
認知症の患者さんによる暴言や暴力、不安などの言動は、ご本人の“満たされないニーズ”のサインかもしれません。この記事では、ご自宅ですぐに実践できるケア技法から、薬物療法、家族の負担を減らすための社会資源まで解説します。
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BPSDとは、認知症患者さんにしばしばみられる1人歩き(徘徊)や暴言などの行動と、妄想や不安などの心理症状を指します。これらは、認知症とさまざまな要因が重なって現れる行動だと考えられています。
認知症の方が見せる1人歩きや興奮、暴言といった症状は、介護者側の視点から“問題行動”や、記憶障害などの中核症状に付随する“周辺症状”と呼ばれていました。近年では、認知症とさまざまな要因(環境的要因や心理的要因、身体的要因など)が重なることによって現れる“行動・心理症状(BPSD)”と呼ばれています。
また、BPSDは単なる病気の症状としてだけでなく、ご本人の“満たされないニーズ(アンメットニーズ)”の表出であると捉えられています。認知機能の低下により言葉でうまく表現できなくなった苦痛や欲求が、暴言や暴力といった行動として現れている可能性があります。
BPSDとして、以下のような症状が現れることがあります。
など
BPSDには、以下のような要因が挙げられます。ただし、これら以外の要因が関係している場合や、同じ症状でも状況により異なる要因が関係している場合もあります。
急激に興奮したり意識がぼんやりしたりする場合は、BPSDではなく“せん妄”という意識障害の可能性があります。せん妄は感染症や脱水、貧血などの身体的原因で起こることが多く、原因を治療することで改善が見込めるため、急な変化がみられたときは医療機関を受診しましょう。
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BPSDの治療の基本は非薬物療法です。患者さんの個々のニーズに合わせてケアや環境調整などが行われます。
BPSDでは、うつや暴行などで自他への危害を与える可能性が高い場合は薬物療法が優先されることもありますが、基本的には非薬物療法が優先的に行われます。
非薬物療法では、まずBPSDを引き起こしている要因を分析することが必要です。複数の医療従事者が患者さんの視点で気持ちを読み取り、健康状態や環境、これまでのケアが適切かどうか確認しながら、満たされないニーズを探ります。そして明らかになったニーズに応じて、病気の治療や環境調整、ケアなどが実施されます。また、家庭で介護を行う場合、適切なケアの方法について医療従事者に教えてもらいましょう。
家具の位置や照明の明るさなどを調整し、患者さんが落ち着いて暮らせる環境を作ります。
生活リズムが不規則になっている場合は、生活リズムを整えます。また、日々の生活をルーチン化し、毎日決まった時間に決まった行動をすることで、不安や混乱を感じさせないようにします。
脱水が起こらないよう、定期的に水分補給を促します。また、バランスの取れた食事を提供し、認知症以外の病気がある場合は治療を行って健康状態を改善・維持します。
認知症患者さんを尊重し、心理的な安定を図ることが重要です。否定や叱責は不安を強めるため避け、穏やかな口調や笑顔、患者さんの言葉に耳を傾け、見守る姿勢を見せることで、患者さんの気持ちが落ち着くことがあります。攻撃的な言動がみられるときは、刃物や鈍器、ライターなどを片付けたうえで、いったん距離を置くことが有効な場合もあります。1人歩きに対しては、名前や連絡先を衣服に記載したり、外出時にいつも持っている物や靴にGPS機器を取り付けたりすることで早期発見につながる可能性があります。
また、介護者だけで抱え込まず、ケアマネジャーと相談して介護保険サービスを利用し、介護負担を分散させることも大切なケアの一環です。
フランスで開発された“ユマニチュード*”は、相手の尊厳を大切にして、相手を大切に思っている気持ちを伝えるケア技法です。以下の4つの柱と、出会いの準備(来訪の知らせ)→ケアの準備→知覚の連結(ケアの実施)→感情の固定(ケアの振り返り)→再開の約束(次のケアの約束)という5つのステップを基本としています。
正面から、相手と同じ目線の高さで近くから見つめます。そうすることで、“平等な存在”“親密さ”を伝え、敵対心を和らげます。立ったまま、横になっている方を見下ろすことは威圧感を与えるため避けます。
低めのトーンで、穏やかに、ポジティブな言葉を使います。反応がなくても、「今、腕を拭いていますよ、温かいですね」と自分の動作を実況中継します。無言でのケアは否定的な印象を与えるため、声をかけ続けることで安心感を与えます。
手のひら全体を使って、包み込むように広い面積で触れます。背中や肩などの鈍感な部分から始め、徐々に手や顔へ移行します。ただし、掴む行為はBPSDを招く恐れがあるため避けます。
ケアの過程(トイレへの歩行や着替えなど)で、1日合計20分以上立つ機会を作ります。立つことは筋力の維持や骨粗しょう症予防の効果があると考えられています。
詳細な実践方法については、日本ユマニチュード学会で一般の方を対象とした講座が開催されています。
*ユマニチュード:商標登録。
認知症の患者さんに接するときに、“バリデーション療法”というコミュニケーション技法が有効な場合があります。これは、本人の言動が事実と異なっていても否定せず、その背後にある“感情”に焦点を当てて受け入れる方法です。たとえば、「財布を盗まれた」と訴えられたときに「盗んでいない」と事実を訂正するのではなく、「大切なものがなくなって不安ですね」と感情を受け止めたり、「いつなくなりましたか?」と問いかけたりします。感情を否定せずに共有することで、患者さんの安心感につながり、興奮が収まることがあります。
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薬は非薬物療法で改善しない場合の補助手段です。少量から開始し、副作用に注意しながら、症状が安定したら減量を検討します。
非薬物療法を行っても症状が改善せず、患者さん本人や周囲の方に危険(自傷他害)が及ぶ場合や、本人の苦痛が著しい場合に限り、薬物療法の導入が検討されます。
高齢者では薬による副作用のリスクが高まる可能性があるため、投与が必要と判断された場合でも少量から開始し、患者さんの状態を確認しながら少しずつ増量していきます。家族の方は、副作用を理解し、普段とは異なる状態が生じていないか、注意深く観察することが重要です。症状が安定してきたら、薬の減量や中止が検討されます。
BPSDの治療には、症状や原因となっている病気に合わせて以下のような薬が使用されます。
アルツハイマー型認知症に伴うBPSD(焦燥感や興奮による攻撃的な言動など)に対して、抗精神病薬(ブレクスピプラゾール)が保険適用となっています。そのほか、興奮や攻撃性が強い場合などには、クエチアピンやハロペリドール、ペロスピロン、リスペリドンなどの使用が検討される可能性があります。ただし、ハロペリドールはパーキンソン病やレビー小体型認知症の方には使用できません。また、抗精神病薬の使用中は転倒や骨折などのリスクが高まるため、注意が必要です。
不安がみられる場合に抗不安薬(タンドスピロンなど)が検討されますが、眠気やめまいが現れることがあります。
幻覚、妄想、興奮、焦燥感などに対して効果が期待される漢方薬です。体力が低下している方にも比較的使いやすく、抗精神病薬の前に使用が検討されることもあります。低カリウム血症が生じる可能性があるため、定期的に血液検査が行われます。
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2024年から“認知症チームケア推進加算”が始まりました。専門的なケアを行う施設や、レスパイトケアを上手に利用しましょう。
2024年度の介護報酬改定において、新たに“認知症チームケア推進加算”が新設されました。これは、BPSDの予防や早期対応のために、専門的な研修を受けたスタッフを配置し、チームで計画的なケアを行っている施設を評価するものです。この加算に伴い、BPSDへの対応力強化に取り組む施設が広がってきています。
BPSDへの対応は、介護者に大きな精神的・身体的負担をもたらします。介護者が共倒れにならないよう、ショートステイやデイサービスなどを利用して、介護から離れる時間を作る“レスパイトケア”が大切です。介護者が疲れや負担を感じた場合は、ケアマネジャーや地域包括支援センターなどに相談し、積極的に休息を取るようにしてください。
A. 個人差がありますが、適切なケアや環境調整などによって改善する場合があります。暴言が激しい場合は、薬物療法も検討されます。
A. 自傷他害のリスクが切迫していたり、在宅での介護が限界に達していたりして、専門的な治療が必要なケースでは、医療保護入院などが検討される場合があります。まずはかかりつけ医にご相談ください。
認知症のBPSDは、適切なケアや環境調整、薬物療法などで改善する場合があります。また、介護にあたるご家族は、専門家や社会資源を頼りながら、自身の心身のケアも大切にしてください。
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