高血圧とは、一般的に安静時の血圧が140/90mmHg以上(家庭血圧では135/85mmHg以上)の状態を指し、動脈硬化や加齢によってゆっくり進行します。そのため、通常は自覚症状がなく、日本においては高血圧に気が付いていない方や治療を受けていない方などを含め約4,000万人の人が高血圧だと考えられています。
高血圧は脳卒中や心筋梗塞などの病気が要因の1つで、これらは日本人の死因や要介護に至る原因のもっとも重要なものとなっています。前述のとおり、症状がないことが高血圧の特徴ですが、頭痛があると高血圧を疑う人もいます。本記事では高血圧と頭痛との関係性について詳しく解説します。
頭痛が出てくると「高血圧による頭痛では?」「頭の中で何か起こってきているのでは?」と心配する方もいますが、実際には頭痛そのものと高血圧(主に軽度の高血圧:180mmHg以下)はほとんど関連していません。そもそも血圧は体の痛みやストレスなどですぐに上昇します。そのため、頭痛がして血圧が高かったという方のほとんどは、頭痛によって血圧が上昇したものと考えられます。
また、頭痛のような痛みで血圧が上昇しやすい方は、頭痛以外の痛み(たとえば安静時に腰やお腹などに痛みがあった場合など)でも血圧が上昇することが多くなります。
このことからも、頭痛によって血圧が上昇していた場合には過度に心配する必要はないといえます。かえって、あまりに心配しすぎることでストレスになり、さらに血圧が上昇する可能性も考えられます。そのため、まずは頭痛を抑える治療を受けるようにし、頭痛が改善されたら再度血圧を測定してみましょう。このとき、血圧が下がっていれば問題ないと考えてよいでしょう。
高血圧に頭痛を伴っている場合、通常は高血圧が原因ではないといえますが、ときに高血圧により頭痛が起こる場合もあり、これを高血圧性緊急症といいます。高血圧性緊急症とは、血圧が180/120mmHg以上の非常に高い状態で、高血圧の悪化によって各種臓器に障害が生じたものです。
症状は臓器の種類によって異なります。たとえば、障害が頭に起こった場合には頭痛・意識障害・けいれん・半身麻痺やしびれなど、心臓や血管に起こった場合には、胸痛・背部痛や呼吸困難など、腎臓に起こった場合にはむくみなどが出現します。ただし、血圧が180mmHgを超えると必ず臓器症状が出現するわけではありません。ほとんどの高血圧の方は200mmHg程度でも無症状で、なかには270mmHg程度の高い血圧の方でもまったく無症状の場合もあります。
また、症状は頭痛だけということはほとんどなく、障害が起きている部位に応じたさまざまな症状が複合的に出現することもあります。これらの多彩な症状と重度の高血圧が出現してきたときには、緊急に血圧を下げる必要があるため、通常は入院加療が必要です。
では、頭痛が生じている場合は、高血圧ではなく何が原因なのでしょうか。
頭痛は原因によってさまざまな種類に分けることができますが、以下では頭痛のなかでも多くみられる緊張性頭痛と片頭痛の主な原因について解説します。
肩こりの延長のような形で、主に首筋から後頭部にかけて痛み、締め付けられるような痛みがあることが特徴です。片頭痛(後述)と違って吐き気などは少なく、基本的には動くことができるといいます。
主な原因は、肩こりを引き起こすような精神的な緊張や、一定の姿勢、ストレスなどが挙げられます。ひどくなると凝った筋肉が後頭神経をギュッと締め付けて後頭神経痛を引き起こし、後頚部の頭蓋骨のすぐ下あたりから全体に広がるビリビリとした痛みが起こることがあります。この場合は早めに医療機関を受診し、薬の処方や局所に注射を受けることで楽になる可能性があるため、放置しないことが大切です。
片方の頭が(両側もある)ズッキンズッキンと痛くなり、吐き気を伴うことも多く、頭痛の前に眼がチカチカしたり見えにくくなったりすることが特徴です。ストレスや生理と関連していたり、光や音が嫌になったりします。緊張性頭痛と一番の大きな違いは、動きたくなくなることです。つまり動くと痛みが増すことが多いです。
これらの頭痛の原因がストレスなど血圧を上昇させるものでもあるので、頭痛と同時に血圧が上昇したり、また頭痛によって血圧が上昇したりするものと考えられます。よって頭痛が起こっている時の軽度の血圧上昇は心配する必要がないと考えられています。
頭痛の中でも脳出血・くも膜下出血・椎骨動脈解離(血管が裂ける)などによる頭痛は、突然血管が破れたりすることにより起こり、突然発症することが多いため注意が必要です。たとえば、箸を取ろうと手を伸ばした瞬間から出現するなど、いつ頭痛が出現し出したか言えるほど突然だといいます。また、痛みが強くなると吐き気を生じることも多くあります。加えて、激しい痛みがある頭痛にも注意してください。
頭の中で痛みを感じるのは主に血管や膜です。特に脳の動脈にできた瘤が破裂した状態のくも膜下出血が原因で頭痛が起きている場合は、今まで経験したことのないくらい非常に激しい痛みとなるといいます。これらの頭痛発症時は出血などのために頭の中の圧が上昇して、血液が行きにくくなっているため、体は血圧を上げて少しでも血液が行くようにはたらくので高血圧になっていることが多いです。いずれにせよ、突然発症と激しい頭痛はすぐに医療機関を受診することが必要となります。
繰り返しとなりますが、頭痛に伴った高血圧の場合は、過度に心配する必要はないと考えてよいでしょう。高血圧のコントロールは薬のみならず、禁煙や塩分制限や適度な運動も効果的です。そのため、まずは健康寿命を延ばすためにも今一度自分の生活を振り返って、高血圧対策に取り組むようにすることも大切です。
ただし、非常に高い血圧や突然の頭痛、激しい頭痛が出現するなど、気になる症状がある場合は危険な病気が原因となっている可能性も考え、早めに医療機関を受診するようにしましょう。
宇陀市立病院地域医療センター長 、奈良県立医科大学 名誉教授 総合診療科
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