠率は36%との報告があります (*8)。また、精子のDNA損傷の低下(精子の質の向上)がみられる (*9)という報告も多数見受けられます。しかし、手術を受けてから精液所見の改善がみられるまで約半年かかるため、不妊治療としては、並行して人工授精や顕微授精を行っていくことも選択肢のひとつです。
精索静脈瘤の予防法は特にありませんが、先述の通り自己診察を行うことにより早期発見が可能です。特に、陰嚢に血管の瘤が数珠(じゅず)状に浮き出ている方は専門医への受診をおすすめします。
横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター
横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター 泌尿器科部長・准教授、田園都市レディースクリニック 臨時職員
竹島 徹平 先生の所属医療機関
横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター 泌尿器科部長・准教授、田園都市レディースクリニック 臨時職員
日本泌尿器科学会 泌尿器科専門医・泌尿器科指導医日本生殖医学会 生殖医療専門医日本癌治療学会 会員日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
日本生殖医学会認定 生殖医療専門医(泌尿器科)の一人であり、男性不妊治療の専門家。横浜市の不妊相談などを担当し、男性不妊の啓発活動に努めている。また、横浜市立大学附属市民総合医療センターの生殖医療センター部長を務める。同センターは泌尿器科、婦人科に日本生殖医学会認定 生殖医療専門医(泌尿器科)が在籍しており、パートナーと一緒に治療を受けられる神奈川県内の施設である。
湯村 寧 先生の所属医療機関
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