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胃がん撲滅を目指して-日本胃がん予知・診断・治療研究機構のあゆみ

胃がん撲滅を目指して-日本胃がん予知・診断・治療研究機構のあゆみ
三木 一正 先生

一般財団法人日本健康増進財団 代表理事/認定NPO法人日本胃がん予知・診断・治療研究機構 理事...

三木 一正 先生

この記事の最終更新は2016年09月23日です。

認定NPO法人日本胃がん予知・診断・治療研究機構理事長の三木一正先生は、1987年に血清中のペプシノゲン測定によって萎縮性胃炎を診断する画期的な検査法を開発された第一人者であり、その業績は今日に至るまで世界中で引用され、もっとも信頼のおけるエビデンス(科学的根拠)となっています。

ヘリコバクター・ピロリ菌の感染に由来する萎縮性胃炎が胃がんの大きなリスク要因であることが明らかになった今、胃がん対策の中心は、がんを見つける二次予防から予知・予防と前提とした一次予防へと変わりつつあります。「感染症としての胃がん」対策を提唱し、その普及・啓発に取り組む「認定NPO法人日本胃がん予知・診断・治療研究機構」の活動について、理事長の三木一正先生にお話をうかがいました。

認定NPO法人日本胃がん予知・診断・治療研究機構は、2008年に私が東邦大学の教授を退任した直後にNPO(特定非営利活動法人)として設立した団体です。

胃がんはヘリコバクター・ピロリ菌(以下、「ピロリ菌」)による感染症に由来する疾患であることが明らかになりました。胃がん対策の中心は、がんを見つける「胃がん検診」から、胃がんを予知・予防する「胃がんリスク層別化検査」とピロリ菌の除菌に移行しつつあります。われわれは感染症としての胃がんに対し、次の4点を対策の柱としてその普及・推進に努めています。

①    胃がんリスク層別化検査によって、胃がんの原因であるピロリ菌感染と胃がんのリスクである萎縮性胃炎を診断する。
②    リスクに応じた定期的な内視鏡診療で胃がんの早期発見につとめる。
③    ピロリ菌除菌によって胃がんを予防する。
④    早期に発見された胃がんに対しては、開腹しない・胃を切らない内視鏡治療を行なう。

日本胃がん予知・診断・治療研究機構は2013年5月29日に認定特定非営利活動法人として認定を受け、認定NPOとなりました。このことにより、われわれの活動にご賛同いただき、寄附をくださった場合には、税務上の寄附金控除の適用を受けることができるようになりました。

会員は個人会員(1口3,000円)と法人会員(1口30,000円)の2種類があります。組織の運営は会員の方々からの会費および寄附金によって賄われており、収支決算報告は機関紙「Gastro-Health Now」紙上にてすべて公開しています。NPOへの寄附ならびに入会の手続きにつきましてはホームページ上でご案内をしています。

・    機関紙「Gastro-Health Now」の発行(年6回)による会員や全国の医療機関・検診団体・各自治体への胃がんリスク層別化検査を軸とした胃がん対策の企画・提案を行っています
・    出版事業やホームページを通じての国内外の医療機関・医師・研究者への情報発信
・    学術講演会、シンポジウム等の企画・実施
・    一般市民向けの啓発広報活動

Gastro-Health Now」は機関紙として年6回発行し、NPOの活動状況をご報告するとともに、胃がんリスク層別化検査の導入実績に基づく最新の成果・研究報告などの情報をお届けしています。

機関紙「Gastro-Health Now」第43号 人間ドック上部消化管内視鏡検診におけるABC検診-特にA群胃癌について- (日本胃がん予知・診断・治療研究機構ホームページより引用)
機関紙「Gastro-Health Now」第46号
町田市 胃がんリスク検診
(ABC検診)の現状

「胃がんリスク検診フォーラム」は2015年8月の開催以来、回を重ねて2016年11月25日に第6回を迎えました。このフォーラムは自治体や健康保険組合の健診(検診)担当者を対象に参加費無料で開催しており、毎回およそ100人もの方にご参加いただいています。

第6回のテーマは「 胃がんリスク層別化検査 実施自治体(西東京市・町田市)からの報告」でした。

*講演資料など詳細は以下リンクよりご覧いただけます。

第6回胃がん検診フォーラム

第六回会場の様子
第6回フォーラムの模様(日本胃がん予知・診断・治療研究機構ホームページより引用)

2015年から2016年にかけて、われわれの活動における大きな転換点となる出来事がありました。2015年4月23日、私は厚生労働省の「第13回がん検診のあり方に関する検討会」に参考人として出席し、局長以下、検討会の全構成員を前に自らの考えを述べる機会を得ました。

●第13回がん検診のあり方に関する検討会について(厚生労働省ホームページ)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000083702.html

●議事録
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000087083.html

●提出資料:リスク層別化検診
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000083700.pdf

この検討会、がん対策推進協議会などでの議論の結果、厚生労働省の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」が2016年2月4日に一部改正され、その改正内容には検討会で私が訴えたことがほぼすべて盛り込まれたのです。

がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針 新旧対照表(平成28年2月4日一部改正)

がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針 全文(平成28年2月4日一部改正)
 

同指針の改正部分から、もっとも重要な部分のみを以下に引用します。

報告書において、がん検診の事業評価は、一義的にはアウトカム指標としての死亡率により行われるべきであるが、死亡率減少効果が現れるまでに相当の時間を要すること等から、「技術・体制的指標」と「プロセス指標」による評価を徹底し、結果として死亡率減少を目指すことが適当とされた。この「技術・体制的指標」として、「事業評価のためのチェックリスト」及び「仕様書に明記すべき最低限の精度管理項目」が示され、「プロセス指標」として、がん検診受診率、要精検率、精検受診率、陽性反応適中度、がん発見率等の許容値が示された。

「プロセス指標」については、これまで検診学会(一般社団法人日本消化器がん検診学会)では「がん検診受診率」以下、「陽性反応適中度」までしか認めていませんでした。ところがここに今回、「がん発見率」等の許容値が示されたとの文言が付け加えられました。

死亡率減少効果をみるためには数年~数十年を要しますが、発見率についてはこれまでの研究でデータは十分に出そろっており、すでに決着がついています。この「プロセス指標」として「がん発見率」が明記されたことによって、私の主張はほぼ完全に認められたといってもよいでしょう。

また、指針の中では検診の実施は2年に1回、エックス線検査(バリウム検査)と内視鏡検査のどちらでもよいということが記されています。内視鏡検査の体制整備が間に合わない自治体もあるからです。国の調査では、リスク層別化検診の結果に基づいて内視鏡検査を実施できる自治体は全体の約1割程度ともいわれています。

この新しい胃がん対策を普及させるには、たしかに時間がかかります。しかし、今行っているこの研究を非合法だといわれてしまうと、われわれはもう研究ができなくなってしまいます。新しい研究がブレイクスルーするためには、やはり政策による後押しが必要です。

厚生労働省による今回の指針改正を受けて、さまざまな分野で新しい動きが出てきています。2016年3月10日には、国立研究開発法人国立がん研究センターがこれまでWebサイトで公開してきた科学的根拠に基づく「がんリスクチェック」シリーズの第5弾として、リスク診断ツール「胃がんリスクチェック」が新たに公開され、全国紙でも大きく取り上げられました。この質問票では7つの質問項目のうち6番目が血液の抗体検査によるピロリ菌感染の有無、そして7番目が血中のペプシノゲン測定による慢性胃炎の有無となっています。

また、2016年6月15日発行の「都医ニュース」(公益社団法人東京都医師会)第604号では、コラム「底流」の中でABC法(胃がんリスク層別化検査)を取り上げています。東京都医師会ではABC法の死亡率減少効果を証明すべく、東京大学大学院医学系研究科および国立がん研究センターと協力して、検診受診者の追跡調査を実施しています。東京都ではすでに21の区市町村がABC法の実施および導入準備をしており、今後さらに多くの自治体での導入が予想されます。

参考リンク:「都医ニュース」第604号(PDF)
http://www.tokyo.med.or.jp/kaiin/toi_news/pdf/toi20160601.pdf

ABC法を実施している自治体はすでに284を数え、これは全国の自治体総数1,718(2016年9月5日現在)の16.5%に相当します。また、国内主要企業の健康保険組合での導入事例も増えつつあります。

2017年8月17日、英国医師会雑誌にLeja M教授らによるピロリ菌除菌とペプシノゲン法併用法の胃がん死亡予防の有無を検証するプロトコールが世界保健機関(WTO)と共同で作成され、40〜64歳の健常人男女1.5万人ずつ、3万人を対象にした多施設無作為化試験研究(GISTAR研究)が開始され、介入群と非介入群の両群間で35%の死亡率減少効果が90%の確率で、今後15年間で検証される予定、と発表されました(BML Open Aug 17, 2017)

また、2018年はNIH(米国国立衛生研究所)から国際科学雑誌に、血清ペプシノゲンⅠ値とピロリ菌IgG抗体価併用法を用いて、フィンランド人男性21,859人を対象として平均13.9年間、初めて大規模前向き追跡研究を行った結果、329人の胃がんを発見し、本併用法の胃がん発見予知指標としての有用性が示された、と発表されました(Aliment Pharmacol Ther 2018;47:494)。これらは、私たちが提唱している胃がん検診方式、すまわちABC検診が、世界の胃がん検診の基準になる可能性を示すものです。

われわれ認定NPO法人日本胃がん予知・診断・治療研究機構は、これからも胃がんリスク層別化検査(ABC法)の重要性を訴え、ピロリ菌除菌治療と除菌後の内視鏡検査によるフォローアップを組み合わせた新しい胃がん対策の普及・啓発に尽力してまいります。

  • 一般財団法人日本健康増進財団 代表理事/認定NPO法人日本胃がん予知・診断・治療研究機構 理事長/ 東邦大学名誉教授 /がん研有明病院消化器内科 顧問/早期胃癌検診協会 監事

    日本ヘリコバクター学会 H. pylori(ピロリ菌)感染症認定医

    三木 一正 先生

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