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インタビュー

肺がんの分子標的薬、副作用は?――適用を絞り、管理をすれば副作用を抑えることができる

肺がんの分子標的薬、副作用は?――適用を絞り、管理をすれば副作用を抑えることができる
金 永学 先生

京都大学医学部 呼吸器内科 助教

金 永学 先生

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この記事の最終更新は2017年08月13日です。

分子標的薬は比較的新しい肺がんの治療薬ですが、その短い治療成績のなかでもさまざまなことが明らかになって来ました。現在は、より効果的な適用条件や副作用のコントロール方法が確立されています。

今回は分子標的薬の治療の歴史や副作用の管理について京都大学医学部附属病院 呼吸器内科 助教の金 永学先生にお話を伺いました。なお、分子標的薬の概要や適用条件については記事1『肺がんの分子標的薬――適用条件と効果は?』を御覧ください。

肺がん治療の分野で初めて有効性を示した分子標的薬は「ゲフィチニブ」です。当時ゲフィチニブは抗がん剤と比較して副作用が少ないことから「夢の治療薬」と謳われるほどでした。発売当初はこの薬剤の作用機序は十分わかっておらず、すでに抗がん剤治療しか選択肢の残されていないすべての非小細胞肺がん患者さんを対象に使用されていました。

しかし、実際の治療結果をみてみるとゲフィチニブは非小細胞肺がん患者さん全体のうち10-20%ほどの患者さんにしか効果がないということがわかりました。その後、どのような人に効いているのか調べた結果、「EGFR」という遺伝子の変異ががんの発生・進行に大きく関与している患者さんにゲフィチニブが効いていることがわかったのです。

また治療を進めていくうち、分子標的薬には抗がん剤ほど大きな副作用はないといわれていたものの、ときに大きな副作用をもたらす可能性があることも明らかになってきました。そのため現在は適用条件をしっかり見定め、副作用をきちんとコントロールして治療を行うことが義務付けられています。分子標的薬の治療適用条件については記事1『肺がんの分子標的薬――適用条件と効果は?』で詳しく述べていますので、ぜひご覧ください。

分子標的薬の副作用はどの薬にも共通しているものと、その薬特有のものとがあります。分子標的薬の代表的な副作用として下記のようなものが挙げられます。

<分子標的薬の副作用>

  • 下痢
  • カサつきや湿疹などの皮疹
  • 間質性肺炎

分子標的薬の最も重篤な副作用は間質性肺炎です。間質性肺炎とは、肺胞の壁に炎症が起こり硬くなることで酸素を取り込みにくくなる病気です。

分子標的薬がどのようなメカニズムで間質性肺炎を引き起こしているかは、実はまだ明らかになっていません。しかし、もともと肺線維症があるなど肺の状態が悪い方や、肺だけでなく全身の状態が芳しくない方が間質性肺炎を引き起こしやすいことが明らかになっています。

現在はこのような症状を持つ患者さんに対して、分子標的薬の処方を控えるようにしています。処方する患者さんを絞ることで間質性肺炎を引き起こす割合はかなり減りましたが、それでも処方したうちの5%ほどの割合で間質性肺炎を引き起こす患者さんがおられ、なかには致死的となる場合もある重大な副作用です。

分子標的薬の副作用を和らげ、コントロールしていくためには他の診療科、薬剤師、看護師との連携を強め、チームで患者さんをサポートしていくことが大切です。

たとえば分子標的薬を服用すると皮疹が強く生じることがあります。特に爪囲炎(そういえん)といって爪の周りの炎症が足の爪に生じたりすると、痛みで歩行が困難になることもあります。

皮疹が強く生じている際、必要なのは皮膚科医師による専門的な診療や塗り薬の処方、薬剤師・看護師による正しい薬の使い方の指導です。このように複数の診療科やコメディカルスタッフと力を合わせ、患者さんをマネジメントしていくことで、患者さんも少ない苦痛で治療に臨むことができます。

さまざまなアプローチで副作用を緩和しようとしても、症状がよくならない場合には、分子標的薬の量を減らしたり、同じターゲットに効く別の薬を処方したりするなどして、その患者さんに合った薬の量や種類を模索します。そのようにコントロールすれば、ほとんどの患者さんに対し、少ない副作用で十分ながん治療を行うことができます。

分子標的薬は基本的には内服薬での治療がほとんどですので、治療の場は基本的に外来となります。

しかしその一方で、通院での治療となると患者さんご自身のセルフコントロールが重要となってきます。薬を忘れず飲むことを遵守し、副作用の管理などを自分自身で行わなければなりません。副作用の対応などの指導のため、分子標的薬の開始時に患者さんに入院していただくこともあります。

分子標的薬の一番の課題は、多くの患者さんで服用から1年前後で対象となる遺伝子が耐性化し、薬が効かなくなってきてしまうことです。現在は分子標的薬が効かなくなった段階で別の分子標的薬や抗がん剤治療に切り替える方法が一般的にとられています。

分子標的薬の今後の課題として、耐性メカニズムの解明とそれに応じた新たな分子標的薬の開発があげられます。原因がはっきりすれば対策の立てようもあります。同じ薬を使っても、薬が効かなくなる原因は患者さんによって異なる場合が普通ですので、将来的には1人1人の患者さんごとに薬が効かなくなった原因をはっきりさせて、それに応じた治療を考えていくことが当たり前のように行われていくようになることが期待されます。

分子標的薬は抗がん剤と同じく、がんを根治させることは難しいのですが、適した患者さんに対しては抗がん剤より少ない副作用で治療することができます。分子標的薬が更に進歩を遂げていけば、いずれがんが「発症してすぐに命を落とす病気」ではなく、「共生して5〜10年と生きていける病気」になっていくことでしょう。

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