
この記事では、近年承認された薬の適応基準や認知症の具体的なケア方法、活用できる社会資源から人生の最終段階(終末期)に対する準備まで解説します。
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日本では認知症の人の増加に伴い、医学的な治療だけでなく、地域社会で共生できるような取り組みが進められています。
認知症とは、さまざまな原因によって認知機能が持続的に低下し、日常生活に支障をきたすようになった状態です。認知症の人に対して、できる限り進行を遅らせ、生活の質(QOL)を向上させることを目標として、ケアや環境調整、および薬物療法などが行われています。
日本の高齢者率の上昇に伴い、認知症の人の数も増加しています。厚生労働省は2022年の調査で、65歳以上の高齢者における認知症の人の割合は約12%、認知症の手前の段階である軽度認知障害(MCI)*の割合は約16%と公表しました。この状況に対して、2024年には認知症の人の地域共生型ケアを推進する“共生社会の実現を推進するための認知症基本法(認知症基本法)”が施行され、認知症の人が尊厳を持って暮らし続けられる社会基盤の整備が進んでいます。
*軽度認知障害(MCI):認知機能の低下はあるものの、日常生活への支障はみられない状態。
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近年登場したアルツハイマー病の治療薬は、アルツハイマー病によるMCIおよび軽度の認知症の方が対象です。また、薬を使用する前に、その効果と副作用の理解が不可欠です。
認知症にはさまざまな原因が関係していますが、最も多いものはアルツハイマー病だといわれています。アルツハイマー病は、脳内にアミロイドβとタウ蛋白が蓄積し、脳が萎縮する病気です。脳の萎縮が進行すると記憶力の低下などが見られるようになり、やがてMCIや認知症を発症するようになります。
抗アミロイドβ抗体薬(レカネマブ、ドナネマブ)は、早期アルツハイマー病の人を対象として、近年承認された治療薬です。脳内に蓄積したアミロイドβを除去し、認知症の進行を抑制する作用が期待されていますが、進行を完全に止めたり、治癒したりする薬ではありません。また、MCIまたは軽度認知症*の段階であり、かつ画像検査(アミロイドPETなど)で脳内のアミロイドβの蓄積が証明されている人が対象です。
*軽度認知症:食事や着替え、入浴など基本的な日常生活動作は自立しているが、掃除や料理、金銭管理、服薬管理などの複雑な動作には支援が必要な状態。
抗アミロイドβ抗体薬に共通する主な副作用として、脳のむくみや微小な出血があります。そのため、投与開始前に脳のMRI検査が行われ、むくみや出血が起こりやすい状態ではないかを確認します。投与開始後も定期的なMRI検査が必要です。
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生活機能の低下に合わせた適切な支援が、認知症の人と家族の負担を軽減します。
認知症の重症度を調べる評価尺度には、主に以下のようなものがあります。
臨床認知症評価尺度(CDR)は、認知症の重症度を判定する評価尺度です。記憶や見当識(時間や場所の認識)、判断力と問題解決、地域社会活動、生活および趣味、身の回りの世話の6項目について、本人だけでなく家族(介護者)からの聴取も交えて評価することが特徴です。判定は0(健常)、0.5(認知症の疑い)、1(軽度認知症)、2(中等度認知症)、3(重度認知症)の5段階からなります。日常生活能力を重視するため、実態に即した進行度の把握に役立ちます。
FASTは、アルツハイマー型認知症の重症度を、認知症の人の生活機能の観察に基づいて評価する指標です。正常な1から高度のアルツハイマー型認知症である7までの7段階に大きく分けられ、着替えや入浴、排泄といった動作能力の変化を詳しく見ることで判断されます。
記憶力の低下はあるものの、身の回りの管理はおおむね自立しています。カレンダーやノートに予定や日々の出来事を書き込む習慣をつけることで、記憶力の低下に対処します。進行を遅らせるため、以下のような生活も推奨されています。
掃除や料理、金銭管理などの複雑な作業でのミスが目立ち始めるこの時期は、失敗を責めず、さりげなくサポートすることが重要です。自尊心を傷つけないよう、できることについては「一緒にやりましょう」などと誘う配慮が求められます。
着替えや入浴、食事などに介助が必要になる中等度以降では、なるべく手順を簡略化し、分かりやすい声かけが大切です。たとえば、目の前に食べ物があっても食べ始めない場合は、食べ物だと分かっていなかったり、箸やスプーンの使い方が分からなくなっていたりする可能性があります。そのようなときは「美味しそうでしょう」「一緒に食べましょう」などの声かけや、お箸を持って食べる動作を見せることなどで食べ始める場合があります。食後のタイミングやお腹をさするなどの行動が見られるときには、尿意・便意を予測してトイレに誘ってみましょう。
介助を拒否された場合や、失禁、便を触る行為(弄便)が多い場合などは、家族(介護者)だけで抱えこまないようにします。デイサービスや訪問介護などの介護保険サービスをうまく活用することが重要です。
また、言語や歩行が困難になる重度認知症の段階でも、スキンシップや穏やかな声かけを通じた交流を続けることが、認知症の人の安心感につながります。人生の最終段階となり、意識がはっきりしなくなった場合も、聴覚や触覚などの感覚は残っている可能性があるので、居心地のよい空間を維持しましょう。
家族や身近な方、特にご自身の親が認知症になった場合は、これまでとは異なる様子に戸惑いや驚きを感じるかもしれません。認知症の人にどう接するべきか悩んだときは、まずは一般的なポイントに気を付けてみてください。
これらに加え、認知症の人の状態や言動、性格によって適切な対応方法は異なるため、医療従事者にご自宅での様子を伝え、対応方法を教えてもらうことも検討してください。また、接するうちにその人に合った対応方法が分かるようになったら、個々に応じた言動を心がけましょう。
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介護保険サービスや地域での取り組みを活用し、家族(介護者)だけで抱え込まないようにしましょう。
認知症では、訪問介護やデイサービス、特別養護老人ホーム、福祉用具の貸与などの介護保険サービスを利用できることがあります。介護保険サービスを利用するには、お住まいの市区町村の窓口で申請したうえで、主治医の意見書と認定調査員によるご自宅や施設での聞き取り調査によって、“要介護”あるいは“要支援”と認定される必要があります。これらは日常生活動作(ADL)の自立度によって判定されます。要介護はADLの介助が常に必要な状態で、軽度の1から最重度の5までの5段階があります。要支援は将来的に要介護になる可能性があり、ADLに支援が必要な状態で、1、2の2段階に分かれます。
要介護度に応じて利用できるサービスが変わってくるため、介護保険の申請時には主治医や認定調査員に日頃の困りごとを正確に伝えておくことが、適切な認定結果につながります。認定後は、ケアマネジャーと相談してデイサービスやショートステイを計画的に利用し、家族の休息(レスパイト)を確保することが重要です。
2026年現在、全国で取り組みが始まっている“チームオレンジ”は、認知症サポーターが近隣の認知症の人の見守りや外出支援、話し相手などを行う仕組みです。認知症の人を地域全体で支え合う体制づくりが進められています。
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MCIや認知症と診断されたときに、将来に備えて任意後見制度や人生会議を行っておくことで、トラブルの防止や自分らしい生活を人生の最期まで維持することができる可能性があります。
MCIや認知症と診断された場合、当事者自身が決定できるうちに財産管理を支援する任意後見制度や家族信託の検討が必要なことがあります。これらは将来的な契約行為や資産運用のトラブルを防ぐための手段の1つです。
重度認知症や人生の最終段階になったときにどのようなケアや治療を受けたいか、最期はどこで過ごしたいかなどの意思を表明し、家族や医療従事者などと共有するプロセスを“アドバンス・ケア・プランニング(ACP)”や“人生会議”と呼びます。認知症の人の意思を尊重することで尊厳を守ると同時に、家族が将来、治療方針の選択に迷ったときに心の支えとなる可能性があります。
A. 2026年現在、MCIまたは軽度認知症の段階に限定されています。中等度以降に進行している場合は、薬の有効性が確立していないため、使用の対象外となります。
A. 「知らない子どもが立っている」「小さな虫が飛び回っている」などの具体的で鮮明な幻視は、神経細胞の中に“レビー小体”と呼ばれる病理学的変化がみられる“レビー小体型認知症”の特徴的な症状の可能性があります。本人の脳内では実際に見えているため、頭ごなしに否定すると不信感を招き、症状が悪化することがあります。まずは「そうなのね、不安ですね」と感情を受け止め、部屋を明るくするといった環境調整や生活リズムの調整を行ってみてください。
認知症では、早期の診断と適切なケアを受けることで、尊厳を持って自分らしく生き続けることが可能です。また、介護をするご家族も、医療従事者や社会資源に頼りながら、ご自身の生活を大切にするようにしましょう。
川崎医科大学認知症学 教授、川崎医科大学 高齢者医療センター 部長
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