気分障害(気分の落ち込みが数週間以上にわたって続く「うつ病」と、うつ状態とエネルギッシュな状態が交代で繰り返し現れる「双極性障害」の2つに分けられる)を持つ人には、高い確率で睡眠時無呼吸症候群がみられることがわかっています。なかでもうつ病患者では睡眠時無呼吸症候群を併発しているケースが多く、睡眠時無呼吸症候群はうつ病の前駆症状であるとの報告もあります。滋賀医科大学精神医学講座教授の山田尚登先生に、うつ病と睡眠時無呼吸症候群とのかかわりについてお話を伺いました。
厚生労働省は、地域医療計画に盛り込むべき重要な疾患として、がん・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病の4大疾病に、2013年度より精神疾患を加えて5大疾病としました。5大疾病の中では精神疾患の患者数が最も多く、中でもうつ病は、高齢者で最も一般的な精神疾患の一つであり、その頻度は1~4%、抑うつ状態の頻度は10~15%と報告されています。
うつ病における睡眠障害として、入眠困難、中途覚醒、早期覚醒、熟眠障害など不眠症の症状が見られることが多くあります。うつ病と睡眠時無呼吸症候群はこのように類似した睡眠障害があります。また、疲労感など身体的にも類似した自覚症状が見られます。さらに、うつ病と睡眠時無呼吸症候群はともに高血圧、心血管障害、糖尿病、高脂血症など生活習慣病とも密接にかかわることが知られています。
その因果関係として、睡眠時無呼吸症候群による無呼吸低呼吸による虚血(血流が減少し、臓器に必要な酸素量が減少する状態)の結果、海馬などを含む灰白質や白質の減少につながり、その結果、記憶、気分、心血管の障害に関連しているとの研究報告があります。実際に、睡眠時無呼吸症候群ではうつ病を合併している頻度が多く、滋賀県内でうつ病を発症している人を対象にした調査では約半数が睡眠時無呼吸症候群を併せ持っていました。また、多くの研究によって、不眠はうつ症状に先行して表れることが明らかになっています。初発うつ病の41%に不眠が先行しており、うつ病の再発時には56.2%に不眠が先行しているとの研究報告も出されています。
症例を紹介します。抑うつ状態の70歳の女性が当院に入院され、入院後も熟眠感がなく。意欲・活動性の低下が続き、1日中臥せっていました。全身に倦怠感があり、食事もわずかな量でした。検査をしたところ重症の睡眠時無呼吸症候群であることがわかりました。CPAPによる治療を行ったところ、睡眠時無呼吸症候群が劇的に改善し、抑うつ症状も急速に改善しました。抗うつ薬は退院後に中止し、CPAP治療は継続したところ、4年以上にわたって抑うつ症状の再発は見られず、通常の生活を送っています。
高齢者では加齢だけでなく、伴侶の死別などさまざまなライフイベントに遭遇することが多く、身体疾患を合併しやすい時期であるため、睡眠障害が生じやすいのです。睡眠障害はうつ病の危険因子であり、うつ病を発病すれば睡眠障害がさらに悪化し、加齢により低下していた認知機能もさらに低下させます。このことから高齢者ではうつ病の発症や再発を防ぐためにも、睡眠障害を早期に発見して治すことが重要です。
認知症においてもうつ病にしても、睡眠時無呼吸症候群をこれだけ高い確率で併発していることすらまだ知られていません。今後、さらに因果関係を明らかにし、治療が予防につながることを説いていきたいと思っています。
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