ストーマ(人工肛門)を造設した方が社会復帰し、その人らしく生活するためには、生活上のさまざまな工夫が必要になります。しかし、ストーマだからと何かを諦めたり我慢したりするのではなく、どうしたらやりたいことができるようになるかを自分自身で考えていただくことが大切です。皮膚・排泄ケア認定看護師として患者さんをサポートしている、横浜市立大学附属市民総合医療センター看護部の宮田晶代看護師にお話をうかがいました。
ストーマを造設して、これから社会復帰する方には、通勤経路や生活圏内のどこにトイレがあるかなどを調べてもらいます。
退院前に院内のオストメイト対応トイレを見ていただき、どんな仕様になっているのか、どうやって使うのかを確認していただくようにしています。このとき、オストメイトトイレの表示(サイン)を覚えていただいています。
ストーマを造設している方のことをオストメイトといいます。オストメイト対応トイレには専用の流しがあり、排泄物の処理やストーマ装具交換、周囲皮膚の皮膚をきれいにすることができるよう設備を備えているトイレがあります。
公共の場所に設置されているオストメイト対応トイレは身障者用の多機能トイレと一緒になっているところが多いため、肢体不自由ではないオストメイトの方が多機能トイレを使おうとすると、事情がわからない方から誤解されることもあるようです。私たちとしても、オストメイトの方にとってさらに使いやすいトイレが増えたり、多くの人に知ってもらえるような働きかけが必要だと考えています。
参照:「オストメイトJP」ウェブサイト(http://www.ostomate.jp/)
外出するときには必ずストーマ装具を一組は持ち歩くようにして下さいと説明しています。ゴミ袋と1回分の装具とウェットティッシュ、そしてできれば下着もワンセットにして持っていると安心です。コンパクトな化粧用ポーチぐらいのもので十分収まります。男性用トイレには汚物入れがない場合が多いので、ゴミ袋は用意しておいたほうがよいでしょう。
たとえば美容師や電力会社の作業員の方など、仕事上ベルトを装着する方もいらっしゃいます。そういった事情があらかじめわかっている場合は、術前に退院後の社会復帰を考慮してストーマサイトマーキングを実施します。(記事2「ストーマ(人工肛門)のモデルを使った説明とストーマサイトマーキング」参照)
腹帯などで上から押さえるほどの圧力であれば問題ありません。物が直接ぶつかるなど、強い力が加わることはできるだけ避けるように説明しています。
しかし、ストーマだからやりたいことができないということではなく、やりたいことがどうすれば実現できるかを私たちも一緒に考えていきたいと思っています。部活動や趣味のスポーツを安心してできるようにストーマを保護するアクセサリーを紹介したり、衣服を工夫したりしています。
ご本人が自ら考えていく中で、ああしたい、こうしたいという気持ちが出てきたときが重要だと考えています。私たちは最初のスタートラインにしか関わることができませんが、その方にとっては退院後、将来にわたって続く生活のすべてがリハビリテーションになります。元の生活に戻っていく中でどのようにストーマを受け入れていくか、私たちはその過程の準備をお手伝いしているに過ぎません。
退院する時点では装具を交換することで精一杯なので、なかなか要望を口にする余裕がない方が多いのですが、やがて家での生活や学校・職場へ戻っていくと、様々な「やりたい」という気持ちが出てきて、それを外来にいらしたときに話してくれるようになります。おそらくそうなったとき、ストーマがあることを受け入れ、一歩前に踏み出して生活していけるようになるのだと感じています。
宮田 晶代 さんの所属医療機関
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