

肝がん(肝臓がん)は肝細胞がんと肝内胆管がんに分類されます。肝細胞がんは肝臓の細胞ががん化したもの、肝内胆管がんは肝臓の中の胆管ががん化したものです。肝臓がんの罹患者数は年間10万人あたり32人程度で、50歳代から患者数が増加し、80歳前後でピークとなるとされています。また、がん全体の罹患者数、死亡数の中では上位を占めるよく知られたがんである一方、症状が出にくく早期発見が難しい側面もあります。
肝臓には自己修復・自己再生機能があるため、炎症やがんがあっても初期の段階では痛みなどの自覚症状がない場合がほとんどであり、その特徴から“沈黙の臓器”とも呼ばれています。ただし、がんが進行して自己修復の機能が限界を迎えると、さまざまな症状が現れるようになります。
肝臓がんは基本的に自覚症状が少なく、もし症状があった場合でも併発している肝炎や肝硬変などによるものである可能性が高いと考えられます。肝炎や肝硬変の症状としては、食欲不振や全身の倦怠感、腹部の張りなどが挙げられるほか、肝硬変が進行すると黄疸(皮膚が黄色くなる)や吐血、下血(肛門からの出血)が見られることもあります。しかしこれらはあくまで肝炎・肝硬変の症状であり、それだけで肝臓がんであると断定することはできません。
肝臓がんが進行した場合、腹部のしこり、圧迫感、痛みなどが現れることがあります。また、がんが破裂した場合は突然強い痛みが出たり、腹部で大出血が起こって貧血が現れたりすることもあります。そのほか、進行するとリンパ節や骨、ほかの臓器などに転移することもあり、骨に転移した場合は激しい痛みが現れたり、骨折が起こりやすくなったりするといわれています。
正常な肝臓にがんができることは少なく、肝臓がんが発症する背景には何らかのリスク因子がある場合が大部分です。具体的には以下のような原因が挙げられます。
肝臓がんの主な原因として、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスへの長期的な感染が挙げられます。肝炎ウイルスが体内にとどまることで肝臓の細胞が炎症、再生を繰り返し、これによって遺伝子の突然変異が積み重なることでがんになると考えられています。日本では肝細胞がんの約75%がB型・C型肝炎に由来しているといわれています。
喫煙、過度の飲酒、肥満、糖尿病などが肝臓がんのリスクを上昇させると考えられているほか、最近では非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)も原因として知られるようになりました。生活習慣の乱れや内臓肥満、ストレスなど、アルコール以外の原因で生じた脂肪肝(中性脂肪が肝臓に蓄積した状態)をNAFLと呼び、このNAFLが長期間続くことで起こる肝炎をNASHといいます。NASHを放置すると10年後には約10~20%が肝硬変になり、この状態になると年に数%の確率で肝臓がんになるといわれています。
肝臓がんは進行するほど治療が難しくなり生存率も低下するため、早期発見・早期治療が非常に重要となります。そのため、特に肝臓がんのリスクが高い肝炎ウイルスの感染者や、慢性肝炎、肝硬変患者などは定期的な検診を心がけるとよいでしょう。
肝炎ウイルスの感染者や慢性肝炎患者は半年に1回程度、肝硬変患者は3か月に1回程度、超音波検査や腫瘍マーカーなどの検査を受けることが推奨されます。
肝臓がんを発症しても初期は症状が現れづらく、進行してから腹部のしこり、圧迫感、痛みなどを感じることがあります。しかし、進行してからでは治療が難しいため、早期発見が非常に重要です。そのため、症状がなくても肝炎ウイルスに感染している、慢性肝炎や肝硬変を患っているなど肝臓がんのリスクが高い方は、定期的に検診を受けるようにするとよいでしょう。
大阪市立十三市民病院 病院長
大阪市立十三市民病院 病院長
日本内科学会 内科指導医・認定内科医日本肝臓学会 肝臓指導医・肝臓専門医日本消化器病学会 消化器病指導医・消化器病専門医日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡指導医・消化器内視鏡専門医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本臨床栄養代謝学会 認定医
島根医科大学を卒業後、大阪市立大学医学部附属病院、芦原病院、大阪市立住吉市民病院、大阪市立総合医療センターを経て、2004年より大阪市立十三市民病院消化器内科。2014年からは同院副院長を務める。肝臓病学の専門家として、患者さんに日々向き合っている。地域と共同で患者さんを診療する「がん地域医療連携クリニカルパス」にも積極的に取り組んでおり、地域の肝臓がん患者さんの治療に力を注ぐ。
倉井 修 先生の所属医療機関
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