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インタビュー

胸腔鏡を用いた低侵襲治療-肺がんの治療法選択

胸腔鏡を用いた低侵襲治療-肺がんの治療法選択
池田 徳彦 先生

東京医科大学 呼吸器・甲状腺外科 主任教授/東京医科大学 副学長(医学科長)

池田 徳彦 先生

この記事の最終更新は2016年01月04日です。

医療技術の進歩によって肺がんの早期発見が可能になり、治療の選択肢も従来に比べ格段に幅広くなっています。昨今では、一人ひとりに合わせたテーラーメイド医療という言葉もよく取り上げられるようになってきました。日本の肺がん治療をリードし、完全胸腔鏡下手術でも高い治療実績を誇る東京医科大学呼吸器・甲状腺外科で主任教授を務める池田徳彦先生にお話をうかがいました。

胸腔鏡手術(きょうくうきょうしゅじゅつ)とは、胸に小さな創を作り、肋骨の間から先端にカメラがついた胸腔鏡と呼ばれる内視鏡を入れて行う手術のことをいいます。従来は主に早期肺がんに対して行われていましたが、現在では通常の場合、胸腔鏡手術を第一選択として行うことが多くなっています。

開胸手術では従来20cmほどの切開が必要であったのに対し、胸腔鏡手術は小さな傷をつけるだけ済む、患者さんの負担がより少ない低侵襲な手術です。術後の痛みが少なく、回復も早い傾向があります。

ただし、太い血管からの予期しない出血などがあった場合には、機敏かつ安全に対応する必要があるため、胸腔鏡手術から開胸へ切り替えることもあります。

胸部外科学会の学術調査学会では、年間約35,000件の肺がん手術が日本で行われており、そのうちの約65%が胸腔鏡手術で行われているとされます。現在では小切開を併用した胸腔鏡手術から完全な胸腔鏡下手術を行うことが多くなっています。

完全胸腔鏡下手術では、カメラで拡大した画像をモニターで見ながら手術を行うことができるため、良好な視野が得られます。多少の慣れは必要ですが、胸腔鏡手術の経験がない人でも基本的な手術手技さえできていれば、適切な指導の下で一定期間のトレーニングを受けることによって必ず行えるようになります。

治療方針を決めていく上では、考慮すべき三つの柱があると考えます。まず、がんの診断と治療方針が医学的に正しいこと、なおかつ患者さんの体力がその治療に十分耐えられるかどうか。そしてもうひとつは、患者さんそれぞれの社会的背景も十分に考えなければならないということです。

たとえば高齢のご夫婦で、普段から病気がちな奥様の面倒を見ているご主人が手術でしばらくの間入院しなくてはならないとしたら、ご家族は非常にお困りになるでしょう。そういった社会的な背景というものも十分考慮する必要があります。こういったことも頭に入れながら治療を行っていくことも、医療の大切なひとつの柱として重要なのではないでしょうか。

肺がんの治療では、手術だけでなく抗がん剤による化学療法や放射線治療を組み合わせる「集学的治療」が広く行われるようになっています。

また、手術の方法についても、開胸のほうが安全で緻密な作業ができるというポリシーを持って、8cmほどの小さな開胸による手術で、入院期間も短く、患者さんの負担も少ない方法をとっている医師もいます。

それもひとつの考えであり、大いに賛同できる部分があります。しかしながら、一方で早期がんを発見できるようになり、10年〜20年前と比べればかなり小型の肺がんが増えてきているという背景があります。

そうなればやはり、がんの根治も達成しつつ、機能も温存する―すなわち「二兎を追う」ことを目指しても良いのではないかと考えます。従来よりも体に負担のかからない方法で治療することが社会の要請に応えることかとも思っています。

私たち外科医も、何らかの形で患者さんのメリットになるように還元していく方法を考えていくべきではないかと考えます。

治療として手術が適すると判断するには、まずがんの診断が正しいかどうか、いわゆる進行度に対する診断が精密かどうかを考える必要があります。そしてもうひとつは、患者さんに十分な体力があるかどうか、心臓の機能、肺の機能、あるいは他の持病がしっかりとコントロールされているかどうか、このようなことも大切になってきます。

加えて、肺がんだけではなく、他の病気があるかどうかという、一段階上の緻密な部分をも考えていくことによって、患者さんの安全をより強く保証できるのではないかと考えます。

主治医というものは―これは医療従事者全般に言えることかもしれませんが、少し心配しすぎるぐらいがちょうどいいのではないかと思っています。あらゆるリスクを想定するなど、考え得る限りの心配をするということが手術を引き受けるということであり、手術が終わって無事に退院できればよいということではなく、退院後の快適な生活も考えてさしあげるのが責任を持つということではないかと考えます。


 

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