インタビュー

地域の心臓救急医療―日本に心不全患者が増えている?

地域の心臓救急医療―日本に心不全患者が増えている?
田中 博之 先生

東京都立多摩総合医療センター 副院長(前循環器内科部長)

田中 博之 先生

心不全パンデミック」という言葉をご存知でしょうか。パンデミックは本来、感染症の爆発的な流行といった意味合いで使われる言葉です。心不全はもちろん感染症ではありませんが、今後の発症数増加はパンデミック級の急増が見込まれるといわれています。心不全パンデミックとこれからの地域の心臓救急医療について、東京都立多摩総合医療センター 副院長(前循環器内科部長)の田中博之先生にお話をうかがいました。

心不全パンデミックとは、今後急増すると見込まれる心不全のことをいいます。一般に心不全は冬に多く、その理由は血圧の上昇や、室内に閉じこもって運動不足になることなど、さまざまな要因が関わっていると考えられます。したがって、この多摩総合医療センターでも、冬になると毎日のように心不全の救急患者が搬送されてきます。

しかし、その季節的な変動とは別に、年を追うごとに心不全の患者さんが増えているという状況があります。高齢化で心疾患の患者さんは増えており、心筋梗塞の今後の予測として、全国的には徐々に頭打ちになっていくものの、多摩地区の年齢構成から考えると2035年頃までは増え続けるといわれています。また、狭心症も同様に2040年頃までは増え続けるものとみられます。したがって、心不全も同じように推移していくと考えられます。

●人口の高齢化(人口全体に占める高齢者比率の増加)

●医療の進歩による長寿化(他の疾患での死亡が減少した結果)

●生活様式の欧米化

などが考えられています。

多摩総合医療センターは心臓救急医療において、東京都内で心不全を扱う件数が最も多い施設です。2013年の統計から、集中治療管理を要する心不全は250件を超え、比較的軽症な心不全を含めると500件以上に及んでいます。心不全症例数は年々増加しており、患者の平均年齢は76歳と高齢で、基礎心疾患高血圧虚血性心疾患弁膜症心筋症などとなっています。

心不全は年齢とともに発症頻度が増加する疾患で、再入院率も高いことが特徴です。多摩総合医療センターの再入院による心不全数は全体の約30~40%を占めています。いったん状態が良くなって退院されたとしても、もともと心臓が悪く根本的には治っていないため、負担が大きくなるとまた症状が悪化してしまいます。

たとえば病院から寒い自宅に戻ると、また血圧が上がって体調が悪くなってしまったりすることがあります。また、心不全の患者さんは塩分などを制限する必要がありますが、自宅では食事制限が管理されにくいため、塩辛いものを食べて水をたくさん飲むといったことをしてしまうと、また心不全を起こすといったことになります。

つまり、増え続ける症例の中には、新たに心不全を発症する方に加えて再発の患者さんが含まれているのです。このことが心不全パンデミックの一因でもあると考えます。

心不全パンデミックに対応するには、ひとつの基幹病院だけでの対応には限界があり、地域の医療圏全体で心臓救急医療を支えていく必要があります。対策としては、たとえば超急性期は基幹病院、急性期はその他の急性期病院、慢性期は一般病院や診療所と役割分担を行うなど、心不全の重症度に応じて病院の規模や対応能力にあった診療分担を行うことが重要であると考えます。

開業医の先生方には、さまざまな会合などの機会を得ては現状をご説明していますが、全体的なシステムづくりの取り組みとしてはまだ難しい部分があります。

超急性期の患者さんを受け持つ基幹病院では、現在入院している患者さんが退院されないと、新しい患者さんを受け入れる余地がありません。心筋梗塞の患者さんは受け入れが可能な施設が比較的多いのですが、心不全はさまざまな問題を抱えている患者さんが多く、なかなか他の施設で診ていただくことが難しくなります。しかし、多摩総合医療センターは都立病院という位置づけもあり、そういった患者さんに対しても診療を行っていく役割を担っています。

健康診断を受けていただき、もし問題が見つかったときには必ず医療機関を受診して適切なアドバイスを受けていただくことが、病気を予防することにつながります。結果的にはそのほうが医療資源も少なくて済みますし、ご本人のためにもなります。また「自分の親が病気になったときは、自分も同じ病気になるかもしれない」と考えておくとよいでしょう。親御さんの面倒を見ながら、自分自身の健康もチェックすることが大切です。

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