RICメンタルクリニック白金高輪 院長/西脇 一朗 先生
眠れない夜が続く。翌朝も疲れが取れず、今ひとつ集中できない。そんなとき、多くの人は「ストレスかな」と考えがちだ。しかし、不眠は心臓の病気とも関係する可能性がある。その意外な関係性について、RICメンタルクリニック白金高輪の院長であり、日本精神神経学会 精神科専門医・指導医など複数の専門資格を有する西脇 一朗(にしわき いちろう)先生に、お話を伺った。
不眠は、ストレスや心の不調と結びつけて考えられることが多い症状です。
もちろん、それらも不眠の大きな要因・影響の1つですが、眠れないという状態は心の問題にとどまらず、全身の健康にも影響を及ぼすことが近年注目されています。
中でも意外に思われるのが、心臓との関わりです。「眠れないこと」と「心臓の病気」は、一見まったく別のことのように感じられます。しかし、海外の大規模な研究では、不眠のある人はそうでない人に比べ、心房細動という心臓の病気にかかりやすい傾向がみられたことが報告されています。
心房細動とは、脈のリズムが乱れる不整脈の一種で、脳梗塞などのリスクとも関わる病気です。
日本人およそ180万人を対象とした大規模な調査でも、興味深い報告が出ていました。
高血圧や糖尿病、睡眠時無呼吸症候群といった一般的な心臓病のリスク要因の影響を除いても、不眠のある人は心房細動を発症するリスクが約14%高かったとのこと。特に、女性や65歳未満の人でその傾向がみられたとされています(「Journal of the American Heart Association」2026年5月掲載内容を一部引用)。
ただし、これは観察にもとづく研究報告であり「不眠症が心房細動を引き起こす」と断定できるわけではありません。現時点では、両者に関連がみられたという段階です。
それでも「たかが不眠」と片づけられないことを示す、興味深い報告だといえます。
では、なぜ眠れないことが心臓と関わり得るのでしょうか。1つの説明として、自律神経のはたらきが挙げられます。
十分な睡眠がとれない状態が慢性的に続くと、体は緊張した「闘争・逃走モード」とも呼ばれる状態に傾きやすくなります。すると、心拍数や血圧が上がり、ストレスホルモンの分泌も増えるとされています。
こうした状態が続くことが、心臓に負担をかける一因になり得ます。眠れない状態を抱えていると、心臓などの臓器にも徐々に影響を及ぼしていくのです。
不眠は、心の不調のサインであると同時に、全身の健康に関わるサインでもあります。眠れない状態が続いているときに放置せず立ち止まることは、心の面はもちろん、体の面からも意味を持つのです。
また、不眠は多くの精神疾患に併存する症状であり、もともとの病気の治療成果や予後に悪い影響を及ぼす可能性が高いため、不眠の治療はとても大切です。
眠れない日が長く続く、動悸が気になる、日中の不調が抜けない――。そうした変化があれば、1人で抱え込まず、専門家に相談してみてください。
睡眠は、心と体の両方を映す鏡でもあります。その乱れを、大切なサインとして受け止めていただきたいと思います。
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