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インタビュー

肺がんの手術。体に負担が少ない手術法「胸腔鏡手術」とは

肺がんの手術。体に負担が少ない手術法「胸腔鏡手術」とは
大﨑 敏弘 先生

飯塚病院 呼吸器外科部長・呼吸器病センター長

大﨑 敏弘 先生

この記事の最終更新は2016年01月18日です。

肺がんには大きく3つの治療、手術療法・放射線療法・薬物療法があります。手術の適応となるのは通常1期、2期および3期の一部の肺がんに限られます。これまで肺がん治療は胸から背中にかけて大きく切開する手術が広く行われていましたが、最近は胸腔鏡を使ったからだに負担の少ない低侵襲な手術法が普及しています。胸腔鏡手術について飯塚病院の呼吸器外科部長で呼吸器病センター長の大﨑敏弘先生にお話を伺いました。

肺がんの手術には胸腔鏡手術と開胸手術の2種類があります。胸腔鏡手術は、英語の頭文字をとってVATS(バッツ:Video Assisted Thoracic Surgery)とも呼ばれています。肺がんの胸腔鏡手術には、「完全胸腔鏡手術(Complete VATS、Pure VATS)」と「胸腔鏡補助下手術(HybridVATS)」の2種類があります。

完全胸腔鏡手術とは、からだに挿入した胸腔鏡(からだの中に入れる内視鏡)カメラから写し出されるモニターだけを見て行う手術です。これは胸に開けた3~5か所(飯塚病院では4か所)の小さな穴(1~2㎝)に、肺を切除するための専用の手術器具やカメラを挿入して行います。

手術の最後には、切除した肺を袋に入れて体から取り出します(取り出す肺の大きさに合わせて穴のひとつを3~5㎝ほど広くします)。

一方、胸腔鏡補助下手術は、胸腔鏡モニターを見ると同時に、胸を7~10㎝ほど切開(ちょうどクレジットカード大になります)して病変である術野を直接見ながら行います。※施設により定義や方法は様々です。

また、開胸手術は直接目で見て手で触る手術です。以前は肋骨を切って30㎝程度の大きな切開を行っていましたが、近年は肋骨を切らず、切開の大きさも12~15㎝程で行えるようになってきています。

日本における肺がんに対する胸腔鏡手術は、1997年当時には6.8%だったものが、2012年には70.8%を占めるほどに増えました(日本胸部外科学会学術調査より)。患者さんの実に7割が胸腔鏡手術を受けていることになり、胸腔鏡手術を受ける方の数は全国的に年々増加しています。

ただ、胸腔鏡手術に関しては明確なエビデンス(根拠)が報告されているわけではありません。エビデンスレベルが高いデータが出る前にすでに臨床で普及したため、これまでに実施されたデータで成績を判断するよりほかにないのです。

日本肺癌学会が刊行する「肺癌診療ガイドライン」に胸腔鏡手術に関することがはじめて記載されたのは2003年版のことでした。そのときには「行うよう勧めるだけの根拠が明確でない(推奨グレードC:その手術がどれだけ推奨されるかの指標)」だったのですが、最新のガイドライン(2015年版)でも「科学的根拠は十分ではないが行うことを考慮してよい(推奨グレードC1)」と推奨グレードはあまり変わっていません。しかし、これまでの実績からみても治療成績に関しては開胸手術と変わらないといっていいでしょう。

8年前に私が着任した当時、飯塚病院での肺がんに対する胸腔鏡手術の割合は23.3%でしたが、2014年には84.1%に及びます。

また飯塚病院では、肺がんに対する胸腔鏡手術のほぼ全例を完全胸腔鏡手術で行っています。2014年では1例のみ完全胸腔鏡手術ではなく、胸腔鏡補助下手術を行いました。この方は術前から血管の処理が難しいことが予測されていたためです。

飯塚病院における開胸手術と胸腔鏡手術の成績の比較については、以下の表に示すとおりです。開胸手術と比較して胸腔鏡手術は、「手術時間が短い」「出血量が少ない」「入院期間が短い」「術後の合併症が減少する」などの利点があります。当然傷が小さく、肋骨や筋肉などが傷つきにくいため、手術後の痛みも軽くなります。また、予後(治療後の経過)に関しても開胸手術の場合と遜色のない結果でした。

 

開胸手術

(N=172) 

胸腔鏡手術

(N=297)

手術時間(分)

277.5

260.9

出血量(mL)

282.3

101.0

術後在院日数(日)

13.0

10.9

術後合併症

26.5%

19.8%

肺がんの縮小手術とは、肺を適切な範囲で小さく切って肺機能を温存する手術法です。縮小手術には肺葉の中の区域を1つ、または2~3つ切除する「区域切除」と、さらにもっと小さく切除する「部分(楔上)切除」があります。

飯塚病院では早期肺がんの患者さんには根治的縮小手術(区域切除や部分切除)をエビデンスに基づいて行っています。

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