おきた内科クリニック院長/沖田 英明 先生
健康診断で血圧やコレステロール、血糖値の異常を指摘されても、体に不調がなければ、つい後回しにしてしまう人は少なくない。しかし、自覚症状のないまま静かに進むその変化こそが、将来の大きな病気につながっていく。
広島県でプライマリケアに従事する、おきた内科クリニック院長 沖田 英明(おきた ひであき)先生は、「人は血管とともに老いる」という古くからの言葉を手がかりに、症状がないうちから生活習慣病と向き合うことの意味を語る。なぜ早めの対策が大切なのか、話を伺った。
生活習慣病の難しさは、多くの場合、はっきりとした自覚症状がないところにあります。血圧が高くても、血糖値やコレステロールの値が基準を超えていても、痛みや苦しさを感じることはほとんどありません。ですから、健康診断で指摘を受けても、「今は困っていないから」とそのままにしてしまうことがあります。
けれども、症状がないことと、体の中で何も起きていないことは、まったく別です。血圧や血糖値が高ければ、たとえ自覚症状がなくても、血管には少しずつ負担が積み重なっていきます。気付いたときには、すでに変化がかなり進んでいた、ということも珍しくありません。だからこそ、自覚症状の有無だけで判断しないでいただきたいのです。
医学の世界には「人は血管とともに老いる」という言葉があります。カナダの医師ウィリアム・オスラーの言葉で、私はこの考え方を大切にしています。年齢を重ねることと、血管の状態は深く結びついている、という意味です。
血管は、全身に酸素や栄養を届ける大切な通り道です。その血管が硬くなったり、内側が狭くなり傷んだりしていく変化を、動脈硬化といいます。動脈硬化が進むと、心臓や脳をはじめ、体のさまざまな場所に影響が及びます。
実は、動脈硬化は年齢を重ねてから突然始まるものではありません。血管の壁に脂質がたまる初期の変化は、子どもの頃からみられ、10歳代ですでに始まっていることがあります。こうした変化が進むと、血管の壁に脂質などが蓄積した盛り上がりである「プラーク」が形成されます。症状がなくても、若いうちから血管の変化は少しずつ進んでいることがあるのです。
だからこそ、動脈硬化の進行をできるだけ穏やかにすることが、大きな病気を遠ざけることにつながります。そして、その動脈硬化の主な危険因子が、高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病です。これらと早くから向き合うことが、血管の健康を守る第一歩になります。
とはいえ、「将来のために気をつけましょう」といくら言葉で説明を受けても、なかなか実感がわかないものです。症状がないのですから、なおさらでしょう。そうしたとき、血管の状態を目に見える形で確かめられると、向き合い方が変わることがあります。
たとえば、血管の硬さを調べる検査や、血管の内側の厚みを測る検査があります。
その結果を数値や画像で確認すると、自分の血管がいまどんな状態にあるのか、イメージがつきやすくなります。
また、検査は現在の状態を知るだけでなく、その後の変化を確かめるためにも役立ちます。生活習慣の見直しや治療によって、血圧やコレステロールなどの値に加え、血管の硬さを示す指標が改善することもあります。
検査結果の推移をグラフなどで確認することは、取り組みを続ける励みにもなります。こうした「見える化」は、生活習慣病と向き合うきっかけの1つになると考えています。
生活習慣病への対策で何より大切なのは、早く始めることです。動脈硬化は、いったん進んでしまうと、もとの状態に戻すのは簡単ではありません。だからこそ、まだ大きな変化が起きていない段階から、食事や運動などの生活習慣を見直し、必要に応じて治療を始めることが大切です。
早めに手を打てば、それだけ血管の健康を長く保つことができます。そのことが、動脈硬化による心臓や脳の病気を防ぐことにもつながります。
健康診断での数値が気になっている方、あるいはしばらく検査を受けていないという方は、症状がなくても一度ご自身の生活習慣を振り返り、必要に応じて医療機関に相談してみてください。「自覚症状が出てから」ではなく、「症状のない今こそ」。その意識が、将来の健康を大きく左右するはずです。
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