インタビュー

冠動脈の病気と治療―カテーテル治療の推進

冠動脈の病気と治療―カテーテル治療の推進
田中 博之 先生

東京都立多摩総合医療センター 副院長(前循環器内科部長)

田中 博之 先生

私たちの心臓は、全身のあらゆる筋肉や臓器に不可欠な酸素や栄養分を供給するため、血液を送り出すポンプの役割を果たしています。また、その心臓自体も心筋と呼ばれる筋肉でできており、冠動脈という特殊な血管を通じて血液から酸素と栄養分を受け取ります。この冠動脈が動脈硬化の進行で狭くなると血液の流れが悪くなり、それによって血管が詰まると狭心症心筋梗塞を引き起こします。東京都立多摩総合医療センター 副院長(前循環器内科部長)の田中博之先生に、冠動脈の病気とカテーテル治療についてお話をうかがいました。

心臓は全身に酸素と栄養を運ぶために血液を送り出していますが、心臓自体も血液の供給を必要としています。冠動脈(coronary artery)とは心臓の筋肉に酸素や栄養を送る動脈のことです。大動脈からの最初の分枝で、大動脈洞(バルサルバ洞ともいいます)の上縁近くから左右2本の血管が始まり、それぞれ左冠動脈と右冠動脈といいます。左冠動脈はさらに前下行枝、回旋枝の2つに分かれています。

冠動脈疾患(虚血性心疾患)は動脈硬化性アテローム(粥腫)などの蓄積と血栓により冠動脈が詰まったり、流れが悪くなったりすることによって起こります。

高血圧などで血管の内側が傷つくと、血液中のLDLが入り込み酸化LDLに変化します。これがマクロファージに取り込まれたあと、アテロームと呼ばれる沈着物が血管壁にたまっていき、柔らかいかたまりになります。これをプラークといいます。たまたま血管表面の薄いところからプラークがはじけて中身が出てくると、そこに血小板が集まって血のかたまり(血栓)ができます。

プラークが破れて血栓が急にできた結果、詰まってしまうのが心筋梗塞であり、完全閉塞はしないものの、血管の内腔が狭くなっている状態が不安定狭心症です。

血管が狭くなっていても、安静時には血液が十分足りています。しかし運動をして心臓が一生懸命動かなければならない状態になると、心臓は多くのエネルギーを必要とするため、問題が発生します。寒いときや階段を上ったときなど、負荷がかかる状況で血液が足りなくなるのが、狭心症発作の典型的な状態です。

高齢の方は痛みを感じにくいことがあります。特に糖尿病などで感覚神経が鈍くなっていると、本当は痛みを感じる状況であっても、強い痛みとして感じていないという方も少なくありません。そのため、本当に容態が悪くなってからようやく気づくということがあります。

専門的な言葉で言えば「虚血が証明された狭窄」は、カテーテル治療の適応となります。つまり血管が狭くなっている部分があり、その先で血液が足りなくなっているという状態のことです。そのことを示す証明は患者さんの症状でも構いませんし、運動負荷心電図をとって変化があることもひとつの証明になります。あるいは、心筋シンチグラフィといった検査で血液が足りていないことが画像で証明されれば、経皮的冠動脈形成術(PCI)ならびに冠動脈バイパス治療(CABG)の適応があると考えます。

ちなみに、薬物治療は基本的に血管の狭窄そのものを治すことはできません。あまり負荷がかからないように心臓を休ませることを目的とした投薬ですので、根本治療ではありません。根本的に狭窄部分を治療するには、バイパス手術やカテーテル治療が必要です。ただし、狭くなった血管の全ての部分を治療するのは現実的ではありませんので、狭窄している部分がどれだけ重要な場所なのかということも加味したうえで治療を検討します。

欧米、特にアメリカではカテーテル治療よりバイパス手術を行うことが多いのですが、後述する薬剤溶出ステントが使われるようになってからは、カテーテル治療の頻度が上がっています。これは世界全体で見てもその傾向があるでしょう。

日本では、通常ならばバイパス手術を行うような難しい病変に対してもカテーテル治療を行うケースが少なくありません。それにはいくつかの理由があります。たとえば患者さんが高齢の場合、全身麻酔をかけて大きな手術を行うことが難しいという方もいらっしゃいます。多摩総合医療センターでもそういった患者さんは多くなっています。

もうひとつの理由として患者さん自身が、バイパス手術に比べて侵襲度(手術に伴う患者さんの肉体的な負担)の低いカテーテル治療を選択されるということもあります。また、日本ではカテーテル治療を得意としている医師が多いということも大きな理由です。

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