八王子クリニック/八王子クリニック 新宿 理事長:井藤 尚文先生
痔の手術というと、大きく切って、痛みに耐えながら入院する。そんなイメージを持つ人は少なくない。しかし、痔の治療方法は100年以上をかけて進歩を重ね、今では日帰りで受けられる手術も広がりつつある。
かつて行われていた 「患部を周囲の組織ごと切り取る」手術から、治療方法はどのように変わってきたのか。八王子クリニック/八王子クリニック 新宿の理事長・井藤 尚文(いとう ひさふみ)先生に、その歴史的変遷と現在地について伺った。
いぼ痔(痔核/じかく)は、肛門(こうもん)のまわりの細い血管がうっ血してこぶのようにふくらむ、いわば人類が直立歩行を始めたことによる宿命的な病気です。その手術は19世紀半ばに発展し、19世紀後半には、痔核のある部分を肛門上皮や粘膜とともに切除する「ホワイトヘッド法」が考案されました。 確実な処置ではあるものの、肛門本来のはたらきが損なわれることがあり、入院も長期に及びました。
その後、1930年代には、痔核へ血液を送る動脈をしばって部分的に切除する方法が登場します。切る範囲は小さくなりましたが、傷を縫い合わせずに開いたままにするため、術後の強い痛みや、傷の治りの遅さという課題が残りました。
痔の手術が「痛くて、入院が必要なもの」と考える風潮が根強いのには、こうした背景があります。
なぜ、痔の手術は痛く、入院が必要だったのか。理由は大きく2つあります。1つは、余分な皮膚まで切るために傷が大きかったこと。もう1つは、痔核の奥にある直腸の近くは出血しやすく、安静が必要だったことです。
この2つの壁を越えるために、さまざまな改良が重ねられてきました。
大きな転機は2005年、痔核に直接注射をして硬く縮める方法で、切らずに治療できる選択肢が加わったことです。
こうした進歩を背景に、切除する手術と注射による治療を組み合わせ、切る範囲を抑える方法も行われています。痔を1つの塊としてまるごと切り取るのではなく、部位ごとに状態を見極め、それぞれに適した方法で対応するという考え方に基づいています。
具体的には、肛門の開け閉めに欠かせない皮膚はできるだけ残し、たるんで余った皮膚や粘膜だけを必要最小限の範囲で切除します。一方、最も出血が心配される直腸の近くにはメスを入れず、注射で固める(痔核を硬化させる) などして対応します。このように、部位に応じて方法を使い分けます。
現在では、痔の状態や選択する治療方法によっては、日帰りで手術を受けられる場合もあります。ただし、すべての方が日帰りで治療できるわけではなく、入院が必要かどうかは医師が個別に判断します。
こうした進歩の根っこにあるのは、「肛門の機能をできるだけ守る」という考え方です。
痔は、命に関わるがんなどとは異なる良性の病気です。一方で、肛門は排便をコントロールするという生活の質にかかわる大切なはたらきを担っています。治療によってこの機能が損なわれれば、その後の生活の質は大きく変わってしまいます。
だからこそ、痔を大きく取り除くことだけを目的とせず、必要な部分を見極めて肛門のはたらきを残しながら治療するという発想が重視されるようになってきました。
出血や痛みが気になるときは我慢せず、早めに医師へ相談してください。
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