院長インタビュー

南九州地域において心臓病・がん・脳卒中治療の中核を担う、鹿児島医療センター

南九州地域において心臓病・がん・脳卒中治療の中核を担う、鹿児島医療センター
田中 康博 先生

鹿児島医療センター 病院長

田中 康博 先生

この記事の最終更新は2017年11月09日です。

独立行政法人 国立病院機構鹿児島医療センターは、鹿児島県鹿児島市城山町にある総合病院です。1901年に、「鹿児島陸軍衛戌病院」として創立して以来、「国立療養所」、「国立病院」、「国立南九州中央病院」などと改称しながら医療施設として発展を遂げてきました。2004年に「九州循環器病センター」として発足した後、2006年に現在の「鹿児島医療センター」へと病院名を変更しました。鹿児島医療圏の高度・急性期医療の中核として、専門性の高い医療を提供しています。

今なお臨床の場に立ち自己研鑽を続ける同センターの院長、田中 康博先生に病院の特色や現在の取り組みについてお話を伺いました。

外観

▲病院外観

高度・急性期医療は当センター最大の強みです。なかでも、循環器疾患・脳血管疾患、がん治療については、南九州中核機関のひとつであると自負しています。これまでに、さまざまな特定施設を取得してきました。

循環器基幹医療施設や、地域がん診療連携拠点病院などのほか、エイズ拠点病院、地域医療支援病院、臨床研修指定病院、医療被曝低減施設などです。鹿児島県内では唯一の、DPCⅡ群病院としての指定も受けています。DPCⅡ群病院は、診療密度、医師研修の充実、高度な医療技術の提供、重篤疾患に対応できるなどの高い水準を満たしている必要があります。このように、当センターでは高度な医療の提供および充実した教育を実践していることが認められています。病床数370床、診療科23科を有し、所属医師は80名以上で非常勤や研修医を含めると110名を超えます。

当センターは、2018年4月に鹿児島逓信病院との診療機能移転を行います。病床数を410床へ増床し、病院規模の拡大とさらなる病院機能向上をはかります。診療機能移転することで、これまで以上に鹿児島の医療の中核的存在として貢献できると考えています。最高の医療を提供するために、新たなステージでも医療従事者としての責務を全うする覚悟を決めています。

治療室

▲ハイブリット手術室

循環器内科には、19名の医師が在籍しており、そのうち循環器専門医は10名です。救急患者、重篤疾患、ハイリスク手術の患者さんに対応するためのICUも配備しています。循環器内科が特に得意としているのは、冠動脈疾患(狭心症心筋梗塞)と不整脈治療です。治療に難渋する冠動脈疾患に対するロータブレーターなど特殊な冠動脈形成術や不整脈のカテーテルアブレーションなどの症例数はこの数年でかなり増加しました。

当センターは代表的な循環器疾患のほか、高血圧糖尿病脂質異常症高尿酸血症、肥満などの生活習慣病および慢性期疾患までと、あらゆる循環器疾患の治療を行っています。患者さんの利便性のためにも、かかりつけ医や近隣病院との連携にも注力しています。診断のための設備も非常に充実しており、高精度な検査を駆使した後に、最善の治療法を提案しています。従来の植込み型除細動器(ICD)に加え、完全皮下植込み型除細動器(s-ICD)や両心室ペーシング(CRTD)、エキシマレーザーによるリード抜去、バルーンによる大動脈弁形成術、さらには2017年6月から経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)、2017年9月からリードレスペースメーカ移植術も行っています。重症心疾患を患っている経過の長い患者さんやご高齢の患者さんにとっても治療選択肢が増えたことは朗報と思っています。

循環器内科と表裏一体の関係にある心臓血管外科では、一般外科との密な連携もはかっており、広範囲にわたる循環器疾患に対応しています。冠動脈疾患に対する心拍動下および心停止下冠動脈バイパス術や、心臓弁膜症に対する弁形成術および弁置換術、大動脈瘤などの大血管手術、下肢静脈瘤など、さまざまな術式の手術を行っています。近年では、高齢化にともない大動脈弁狭窄症を患う患者さんが急増しています。ご高齢の大動脈弁狭窄症を患う患者さんに対しての大動脈弁置換術は、リスクが高く敬遠されがちですが、同科では積極的に取り組み実績を重ねています。また経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)のハートチームの中心的スタッフとして参加しています。くわえて、高齢者の胸部大動脈瘤に対しては、開胸・開腹をせずに血管内治療(ステント留置術)をするなどして、低侵襲的な治療も行っています。

1985年代から脳卒中治療を中心とし、神経疾患全般を診療対象としてきましたが、1988年に脳卒中に特化した診療体制を整えました。診療内容の変化にともない、名称も脳・血管内科に変更しました。SCU(脳卒中集中治療室)も備えており、緊急入院も可能です。鹿児島県内の脳卒中治療の中核施設として、県内の各施設から多くの紹介をいただいています。脳血管障害には、大きく分けると脳梗塞脳出血くも膜下出血一過性脳虚血発作などがあります。急性期の脳卒中対応に関しては、脳神経外科と協力のもと、24時間365日いつでも専門医が対応できる体制を整えており、高度で先進的な医療を提供しています。脳梗塞の発症直後の場合は、カテーテルによる脳血栓回収術や血栓溶解療法(t-PA療法=脳内の動脈で詰まった血栓を溶かす治療法)を行っています。脳梗塞治療は、近年劇的な進歩を遂げ、後遺症の軽減に効果をあげていますが、迅速で専門的な治療の開始が何よりも重要です。しかし、もっとも留意すべきは予防です。そのため、まずは脳梗塞予防に関して、みなさまと共に努めていけたらと思います。

がん診療連携拠点として、複数の診療科で専門的ながん治療を提供しています。消化器科、泌尿器科、婦人科、放射線治療、腫瘍内科、小児科(血液・腫瘍専門医)、血液内科疾患、耳鼻咽喉腫瘍、皮膚腫瘍などの幅広い分野をカバーしています。また、循環器病を患っているがん患者さんに対し、循環器科の全面的なサポートを受けられることが当院の強みかもしれません。近年は、血液内科疾患、耳鼻咽喉腫瘍、皮膚腫瘍が多い傾向にあります。さまざまながんに対して、切除手術や、化学療法、放射線療法などで患者さんやご家族に満足していただけるように診療にあたっています。

血液内科

対象としている疾患は、急性白血病悪性リンパ腫、成人T細胞白血病多発性骨髄腫、などの造血器腫瘍貧血・血小板・白血球異常など血液疾患全般のほか、エイズです。また、無菌室を増床したことで、急性白血病の治療や移植に対応できるようになりました。そのほか、自己末梢血幹細胞移植、同種幹細胞移植、臍帯血移植といったさまざまな造血幹細胞移植に対応できるようになっています。新しい治療を取り入れながらも、患者さんひとりひとりに合わせて、さまざまな選択肢を提供できるように努めてまいります。

耳鼻咽喉科

耳鼻咽喉科の診療の2本柱は、頭頸部がん、耳鼻咽喉科・頭頸部疾患治療です。くわえて、悪性腫瘍であれば、口腔がん上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん、喉頭がん、鼻・副鼻腔がんなど種々のがんに対応しています。頭頚部がんの手術件数は鹿児島県でもっとも多い施設となっています。神経耳科疾患では、顔面神経麻痺突発性難聴前庭神経炎めまいなどです。

皮膚腫瘍科、皮膚科

悪性黒色腫メラノーマ)や基底細胞がん、有棘細胞がん、日光角化症ボーエン病乳房外パジェット病などといった皮膚がん、母斑をはじめとした良性の皮膚腫瘍を中心に診ています。2015年の皮膚がん登録数は全国427施設のなかでもっとも多い施設となっています。

腫瘍内科

鹿児島県で唯一の診療科である腫瘍内科では、がんに対して内科的治療を行っているほか、治療開始の時点から緩和ケアもスタートさせています。あらゆるがんを対象にしており、肺がん乳がん胃がん大腸がん、膵がん、悪性リンパ腫、成人T細胞白血病、軟部肉腫甲状腺がん(乳頭がん、未分化がん)、原発不明がんをはじめとして、希少がん(平滑筋肉腫脂肪肉腫神経内分泌がん腺様嚢胞がん、など)も診ています。鹿児島県の「がん難民」を減らすことに貢献するため、日々の診療にあたっています。2017年10月より、血液専門医の小児科医も加わり、AYA(Adolescent and Young Adult)世代のがんに対して体制づくりを始めているところです。

2018年4月より鹿児島逓信病院との診療機能移転にともない、消化器がん(肝臓ほか)、眼科、腎臓内科が充実されることになっています。今まで以上に厚みのある医療を提供できると考えています。

糖尿病・内分泌内科は鹿児島県では少ない内分泌専門医が診療を行っており、糖尿病に限らず、幅広い内分泌疾患に対応可能です。また歯科口腔外科では、自診療のほか、周術期、がん患者の口腔内環境のケアに努め、感染症などの合併症軽減に貢献しています。

人材育成

▲カンファレンス風景

当センターでは働き方改革を試みています。しかしながら、人の命を預かる立場であるこの仕事に就いた以上は、ある程度の覚悟を持って業務を全うする責任がある、という思いもあります。急性期に特化している当センターにおいて、働き方改革は簡単なことではありませんが、引き続き改善を重ねていきたいと思っています。良質な医療資源確保のために、誰か一人だけに比重がかかるような時代は終わりました。最良の医療を提供し続けるために、働きやすい環境のシステム構築に尽力してまいります。

鹿児島に限らず、日本全国の研修医や若手医師に伝えたいことは、当センターに来れば良質な勉強ができる、ということです。若手の育成に関しては、非常に自信を持っています。また、臨床家としての道を歩んでいくのならば、「視野狭窄的な思考」には重々気をつけてもらいたいと思っています。これは、専門性の高い医師をめざす場合でも、ファミリードクターをめざす場合でも共通していえることです。さまざまな経験を積み、広角レンズ的視野と判断能力を身につけてください。生身の人間を相手にする仕事ですから、いろいろな目線で診られる力は誰しもに求められます。今後は高齢化にともない、複数の疾患を持つ患者さんが増えることは間違いありません。そのなかで、専門性を有しながらもジェネラリストである人材の需要は増加するでしょう。そのためにも、当センターでは、専門性と横断的に診られるバランス感覚を持った医師の育成をしていきたいと考えています。私自身も臨床の現場に立ち現場の感覚を持ち続け、自己研鑽を続けています。管理者として現場の状況を理解することを重要と考えているからです。

可能な限り、医師としての理想を追求してください。当センターで学びたい方がいれば、ぜひ一度ご来院ください。

田中 康博先生

当センターのめざす病院の姿は、①地域住民の要望に確実に応えられる病院、②若い人材を正しく丁寧に教育できる病院です。

当センターは、高度・急性期医療を強みとして、専門的な医療を提供する病院として発展してまいりました。病院の成長とともに、敷居が高い存在として認識されるようになってしまったという側面もあります。これからは、この認識を変え、気軽に救急患者の受け入れ先として選択できたり、紹介しやすい病院をめざします。また、「鹿児島医療センターで治療してよかった」といわれる病院でありたいと思っています。患者さんには、肉体的にも精神的にも満足していただきたいと考えています。そのために、今後も一層の努力を続けてまいります。

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